第2話 『少女の物語の開幕〜勇者の幼馴染は小説家になりたい〜』

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♢

「デイビッド♡起きたのか♡」

「メリル!?どうしたお前!?」

主人公であるシャーロットが絡んできた盗賊の1人であるデイビッドを吹き飛ばし、その後なんやかんやあってデイビッドの意識が戻った。
ちなみに、そのなんやかんやの間でメリルは語尾に♡を付けるようになったことを補足しておく。

「いってぇ……クソっ、てめぇがやったのか!殺すぞ!」

「やめておけ……デイビッド。……俺らは見逃してもらったんだ……」

愉快な盗賊たちの一人であるティオが、拳を握りしめたデイビッドを止めた。

「ティオ!だけどメリルが変になってやがるんだぞ!?こいつが何かしたんじゃないのか!?」

「いやこれはロビーのせいだ♡このお嬢ちゃんがメモとってるんだが、俺らの口調が似すぎてるから分かりやすいようにしてんだよ♡」

「何やってんだロビー!?」

「………本当にな……」

愉快な盗賊たちが全員集合し、わちゃわちゃと騒いでいるのをふんふんと頷きながらシャーロットはメモをしている。
怪訝そうな顔をしているデイビッドに、仲間たちが状況を説明していく。説明したらしたで意味が分からないという顔になった。そりゃそうだ。

シャーロットはふと何かを思い出したかのように、顔を上げてデイビッドの方を向く。

「デイビッドさんに質問なんですが」

「はぁ?俺に?」

「赤ちゃんってどうやって出来ると思います?」

「は?そんなの天国にいる赤ちゃんたちをコウノトリが運んでくるに決まってんだろ」

ブフォッ!!と愉快な盗賊たちは笑う。ここまで一切喋っていないスウェンも笑っているのを見て、声は出るのか、とシャーロットはメモをした。

「恋人ができたらしたいことは何ですか?」

「そ、そりゃあ……手を繋ぐこと、だろ」

愉快な盗賊たちは笑いすぎてヒーヒーと腹を押えてうずくまっている。
一人話についていけないデイビッドは、困惑しきった表情だ。
デイビッドは盗賊たちの中で一番純粋。赤ちゃんはコウノトリが運んでくるだろうと思っている。───本当にその通りだった。実に面白い。
キャラクターが魅力的であってこその小説だ。参考にさせてもらおうとメモをした。

「とっても良いです!ぜひ小説を書く際に使わせてください」

「はあ??」

♢

「本当に俺らを捕まえないんだな♡変なやつだな♡」

「今のメリルがそれを言うのかよ?」

「ちょっと待て♡お前らさっきから俺の事をヤバいやつ風に見てくるけど、こうなったのはロビーのせいだからな♡」

「へいへい。で、シャーロットちゃん、本当にいいのか?」

シャーロットだと名乗り、そう呼んでもらうようにシャーロットはお願いした。
その後色々なエピソードを聞き出し、シャーロットはほくほく顔だ。少し困ったのは、ロビーとデイビッドの話し方が似ているので、メモを見返した時にどっちがどう喋ったのか分からなくなりそう、ということだけである。
メリルのように語尾になにかつけて欲しい、と言ってみたが拒否された。そのことを1番不満そうにしていたのはメリルだった。

「何がです?」

「ほら、俺たちは盗賊で一応シャーロットちゃんのお金を狙ったわけだし、奴隷にしようとしたんだ♡町役場につきださないのか♡?」

メリルの発言に、ぱちぱちと瞬きをしたあと、シャーロットは考え込む。

「うーん……わたしはそういうのはとくに。わたしは勇者じゃないですから。自首しに行くなら連れていきますけど」

そう言うと、何か思いつめたような顔をして、ティオは俯いた。シャーロットがそのことを不思議に思い、聞き出そうとする前にティオは口を開く。

「……今日のことで……思ったんだが………俺らは、盗賊に……向いていないかもしれない……」


少し、静寂がその場に宿った。

メリルがその雰囲気を壊すかのように、わざと茶化して話を合わせる。

「めっちゃ純粋のデイビッド、バカのロビー、語尾に♡をつけている俺、喋らない置物状態スウェン、じめじめティオ♡確かに芸人の方が向いてる気がするな♡」

「俺の名前の……あとに……♡をつけるな……キモイ」

メリルは、少し慌てた様子でティオを見ている。
5人は元々同じ村出身なのだという話を聞いた。
古くからの友人だと、言葉のイントネーションや表情から何となく感情がわかる。シャーロットと、ゼドのように。
ティオとメリルの会話に、ロビーが割り込むような形でぽつりと言葉を落とす。

「盗賊に向いてなくても、辞めたくても、3回だ。3回もお金を奪った。───俺らは、もう犯罪者だ」


静寂の音が聞こえるほどに、誰も何も言えなかった。

木がざわめく音だけがした。

思い詰めた顔をし始めた仲間たちを焦ったように見ていたメリルだったが、彼も顔に暗い影を落として、泣き出しそうな、その1歩手前のような目をして。

「一番最初がシャーロットちゃんだったら、間違えなかったのにな」

そう、言った。


シャーロットとたくさん話をした。故郷の話、両親の話、かつての友の話をした。盗賊たちはそれぞれ思うところがあったのだろうか。

だいぶ経って、静寂を切り裂いて、けれど暗い雰囲気は変わらず、誰からともなく言葉を落とし始める。

「犯罪を起こしたら目立つところに墨を入れられる。そうなったら冒険者に戻っても依頼が来なくなるし、他の職業には就けない」

「盗賊始めた時は気にしてなかったのにな…」

「顔見られちまってるからな…もう街では指名手配されてるかもしれねえ」

メリルの語尾からすっかり♡は消え失せて、メモを見るともう誰が何を言ったのか分からない。メモを見ながら、シャーロットは思う。
最初に邂逅した時と、同じだ。
物語に出てくるモブの発言は誰が言ったのか分からない。違いが分からない。生い立ちも分からない。キャラクターとしての個性を削ぎ落とし、盗賊であることしか分からなかった、あの時と、同じ顔をしている。

たくさんの話を聞いた。
目の前の盗賊たちは、メリルとロビーとティオとスウェンとデイビッドだ。盗賊である前に、彼らは一人の人間で、ここまで生きてきた道があって、人との繋がりがある。

シャーロットは、何故だか分からないが───何だか、すごく、焦る気持ちがあった。焦るという言葉はあまり近くないかもしれない。色々な感情が揉みくちゃになっている。


「あの、私の護衛を、やりませんか」

言葉が、口の端から零れ落ちた。
シャーロットは自分で自分の発言に驚いた。頭で考える前に、口を通って飛び出した、感情による言葉だったから。


───後から思い返してみると、それは、運命を変える言葉だったのかもしれない。



#創作大賞2023

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