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昔出会った「男にしか名刺を渡さないおじさん」の話


少し前に、元鈴木さんが「車を買いに行ったら、ディーラーが夫にしか名刺を渡さなかった」ということを投稿して話題になった。読んだ瞬間、かつて遭遇した男にしか名刺を渡さなかったおじさんのことを思い出した。

●男にしか名刺を渡さなかったおじさん

ネットメディアの人たちとの小規模な飲み会での話だ。先に来ていた20代後半~30代前半の女4人が飲んでいたところに、突如参加することになったおじさん(初対面、40代くらい)が入ってきた。おじさんと連呼するとやや属性への悪口みたいな感じが出てくるのでAさんとしよう。Aさんと我々の間には直接的な仕事のかかわりはない。仕事モードというよりかは知人モードで進んでいた飲み会は、和やかに盛り上がっていた。

そこに、遅れてきた友人の男がやってきた。彼は大手出版社に勤めている20代後半の男性だ。Aさんと彼も初対面だが、所属の関係でうっすらと縁がある。Aさんは彼と軽くあいさつし、彼の今の所属を聞き、オッ……という感じで名刺を取り出した。ごくごく自然なふるまいで彼と名刺交換をし、スッと名刺入れをしまった。

あまりにも自然な流れだったので、そのときはちょっとしたモヤモヤがかすめただけで、何が違和感とも思えなかった。飲み会が平和なままお開きし、家に帰るまでの道を歩きながらようやく、モヤモヤの正体に気付いた。Aさん、男とだけ名刺交換をしていきよったな……と。

《あと私が名刺めちゃくちゃ欲しい人みたいな言い方してくる人いるけど名刺を渡す=あなたとビジネスをしますよって意味でしょ!私が欲しかったのは名刺じゃなくてリスペクトだって言ってんだよ(元鈴木さんのTwitter)》

元鈴木さんが言うように、別に名刺という紙の物体そのものが欲しいわけではない。名刺を交換した数にそんな価値はないし、仕事のやりとりはメールや電話以外でもFacebookやLINEなどのメッセンジャーでもするようになっていて、重要な仕事をする相手とは名刺がなくてもつながっていることがほとんどだ。紙切れには意味がないけど、でも「名刺交換」という行為自体にはまだまだ日本社会では意味がある。

Aさんはあのとき、意識的にか無意識的にかはわからないが、男(と大企業の社名)にだけビジネス的なリスペクトを向けた。……という話をすると、「単純にビジネスに役立つかどうかを判断したんだろう」と言われる気がするし、実際そうなのだろうが、「明らかに差をつけてるし品定めしてますよ」というのを飲み会でオープンにしてしまうのも社会人的にいかがなものか。というか、詳しくは言えないけど、Aさんの仕事はむしろ私やその場にいた女たちのほうが直接的にかかわりがありそうな感じであったのだが、でもAさんには、彼しかビジネスの相手にはならなかったのだろう。

(やや話はずれるが、フリーライター時代にも似たようなことがあった。取材をセッティングしてもらったインタビューの際に、媒体の編集者と取材対象者や担当者が名刺交換し、「じゃあ、インタビュー始めましょうか!」となったことが何度かある。「もうあいさつタイムは終わりです~」という空気になったときに、「あっすみません私もごあいさつさせてください~」とささっと名刺を取り出すのには、ある種の空気の読まなさが必要だ。別に名刺を渡したいわけではないのだが、「ライターの○○さん」ではなく「よくわかんないけど媒体が連れてきた人」として1時間インタビューをするのは、なかなか透明人間の気持ちを味わえる。場において立場が相対的に低い人間は、こうやって空気になることがある)

これは裏を返せば、男の人にも必要以上の負担と期待がかかっている、ということになると思う。そこまで仕事関係ない飲み会でも名刺を配って仕事につなげなきゃいけない。常に仕事相手としての見定めを受けなきゃいけない……のかな?

その辺は、男性に聞かなきゃわからない。名刺を渡された彼に「AさんYOUにだけ名刺を渡してたよ」と伝えたら、「僕が来る前に名刺交換終わってるもんだと思ってた」と言っていた。まあそうですよね。さらに「キャバクラしぐさだと思う。キャバクラで出会ったちょっとした同業者にやあどうもどうも…と名刺を配るおじさんがいる」という謎文化についても教えてくれた。

まあキャバクラしぐさはおいても、目の前にいる初めて会った年下の女の子が、メチャクチャすごい経営者だったりする可能性も今後増えてくるわけで、もし無意識に名刺を渡す相手を選別していると思わぬ損をするかもしれない。ということをいつかAさん……自身にはもう会うこともないと思うので、Aさんのような人に再度遭遇したら伝えたい。

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