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「失礼なタクシー運転手」はまだ透明人間

『無礼な人にNOと言う44のレッスン』を読みました。韓国のWebメディアの女性編集長によるエッセイ集で、韓国フェミニズムのエッセンスが入っています。

韓国フェミニズムは『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本でも大ヒットを飛ばしていて、日本のフェミニズムシーンにも大きな影響を与えています。もともと日本ではフェミニズムをテーマ/モチーフにした本はなかなか売れないという状況があって、にもかかわらず13万部を突破しているということは、普段フェミニズムについて語らない、あるいはフェミニズムについて意識をしていなかった人にもリーチしているということでしょう。

『キム・ジヨン』は小説であって、描かれている韓国社会は日本社会と似ているようで違います。私は読んでいて「アメリカで撮られたすごく出来のいいSF映画で描かれる日本みたいだな」と感じました。「多くの点で共通点があるけれど、(兵役など)かなり大きな点で違いがある」という意味です。『キム・ジヨン』が日本でもヒットしたのは、翻訳小説の文体とそうした差異によって描き出される韓国社会が、日本の読者には生々しいが生々しすぎない、少し距離をもって、もっと普遍的なテーマとしての需要ができるものになっていたからなのではないかと思います。※逆に言えば、韓国社会ではものすごい生々しさをもって受け止められたろうと思います

韓国のフェミニズムシーンについてざ~っくり理解するには『私たちにはことばが必要だ』がすごくいい本で、なぜこのタイミングで韓国でフェミニズムムーブメントが盛り上がっているかがわかります。この本はフェミズニムについて語るときに遭遇する典型的な「黙らせよう」とするふるいまいに対し、「黙らない」ための言葉をケーススタディで紹介する本です。この本を読むと改めて「韓国という国は、男性に兵役義務がある国なんだ」と実感します。儒教の影響もデカいですが、この兵役の影響がま~~デカく(そりゃそうだろうなと思いますけど)、それがゆえに男尊女卑思想、そこからくるフェミニズム、さらに押し寄せるバックラッシュがあると感じます。

韓国のフェミニズム本を読むとき、多くの読者は(というか私は)日本で起こっていることを理解しやすくするために読んでいます。韓国の状況を鏡のようにして、「じゃあ日本ではどうなんだろうな~」ということを考えるきっかけにしているのです。というわけで話は冒頭の『無礼な人にNOと言う44のレッスン』に戻ります。

韓国では37万部を突破しているというエッセイです。フェミニズム本というよりは、ガールズエンカレッジ本といったほうが正確ではある。いまざくっとググったら白石麻衣の「パスポート」とか「腐女子のつづいさん」とかが35万部突破していました。でも純粋なテキストエッセイでそんなに売れるのは日本でもなかなかない気がする(そこまで売れちゃうともっと売れちゃうというのもあるが)。

章立てが「無礼な人に笑顔で対処する方法」「ネガティブな言葉に押しつぶされない習慣」「自己表現の筋肉を育てる方法」「いい人をやめる」「見過ごしてきた慣習にNOと言う」とあります。幡野泉さんの訳者あとがきによると、邦訳時に「日本の実情とそぐわないと思われる点については一部割愛しました」とあり、章を入れ替えるなど構成を変え、かなり日本読者にわかりやすいパッケージの本になっています。

とはいえ、やはり読んでいると、「わかるな」と思うところと「これはなんかちょっと違うかもな~」というところが7:3~6:4くらいかなという印象。むしろ韓国社会で働くってこういうことなんだな、というのがメインの面白さでした。

という「違い」を面白く読んでたところで、こればっかりは100%一致する、一致しすぎて「なんでけっこう社会が違うのにこんなに一致してんの???」とビックリしてしまったのが、noteのタイトルにしている「失礼なタクシー運転手」問題です。

「わからないから、耳を傾けてみる」の章で語られている失礼なタクシー運転手の話。ちょっと引用します。

乗るたびにかなりの確率で不親切な運転手に遭遇し、ドキドキと心臓が高鳴るのをどうすることもできない。便利さを求めてタクシーに乗ったのに、もやもやした気持ちのまま支払いをすることになる。政治的な話題をふっかけ論争しようとする人、怒鳴りながら話す人、荒っぽい運転をする人、私的な話をしつこく尋ねてくる人など不親切な運転手にもいろいろだが、いずれにしても、これらの対処は本当に難しい。
そんな記憶が積もりに積もったある日、タクシーに乗ったときの経験について話題にしてみた。女性は共感しながら、自分もタクシーに乗ったときに不快な思いをしたことがたくさんあると言ったが、興味深かったのは男性と話したときのことだ。ほとんどの男性は、タクシーに乗ったとき不快な思いをしたことがないと言い、不思議だった。

失礼なタクシー運転手あるあるは、仕事帰りにタクシーに乗ったことがある女性のかなり多くの数が経験があることだと思う。別にタクシー運転手にVIP扱いを求めているわけではなく、お金を払っている分は人間として扱ってほしいだけなんですね。

例えば私は大学時代深夜1時まで働く新聞社バイトをしていて、帰りは会社が手配するタクシーに乗っていた。そうすると、半年に一回くらいは説教をしてくるおじさん運転手がいた。「こんな深夜に帰ってきて、女の子がダメだよ」とか「親御さんは心配してるでしょ」とか「女の子はこんな時間まで働かなくていいんだよ」とか。こういうのは100%無視するのがいい(スマホを見て聞こえないふり)と今ではわかっているが、当時は「親も理解してくれているんで…」とかつい返事をしてしまい、さらに「でもさ~俺も親だからわかるけどこんな遅くに帰ってきたら仕事やめろっていうね!」とか帰ってきては~~~~(疲労が全身を支配する音)という感じになる。

男の人(特にガタイのいい男の人)は、こうした地味にいやな気持ちになるタクシー運転手との遭遇率がかなり減る。いろいろな人と話すと、「中韓系の悪口を振られる(中国人は本当にマナーが悪いですよね~的なやつ)」に遭遇するケースはいくつかあったが、仕事について言われる、自分の家族の話をされる、などのケースはあまりないようです。タクシーの運転手も相手を見て話しているのでしょう。

というような話をインターネットでしていると、「結局タクシー運転手を少し下に見ているからそういう風に感じるだけじゃないの?」などとエアリプをされたりする。これは本当によくあることで、駅で女性にばかりぶつかる男性、エスカレーターで前の女性を蹴る男性、などに遭遇し、それをインターネットに書くと、「急に立ち止まるからだ」などと言われたりする。もちろんそういうタイミングもあって、そのときは謝るけれど、「そういうことじゃないんだよ…」というレベルの人は存在している。でもたとえば動画に撮ってインターネットに投稿したりしないと、一部の人には「見えない」。

もう一回『無礼な人に~』を引用する。

話をしていて、タクシーでの不快な経験がない人には二種類のタイプがいることに気づいた。一方のタイプは「自分はそういう経験があまりないけれど、そんなこともあるのか」と、よく耳を傾けてくれるタイプ。よくわからないけれど、わからないながらも理解しようと努力してくれる人。もう一方のタイプは、こんな言葉で私を黙らせる。「ええ? そんなはずないよ。おまえが考えすぎなんじゃないか?」「どうしてそんなおかしな人にばかり出会うんだろうな。そんな人、いないよ」

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青柳美帆子

編集・ライター。現在はアイティメディアという会社で「ねとらぼGirlSide」というメディアを担当しています。好きなものは少女革命ウテナと麻雀。noteでは「よく暮らすこと」「Webメディアの話」を書いていきたいと思っています。

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