駐妻は働くなの話

駐妻。昭和を感じさせる響きである。私もとある国で最近まで駐妻していた。日本の多くの会社では駐妻(駐夫もいることは重々承知しているが、ここでは妻にフォーカスを当てる。)の就業をなんと禁止している。
夫の転勤についていくだけでキャリアを断念し不安定な身分に甘んじざるをえないことについて不満を抱える駐妻さんも多く、SNS界隈ではそれが人権侵害に当たるとの指摘も見られる。
私もその意見に賛成で、自分でも周りにいる諸外国の妻たちが働く中、引け目を感じたりもしていた。早く仕事をしたかった。

けど最近はそれと違うことを感じている。

身バレしないことを願いたいんだけど、私は駐在員の帯同家族(主に妻)に対して行われる「帯同者研修」なるもので、現地生活の心構えのほか、人事部の担当者からこんなお願い事をされた。何かというと、「駐在先では駐在員である夫にもかなりのストレスがかかるため、それを支えてあげてくださいね」だ。
唖然とした。いい年をした大人である夫を捕まえて、私に支えろという。私は当時乳飲み子を抱えていたので、何を甘えているんだ〜!甘えたいのはこっちじゃ〜!!と思った。
これは論外で、そのお願いを鵜呑みにする義理はないと思った。
だって、多くの家庭でもう夫婦共働きは当たり前、それに応じて家事の分担は当たり前だからである。

だが、蓋を開けてみると少し事情は違った。まず、海外の職場というのは日本の労働基準監督署の管轄外、労働組合の手の及ばない先である。夫はとんでもなく遠い職場で長時間勤務を強いられることになり、家事や育児に参加することは物理的にできない状況になった。

この状況は私を苦しめた。
ちょうど海外の物価上昇により友達とつるむのもお財布の事情が気になるようになっていた。1人で育児の責任を負う息苦しさから、幼稚園に子供が通うわずかな時間でオンラインの仕事が受けられないか模索したこともある。前の月の稼働できたであろう時間を元に仕事を探した。その時は子供が熱を出したため、使えた時間はわずか72時間であった。(日中)

もうね、この時の夫婦仲、最悪。

だが、恩恵もあった。
うちの会社が、か分からないが駐在員の子女が通う学校や幼稚園の学費はほぼカバーされた。他の外国人はと聞いてみると、皆家賃や学費、病院の保険料、全部自分たちで払っていた。もちろん駐在員側はそれを含んだ給料をもらっているなどの恵まれた組織にお勤めの方もいたが、妻も学費のために必死に働いているケースも少なくなく、私たちは少なくともそういった生活の基盤にかかるコストを考えなくても良いようにできていた。そもそも、日本の駐在員にまつわる制度設計は、「海外でも日本と遜色ない暮らしができるように家族みんなをマルっとサポートしますよ」なのだ。

だが、そのマルっとサポートされていることをつい忘れがちなのだ。
もちろん、妻が働かないと食っていけないほどの待遇しか会社が用意していない場合もあるだろう。だが妻の就業を禁止する日本的会社の文脈では、それは妻が働いて工面すべきものではなく、会社が負担すべきものなのだから、会社に足りないと堂々と申し立てれば良い。それが嫌なら駐在を蹴って帰国すべきだ。

もちろん、生活を畳んで海外に来ている以上簡単に帰国するなんてことはできない。事前にできるだけ、会社の待遇と現地での生活費のシュミレーションをしっかりとやってから、オファーを受けるかどうかを決めるべきだ。重要なのは夫だけで転勤を受けずにこうしたシュミレーションを家族でして、交渉もし、家族まるごとが乗れる船であることを確認してから船出すべきである。それが妻の就業禁止の代わりにのむ最低限の条件である。

ただ、海外駐在ついて行ってみると蓋を開けてみれば、の連続である。こんなはずじゃなかった〜!現地の生活、思ったよりお金がかかる。私だって日本で働いていたのに、どうして夫のためについてきて夫の顔色を伺いながらお金を使わなきゃいけないのか。夫は時間がなくストレスを溜めがちだし。

だからこそ、交渉しましょ。交渉。そのお金の半分は権利はあなたです。そう思ってるから会社が駐在員に高い給料払ってます。生活費が高いなら、あなたが切り詰めるんじゃなくて給料上げろって旦那に言わせましょ。ついでに勤務時間もなんとかしろ、離婚するぞって言いましょ。

何かというと、すぐ自分でなんとかしようとする癖をやめて。日本で駐在員を送る会社はまだ余力があります。交渉しましょう。
そうでないと、会社は長時間労働を社員に押し付けたまま妻の就業を認めることで社員本人の給料を下げるようなことが罷り通ってしまう。そんなの地獄…。

ただ、私の周りでは現地採用に切り替え働く人から、オンラインで日本の会社から給料をもらって働く人など様々な駐妻さんに出会ってきた。自分というものがしっかりしていて、清々しい人たちだった。働くことはもらえる給料以上の価値があると私も思う。
かくいう私も次回があれば現地で働いてみたい。

なんの話って話になった。駐妻は生活費のために働かなくていいよってことと、働くなら100%自分のためにしようね。(ただ、ビザには抵触しないようにね。生活費は会社持ちね。)