三つの輪

その年のケーニヒスベルクの冬は寒かった。アルルは震える手をポケットの中に入れながら、川に掛かる橋を渡り、家へ帰る途中だった。パン屋さんの娘だった。でもライ麦パンが嫌いだった。だからずっとパリに憧れていた。パリのパンは美味いんだろうな、とずっとそんな妄想にふけていた。本を読むのが好きな彼女は学校から家に帰って、少し店のお手伝いをすると、残りの時間は上階にある自分の部屋で、暖かいコーヒーを飲みながら眠くなるまで蝋燭の火のもとで本を毎晩読んでいた。
ある雪が降り続ける寒い日の早朝のこと。いつもより早く起きたアルルは町がいつもよりも静かだなと思った。パパとママの部屋に行こうとしたが、ドアがあるはずの場所には壁があるだけだった。
階段を降りて、店があった場所へ行くと、そこには何の装飾もない空間があっただけだった。不思議に思った彼女は、辺りを見渡した。すると、床には一つの金の輪っかが落ちていた。ポケットの中にそれをいれ、外に出た。
雪が積もった町は美しく、なんだか神秘的だった。学校へとりあえず向かおうと彼女は思った。
いつもの橋を渡ろうとしたとき、その真ん中にピアノが置いてあることにアルルは気付いた。彼女はピアノが好きだったが、ちゃんと習ったことがなかったので、目の前の鍵盤をどう弾けばいいのかわからなかった。白い鍵盤と黒い鍵盤を交互に弾く。同時に弾くと変な音がする。隣の鍵盤を押さえると綺麗な響きになるが、そればかりだと退屈だ。一つ飛ばしで弾くと嬉しくなったり、悲しくなったりする。ちょっと数学みたいだな。
ピアノに夢中になっていたアルルは、後ろにいた何かに気付くまでかなりの時間がかかったのだった。
「おはよう、お嬢ちゃん。とても美しい旋律ですね。その華麗なる曲はなんていう曲なのか教えてくれる?」
そこには杖をついた異国風の老紳士がいた。
「あなたは誰?」
「オリヴィエとでも呼んでくれ。魔法使いさ。お嬢ちゃんはパリに行きたいのだろ?」
「え?なぜそれを?」
「世界は今終焉に近づいている。力がある者のみこうして存在していられるのだ。この町をみよ。プロイセンで最も栄えてる町だと聞いたが、誰一人として街角を眺めてもいない、君を除いて。」
「どういうこと?みんなはどこに行ったの?」
「そんなことはどうでもいいじゃん。どうせすぐ忘れる。それよりも、この町はもうじき消えてしまう。早くパリへ行こう。」
オリヴィエとなる老紳士は杖を振った。アルルはピアノを弾き始めた、自分の意思とは裏腹に。
「え?どういうこと?」
「君の力を少しだけ引き出しただけだよ。」
その旋律は凜と張り詰めた空気の中に響き渡り、隠れていた哀しみや絶望を、荘厳に清めていく。悲しい方の一つ飛ばしから始まるその10音ほどのメロディーは少しづつ変化していき、同時にかすかに聞こえる喜びのメロディー。
いつの間にか黒鍵ばかり弾いてた。遠くへ来てしまったみたい。
パリやん。わー、パリに来てしもた。
うぇーーー。
ゲロ吐いた。
酒の飲み過ぎで変な夢見てた。

そう。語り手は実に信用ならぬ30歳のダメ男だったのです。
えーー??そんなんいやや、また可愛い女の子に戻してよーーー…
ごめんなー、史実は史実なもんでーー…あとさー、可愛くなかった可能性もあるでー…
確かに…

あー。なるほど。世界ってそういうことやったのね。ハーレルヤ。なんか泣けてきた。お前になんぼ嫌われようと、俺は相変わらず阿呆な、なんぼ幸せでリア充やってても阿呆な、うん、逃れようのない阿呆な、そう、ギリシア的美男子もロリ系美少女もどこにもおらん、この世は醜いアリンコだらけの地獄やねん。でもな、そいつらは知性を持ってて、そしてすごい哲学やら音楽やら小説やら、気色悪い妄想全開で作っていくねん。これは全地球人共通や。東京人も京都人も別府人もアメ公もチャイニーズも、ジャーマンも、マーズマンも(あー、これはたぶんな)同じやねん。みんな気色の悪い妄想で芸術を作るんや。
はいはい。私は見た目綺麗なみんなから愛されてる究極完璧最高のアイドルです、お前らと一緒にしないで下さい。
ふふふ。ならば食らえ、散弾銃!
おーーーーー (death)
死んだ。それもばらばら。グロい、俺的にはもう君は美しくなんかないね。だから同士さ。さぁ仲良くしよう。
【霊体】おのれ、我が美しき肉体を壊したな。許さぬ。
○いや、君はなにも変わっておらぬ?
【霊体】なに?
○魂を持っている以上文学、音楽、哲学、その他もろもろ、なんなら淫夢とかそういうスカムでもええよ。君には表現することができる。
【霊体】は?お前気が狂ってるだろ。
○みな狂ってる。俺は当たり前のように人を刺して殺すのが好きだし、殺人兵器が大好き(特にatomicなものはうつくし)、ロリータ、同性愛、その他諸々、戦時中のあかんやつ、飢餓状態になったときの危険思想、宇宙人に脳味噌吸われたときの刹那的快楽と絶望、全て持ってる、いや、君も持ってる。
【霊体】あーーー?キモイキモイキモイキモイ…コンナキチガイニナンデコロサレナアカンネン…
○いや。君は生きている。なぜか?だってこれは文章上の出来事に過ぎないからね。勘違いするな。私は決してreal worldでの狂気を推奨してるわけではない、特にその発散は。
【霊体】はー?もーーー、お前マジ死ね、キモいし、言ってることわけわからんし…ほんまなんやねん…
○いいねーー。erectioする寸前だったわ…お…失礼。魂の命乞い、それも全然死んでない魂、幻覚剤で死を体験してるのかgenuineなdeathなのか、わからないよねwww。でもね、あのね、こうして意思疎通できてる時点でね、君はね、生きてるの、どうしようもなく、救いようもなくね、わかる?ほら、自分の心臓のパルスを感じる?それもわからないない?なら性器を触ってecstasyを感じなさい。わかった。
【霊体】いや、イヤ…お前、マジでキモい…あ、でも。おれ、いや、わたし、いや、僕…なんか、今…すごく生きてるかも…え?なんで?
○それはね。君の話をネタに僕は本当にどんどんドゥンドゥン気持ちよくなって、素晴らしい芸術に仕上げてしまって、しまいには地球が、いやこの銀河系が消えてしまっても不滅なくらいに絶対的な生に仕上げてしまったからなの。
【レイタイ】はぁっ?え?いや、もうシニタイ。いやだ。こんな姿で生きてくのイヤだ。
【霊体】僕俺私あたしぼくウヌラアタクシの言うことはもうないね。君は完全なる生命体だ。絶対的に生きている。少なくともあと50、60年は生きるだろう。ははは、味わいたまえ、これが生きるということだ。
【れいたい】…
【霊体】あっ!?ケーニヒスベルクのあの少女は?
○それは君でもあり私でもある。そう。私は君の影【シャドー】なのだ。
【霊体】2023年現在ケーニヒスベルクは…あ?

カリーニングラードでピアノ弾いてる少女がいた。名前はアルルと言うらしい。どうやらメシアンの曲を弾いてるようだ。早熟な天才がいるものだ、ヨーロッパには。やれやれ。私はパスタを食べてあの娘の旋律をこの譜面に写生しよう。
おー。なんと躍動感のある旋律、これはまさにロマン派のタマシイ、イイネ、ホントニイイネ、ジツニイイネ、ブラームス?ブルックナー?ちょっとだけワーグナー?それとももしかしてドビュッシー??イヤー〜〜堪らない…これがほんまもんや…ヨーロッパはだからええんやな。せっかくやからロシア式の熱狂を見せたまえ。
少女は悟った。豪快に弾くフォルティッティッシモの5拍子の主題。繊細過ぎる展開…いいね…これを待ってたのだ。

そのキモいクラオタやろうが悦にひたってる間に、いつの間にか少女はクラオタの後ろに立っていた。

あれ…曲が止まった…次の曲は?

「D.C.って書いてあったけどね、冒頭部分はなぜか…プロイセン?という国にあって、譜面の続きが続きがわからないの…」

え?あ?曲が止まるとどうなるの?

「あなたも私ももうこの世界には居られなくなるかしら。」

そんな馬鹿な。う…視界が歪んでいく…見えなく、聞こえなくなっていく…これが死か…

「そうかもね。では特別にサービス。fredric chopinのpiano sonata no.2を弾きましょう。あ、とは言っても私もそろそろ帰らないと行けないので第3楽章だけね」

は…

気付くと俺はカンガルーノートを読みながらカンガルーノートの冒頭のような棺桶に入ったまま虚無へと消え行く妙な体験をした。

目が醒め…

た。アンフェタミンを飲んで、なんとか醒めた。が…

【あかん、なんか変な二つの選択肢出てるやん。まるでギャルゲーみたいな感じで。ケーニヒスベルクに戻れと、あともう一個は?…残りの二つのリングを探せ?…そんな馬鹿な、それは幻覚だったんじゃないのか…】

俺は目が醒めた。どの選択肢を選んだかは覚えてない。でも今、こうして東京のやや東の方で、なんだか日常らしきものが始まってる気配を感じる。fine。

【エンドロール】
声優
かな○みか
うち○まぁや
音楽
いろいろ
ED
幻想ぽろりネーズ 作曲者 しょぱん.P 作詞 hentai 演奏 藤子Fフジオヘミオ
協力
プロイセン
パリ
東京

超監督

ちよじ





後日談…
やっぱり三つの輪っかなんかなくても生きて行けたわ。ごめんね。

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