昔ながらの、という甘え
わたし中小のしょうゆ会社で働きはじめて半年なんですけど、地方の中途半端な大きさの醸造メーカーの凋落を知るとともに、日本人にとって最も身近な調味料のこと全然知らないでいるなーと感じています。
昔ながらの家庭の味ってどんなイメージですか?
しょうゆは大豆と小麦と塩で作るなんか発酵した液体調味料だーってのは一般常識レベルですが、これ1つ1つのメーカーが丹念に発酵させて作ってはいないんです。大手メーカーや、作りにこだわる小規模の蔵(←試み、ブランディングも素敵だなと思うのでわたしも何か関わる仕事したい)は麹作りから仕込んでるんですが、だいたいの中小メーカーでは、県ごとに置いてある協業組合が仕込んだ、生揚(火入れ前の醤油)を購入し、各々でいろいろ味付けして火入れして、名前をつけて売っています。(どうしてこの方式なのかはまた書きます。)
大学で酒作りとか微生物を学んだ人間としては、醸造による個性を醤油にも求めたかったので
「うちは昔から〇〇さんの醤油!」っていうのは、「〇〇のお酒はおいしい」とはまた違った、「造り」ではなく「味付け」の問題だったのか…と驚きました。
九州の醤油は甘い、と言われていますが、その地域ながらの特徴もここからきているわけです。食文化の特徴として興味深い点です。
多様性として、守っていきたいものですが、その「味付け」について気になっている点がありまして、
↑はしょうゆに使用してもよい添加物一覧です。(しょうゆ情報センター)
あくまでイメージの話ですが、しょうゆ=発酵=からだにいいものとか、発酵とか好きな人は「無添加」も好きそうという印象があったりします。
スーパーに行って、醤油のコーナーで、大手メーカーではなく小さいメーカーの安めの醤油の表示見てみてください。調味料、甘味料、保存料、意外と色々入ってます。
わたしは、添加物は悪!だとは思っていないですし、むしろ美味しくて安全なものを手軽に食べたいんだったら使用すべきだし、消費者の欲に答えた研究と開発の結晶だと思っています。
しかし、しょうゆの場合は少し話が違う気がしています。
しょうゆに使用されている甘味料にサッカリンがあります。これは他の調味料では使えないのですが、しょうゆだけ使えます。防腐剤のパラオキシ安息香酸(パラベン)もほかの食品に使われてないです。むしろ保存料不使用の槍玉にあげられているやつです。正直体に害はないのか?と疑問に思う面があります。
しょうゆは昔々から各々の家庭の味を作ってきた背景があります。
各メーカーは美味しい醤油を作ろうと様々な味付けを行いました。添加物の規制が厳しくなったのはその後でしょう。メーカーは各々の味を崩すことができません。家庭の味として定着したしょうゆだから、消費者は少しの変化でも気づくでしょう。
ただ、美味しければ添加物を使ったままでよい、という簡単な話ではないと思います。添加物を使い始めた頃とは時代が違うのです。わたしたちはどこからでも簡単に情報にアクセスできますし、選ぶことができるようになりました。現にうちのメーカーで売り上げが伸びているのは無添加の味噌です。添加物の有無というのは逆に商品を選ぶわかりやすい指標になっているのです。
添加物を使わなくする、というのはできないことではないと思います。ただ、レシピを変えること、保存料を使わなくて大丈夫か検証するには時間とメーカーの体力が必要です。
おそらく、今の中小メーカーにはその余裕が無いのです。昔からこうだったから、ということに甘え、みないふりをしてここまで来てしまったのではないかと思います。
しょうゆのような地場産業は国策として守られてここまできています。協業組合も、許されている添加物もそうだと思います。
開発の偉い人に、消費者は添加物なんてみないし見てもわからないと言われました。そうでしょうか?
これまで支えてきてくれた消費者を馬鹿にしすぎだと思います。そして消費者は馬鹿ではありませんし、今の消費者は与えられたものを買うのではなく、選んで買っています。(安かろう悪かろう路線もありますが)
より良いものを選ぶ力を身につけた消費者は、国と違って地場産業を守ろうなんて考えてないと思います。
家庭の味にはどんなしょうゆを求めますか?
これまでと変わらない味で何十年も、生きていけるのでしょうか。
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