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ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.22)

 リリースペースにこちらの投稿ペースが追い付かなくなってきていますが、音楽家のゴンドウトモヒコさんのソロ名義のアルバム、Vol.22の感想です。その他、吉澤嘉代子さんのライブを観に行ったという日記など。
 ソロアルバムに関する公式情報は以下を参照してください。


Vol.22『Lullaby』

配信リンクはこちら

 2024年3月9日リリース。穏やかな作品が並んでいるのでは、と思うようなタイトルだが、蓋を開ければエレクトロからロック、中にはヒップホップテイストのトラックまでをも横断しつつ、総じてビートがはっきりしたものやギターがアクセントとなっている楽曲が詰まっている。

 そんな本作は、パキッとした音色のフリューゲルが印象的なM-1「Sooner or Later」で幕を開ける。掴みはバッチリと言わんばかりのビートの強い曲で、序盤でリズムを刻むユーフォから、ドラム、電子音に至るまで聴きどころは満載だが、2:20辺りからメロディとは別で入ってくるフリューゲルに注目したい。後方からしれっと入って来たかと思えばそのままアウトロの役割を担うのだが、左右を往来するような処理がされていて、聴いていてくすぐったい(イヤホンで聴くとより一層顕著だ)。少し酔いそうにもなるが、酔い覚ましというタイミングでM-2「Majestic Plan」が始まる。タイトルさながらアクション映画のワンシーンのような壮大な曲で、一定の緊張感を保ちながらあっという間に5分半が経過する。
 M-3「City of Desolation」は、一転して憂いを帯びたようなアンビエント作品だ。今までのソロではあまり聴いたことの無い、乾ききったような感触のフリューゲルが全編に渡って響くが、恐らくフリューゲルをミュートしてさらにエフェクトをかけた状態だと想像する(使われているミュートが、ワウワウなのか、ストレートなのか、カップなのかは分からなかった)。
 M-3の余韻を突き破るようにドラムがずかずかと入ってくると、M-4「Didge You」が始まる。以前、Vol.3『A Song without Words vol.3』にも「Did-you-read-and-do? #1」というタイトルのディジュリドゥがメインの楽曲が収録されていたが、恐らく今回もそのようなタイトルで、ディジュリドゥが炸裂する一曲だ。勢い良く突っ走る前半部分も良いが、中盤の1:26頃から始まるドープなダンスミュージックとも言えるパートこそが、ディジュリドゥの見せ場だろう。怪しげに鳴り続けるディジュリドゥと絡み合う、重心の低いリズムに身を委ねたい。
 M-5「Grimmm」はM-4のアングラな雰囲気からは打って変わって、日差しを思わせるようなギターが前面に出た穏やかな1曲だ。AとBしか無いようなシンプルな構成だが、ギターがしっかりと全体をリードしつつ歌い上げる様子は耳に残りやすく、本作前半のハイライトだと言い切っても良い。編成も、ギター2本に、ベース、ドラム、あとは中盤からオルガンのようなシーケンス音が聴こえる程度のシンプルなものだが、居ない筈のユーフォの音が聴こえてきそうな気配もある。
 アルバム後半は爽やかなテクノポップ、M-6「Things to Remember」からスタートする。伸びやかなフリューゲルの音色に、耳馴染みの良いコード進行、軽やかなテンポ感、曲全体を印象付けるシンセベース、2:14頃からの24小節間のブリッジ(ここで入ってくる水音も良い)など、どれを取ってもポップで、"pupaの権藤さん"と"METAFIVEのゴンドウさん"の"良いとこ取り"、のように私は思っている(因みに、時折入ってくるボイスサンプリングについては上手く聴き取れなかったので、また分かれば追記します)。
 M-7「PRAW」では前曲のキャッチーさは何処へやら。ノイズから始まり、電子音が少しずつ入ってくるが、次第にノイズと電子音の比率が逆転し、冒頭のノイズがサンプリングされたような曲へと変化する。7分を超える長さだが、前半の展開を終えて4:28頃から始まるパートに辿り着いた達成感と電子音の心地良さは何度体験しても良いものだ。
 次のM-8「JUNE1999」は、今までのソロワークスにはあまり無かったヒップホップテイスト、ダウンテンポとでも呼べば良いのだろうか。クラブジャズのディスクガイドで知った90年代半ばのUKの作品群と並べて聴いてみたくなるが、いざ並べてみると似て非なるもの、という不思議な感触。チルビートという呼び方もあるのかもしれないが、粒のはっきりしたウッドベースの16分のフレーズや、90年代っぽいスクラッチ音など、リズムに引っ掛かりのある感じは、"チル"くは無い。若しくはいっそ、チルビートのプレイリストに刺客として送り込んでみたい、そんな曲だ。いつになくリラックスムードのフリューゲルが揺蕩う前半部分は、何も知らずに聴けばゴンドウさんだとは気付けなかったかもしれないが、中盤以降のミュートしたユーフォかトロンボーンのフレーズは表拍からしっかり入ってくるのがゴンドウさんらしいと思う。
 M-9「Majestic Mistake」はBPMの速いテクノで、アルバム序盤から中盤の流れに再度立ち返るような曲だ。また、タイトルもM-2「Majestic Plan」と対になるようなものとなっている。今作はあまりそういう聴き方をしていなかったのだが、アルバムトータルでストーリー性を考えながら聴くのも面白いかもしれない。
 ラストはタイトルトラックでもあるM-10「Lullaby」。朗々と歌うユーフォとギター。過去のソロワークスにもこういったユーフォをしっかりと聴かせる曲はあるが、そこにエレキギターが入ってくるのは今迄に無いものだったので新鮮に思う。しかも、ギターが音量、音質共に伴奏以上の存在感を放っており、此処までの9曲の印象が少し霞んでしまうほど個性の強い1曲でもある。

 全10トラック、5トラックずつで分けるとするならばレコードでいうところのA面・B面共にギターが中心の曲で終わることになるのだが、ギターという楽器の引力は他の楽器の倍以上はあるようで、2曲だけにも関わらず、ギターの印象が強いアルバムだな、という聴き心地だ。5曲目に「Grimmm」が配置されているのも、ラストのタイトルトラックを引き立てる役割なのかもしれない。
 一方で、「JUNE1999」のように、少ないと思っていた横ノリの曲がひっそり入っているのが嬉しかった。そういう曲が聴きたいなら他所へ行け、と言われてしまうかもしれないが、私は、"ゴンドウさん流"のその手の音楽も聴きたいのだ。


吉澤嘉代子『Hall Tour "六花"』大阪公演(2024/4/19 NHK大阪ホール)

 さて、前回の記事以降の1か月の間には、ゴンドウさんがサポート且つバンマスを務める吉澤嘉代子さん(自分とほぼ同世代だし親しみを込めて、以下、嘉代子ちゃんとお呼びする)のライブに行った。此処では簡単に感想を残しておく。同ツアーの詳細については、東京公演のレポートが嘉代子ちゃんの公式サイトにアップされているので是非そちらを参照頂きたい。

 (2024/5/4追記)また、2024/5/1発行の愚音堂メルマガ103号にも、同ライブのレポートが掲載されている。登録すれば直ぐ読めるのと、LINE登録であれば過去のフィード投稿にてバックナンバーを遡り、これまでゴンドウさんが参加された嘉代子ちゃんのライブのうち幾つかのレポートを読むことができる。(追記ここまで)

 ゴンドウさんが嘉代子ちゃんの楽曲プロデュースや、幾つかのライブでバンマスを務めているのは知っていたが、嘉代子ちゃんのライブを初めて実際に観たのは昨年11月にタワレコNU茶屋町店で行われた、EP『若草』のリリース記念のインストアイベントだった。この時は嘉代子ちゃんソロでの弾き語りだったが、その歌声を間近で聴いて「これはワンマンを観なければ…」と思ってから約半年。本ツアーはゴンドウさんがバンマスだというのは勿論のこと、仕事に忙殺されて1月の若草ツアーには行けなかった悔しさもあり、迷わずチケットを確保した。
 とは言え、私は吉澤嘉代子ビギナーである。『若草』と今回の新作EPである『六花』、それに『六花』の初回限定盤に付属していた『赤青ツアー2021』のBlu-rayは観ていたが、まだまだ知らない曲の方が圧倒的に多い。ジャンルやアーティスト問わず年間30本~50本はライブを観る生活をしているので1曲も知らないライブに遭遇することは稀では無いが、それでも微かな不安が無かった訳ではない。

 だが、そんな不安は取り越し苦労だった。予想以上(勿論、嘉代子ちゃんの作品やライブのクオリティがとても高いであろうことは想像していたが)に満たされた気持ちになったライブだったからだ。

 先ずは、ゴンドウさんが率いるバンドと嘉代子ちゃんが作り上げたサウンド面について。本ツアーのバンドメンバーは、伊澤一葉さん、伊賀航さん、武嶋聡さん、君島大空さん、そしてゴンドウさんと、ドラムレスの編成だ。ドラムレスとは言え、トラックやシーケンス等も使いながらの構成なのだろうと勝手に想像していたら、1曲目の「みどりの月」で、早速音源とは違うアコースティックなアレンジに驚いた。と同時に、ゴンドウさんのユーフォの音を聴いて、ああ、全曲は知らないかもしれないけど、全曲に渡って私が知っているゴンドウさんのサウンドが聴けるんだ、と安心した。
 アコースティックなアレンジはほぼ全編に渡るもので、(エレキとの持ち替えもありつつ)伊賀さんのウッドベースや君島さんのアコースティックギター、伊澤さんのピアノで紡がれるリズムパートの上に、室内楽をも思わせるゴンドウさんと武嶋さんの管楽器が優しく響く。武嶋さんはクラリネット、フルート、ソプラノサックス、テナーサックス、ゴンドウさんはユーフォとフリューゲル。僅か2人で6本もの管楽器を演奏されるので、曲毎に楽器の組み合わせが変わっていくのも面白い。特にクラリネットとユーフォの組み合わせが、嘉代子ちゃんの歌声に寄り添うようで良かった。
 原曲からは離れたアレンジの曲も多く、上述の「みどりの月」のように新譜のリリースツアーだが、新譜収録曲のアレンジが変わっているというパターンもある。特に、ゴンドウさんがプロデュースを手掛けている「魔法はまだ」では、音源ではゴンドウさんがフリューゲルとユーフォを吹いている(※)が、本ツアーでは音源には無い武嶋さんのフルートがその旋律を奏で、ゴンドウさんはaFrameやPC操作のみ、というのが衝撃的だった。しかも、元がフリューゲルやユーフォといった楽器の音色だからか、フルートに置き換えても全く違和感が無かったのも新たな発見だった。
 因みに、私の位置からはゴンドウさんの全てのプレイやセッティングははっきりとは見えなかったのだが、ユーフォとフリューゲルに、aFrame、PCは1台のみ。キーボード類は無く、グロッケンも伊澤さんが叩いていたので無し。よくライブで使われているフリューゲルのワウワウミュートも今回は無く、シンプルなセッティングだったと思う。

これ以上近づけなかったので結局分からない部分もあるが、ゴンドウさんのセッティング。

 そんなサウンドと共に、言葉、世界観、物語、それを客席の隅々にまで届けるメロディと歌声、表情。嘉代子ちゃんはMCで「楽しい、優しい、苦しい夜」と話していたが、それらの言葉に収まらない些細な事まで表現していく様子を見ながら、一曲、一音、一言一句、その度に涙が流れそうで堪えるのが大変だった。何度も主張することでも無いが、私は吉澤嘉代子ビギナーだ。「手品」でハンカチを振るのだって知らなくて、代わりに「嘉代子が大好きタオル」を振った。この日初めて聴いた曲も少なくは無い。それなのに。
 また、歌という点においては、君島さんの声も各楽曲が持つ繊細さをより引き立てていたように思う。コーラスは勿論だが、嘉代子ちゃんとのデュエットとなった「ゆりかご」では、青い照明をバックに切々と歌う様子が目に焼き付いている。君島さんのその姿が印象的だったものだから、元は岡崎体育くんとのデュエットだと後から知って驚いた。

 前回の『若草』のリリースツアーと並んで、本ツアーのテーマは『青春』だ。自分の青春時代がどうだったか、振り返って涙するほどのものだったかは、ぼんやりとしていて思い出せない。思い出したくも無いのかもしれないし、或いはそっと抱えるほどキラキラしたものでは無く、実は今の友人付き合いとさほど変わらず(10年以上変わらぬ関係というのもありがたい話だ)振り返る必要も無いのかもしれない。そう思うと、嘉代子ちゃんの描いた青春を自分に重ねるというよりは、いわば疑似体験するような2時間だったのだが、それでもここまで胸に来る理由は何なのか。
 知らなかった曲を含むセットリストを眺めて、歌詞を読み、音楽を聴き、その答えを突き詰めるのも良いのだが、まだ少し怖くて、それが出来ない。
 一つだけ、アンコールが終わってバンドメンバーが全員はけた後の嘉代子ちゃんのMCで、はっきりと覚えている言葉がある。嘉代子ちゃんらしい言葉だったのかどうか、ビギナーの私には分からない。ただ、その言葉は、約10年前の自分に向けられているように思えたのだった。 

 ライブ本編のラストの「ゆとり」で青春には別れを告げたような構成だったが、ライブ終了後、そのまま谷四から地下鉄に乗ってしまえば30代の労働者としての自分の生活と対峙せざるを得なくなる気がして、南森町まで歩いた。こんなに余韻が残るライブを観たのは久しぶりだった。良い夜だった。

この他、上述の「嘉代子が大好きタオル」やステッカーを購入。
ドロップは、甘過ぎないのが、過ぎた青春のようにも思える。

※ 「魔法はまだ」はフリューゲルやユーフォの音が聴こえる、のだが、実際のゴンドウさんのクレジットは「編曲」及び「プログラミング」のみとなっている。あれ?じゃああのホーン類の音は一体・・・?
→(2024/5/4追記)こちらも愚音堂メルマガ103号のライブレポにて真相が明らかになりました。


ゴンドウさんがテレビにレギュラー出演?

 4月17日、愚音堂から以下のアナウンスがあった。5月1日からスタートとのこと。TVerでも配信があるみたいだし、面白そうなので追ってみようと思います。



 以上。この他にも、佐藤理さんとゴンドウさんのユニット「LIG」のリットーベースでのライブが配信視聴出来るなど、首都圏在住で無くても盛りだくさんな4月でした。