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ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.9~Vol.12)

 2023年5月分で遂に12か月連続リリースとなったゴンドウさんのソロアルバムだが、毎月追っているので感想を書くことにした。Vol.1~Vol.4はこちら、Vol.5~Vol.8はこちらに。
 公式のソロワークス特設サイトは以下。

 ここではVol.9から、2023年5月時点での最新作のVol.12までの感想を。私は自分の思った事と知っている事だけ引っ張り出してつらつらと書いているが、シンプルなディスクレビューを読んでみたい。私はまだまだ、音楽の事もゴンドウさんの事も知らなさ過ぎる。

Vol.9【Undercurrent】

配信リンクはこちら。Spotifyの場合は以下。

 2023年2月1日リリース。私が此処で書くまでも無いが、このアルバムがリリースされる約半月ほど前、あまりにも悲しい報せが舞い込んできた。本作のトラックリストと軽い説明書きを読めば、リアルタイムに制作されたアルバムだということが分かる。これらはいつもリリース日の数日前に公開されているのでこの時も事前確認はしたが、触れるのが少し怖いというか、生半可な気持ちでは聴けないな、と思ったことを覚えている。
 M-1のタイトルは[Dearest Mr.YT]。爽やかで少し切なくて、でも優しい。この曲を聴く度に、リリース前に「触れるのが少し怖い」と思ったことを申し訳なく思う。私は、こういう音楽が特に好きであり、それはゴンドウさんの音楽そのものでもあるからだ。曲が一旦終わった後、ラストの30秒ほどで繰り返されるフレーズには、少しだけ寂しさが残るように感じた。
 全編にわたってM-1のような曲が続く訳ではなく、本作には今まであまり考えたこともなかった「これをバンドサウンドで、ライブでやったらどうなるのだろう」と思うような勢いの曲が幾つかあり、M-2[Hallucination Turbo]やM-3[F.R.I.E.N.D.S.]、M-5[HardCocoa]がそれにあたる。回りくどい書き方をしたが、要はこの3曲を聴いた時に、METAFIVEが思い浮かんだのだった。いずれも勿論インストではあるが、とてもキャッチーなのだ。故に、ゴンドウさんのソロは聴いたことが無いというMETAFIVEのファンの方にも本作は届いてほしい。ただ、M-2に関しては全編にわたって鳴り続けているベース音がウッドベースのような音だからか、アレンジや使う楽器を変えればanonymassのようなサウンドにもなるのでは、とも思う。METAFIVEといえば【METAATEM】の[By The End Of The World](*1)は元々anonymassのレパートリー(*2)だそうだが、その逆の可能性がこのM-2には有り得るのでは無いか、と思うのだ。
 そんな、少しMETAFIVEが過るような曲たちと前後して、M-4[Evolve Love]やM-6[Amoniac]といったずっしりとした重さのエレクトロ作品も聴き応えがある。今までのソロワークスにも閉塞感や鬱々とした曲はあったが、妙に浮遊感があったり何処か乾いている部分があったりしてその軽さとのコントラストが却って不気味さを招いていた。でも、このM-4やM-6はもっとしっかりと重くて暗い印象だ。特にM-4は聴くのが少し辛くなるような重さでもある。また、M-6に関しては、(あまり他のアーティストを並べるのは両方に対して乱暴なのかもしれないが)D.A.N.の音楽に近いものを感じるのだが、そう感じる理由が分からないのはどちらのファンでもある自分としては悔しい。
 後半のM-7[Mnemonic Music]、M-8[Eupho Meets Gamelan]あたりでようやく比較的落ち着いて聴けるゾーンに入る。M-8はタイトル通りの曲だが、あまり何も考えたり案じたりせずに寄りかかれるようなユーフォの音が心地良い。
 ラストはM-9[青すぎた空]。最初は穏やかに始まるが、静かに前進するような強さがある。"それでも"前に進まなければならないという意志が感じられ…いや、前に進まなければいけないのは聴いている此方側も同様だ。
 本作をどのような想いで制作されたのか、想像する事すら私にはできないが、リリースから数か月経った今でも手放しで聴ける作品ではない。最初から最後まで聴くのに気力体力を要し、そう何度も繰り返し聴くことが出来ている訳ではない。そして、この文章もどう締め括って良いのか分からない。

 今の私に言えることは、幸宏さんとゴンドウさんが一緒に作ってきた音楽が、そして、幸宏さんと一緒に音楽を作ってきたゴンドウさんの音楽が、好きだということ。それだけだ。

*1…METAFIVE [By The End Of The World] (2021年作【METAATEM】収録)

*2…サンレコ2021年9月号掲載インタビューより。結局【METAATEM】の制作について知ることができるのは本誌だけだろうか。

Vol.10【tuning pressure (studio recording)】

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 2023年3月1日リリース。ソロワークスの中でもかなり聴きやすく、導入編としても薦めやすいのでは、と感じた一枚。
 幕開けを飾るM-1[河童の堵列]は、トロンボーンをフィーチャーした威勢の良い一曲。これまでもボーンが使われている曲はあったが、ここまで前面に出ている曲は初めてではないだろうか。この曲やソロワークスに限らないが、ゴンドウさんがボーンを吹く時は、ボーンにしか出来ないことを的確にやっているように思う。グリッサンドの効果的な使い方、発音の仕方、アタックの強さ、等だろうか、上手くは説明出来ないのだが…。ユーフォ奏者がボーンを使う理由を考えてみると、ボーンをメインで扱う奏者とはベクトルが少し違うことは明らかだろう。この曲でたっぷりとボーンの魅力を味わった後、別の曲でユーフォの使い方に耳を傾けるのも面白い。因みにこの曲は2月25日に行われた【The Last Day of Winter Live 2023】において演奏されていたそうなので、今後も何かしらの機会に生で聴けることを期待している。
 アルバムのタイトルにもなっているM-2[Tuning Pressure]はエレクトロな楽曲だが、何処かanonymassのようでもあり、チャーミングな奇妙さもある。"可愛いけど少し変"だが、タイトルトラックとして説得力のある曲だ。
 本作は久々にユーフォやフリューゲルの伸びやかな音色が心地良い曲が多く、M-3[Age of Blue]やM-4[Confiession]、M-5[Crocodile Tears]、M-7[いつになく嬉しい静寂とは]には、直近の作品ではあまり感じられなかった"平穏"な響きがある。M-3はソロワークス初期(Vol.1~Vol.4)では何度か耳にしたような穏やかでゆったりとした曲だ。M-4は中盤から入ってくるギターに注目しつつ、それに応えるというよりは支えるユーフォの仕事ぶりを聴き逃せない。M-5は曲調は違えどVol.4のM-2[Theme for SIX]を聴いた時のような、視界が開けるような感覚がある。M-7はアンビエント色もあるが、ほんのりとした暖かさにずっと浸っていたくなるような5分間だ。
 これらの曲に挟まれているM-6[CROSS]はインタールード的な立ち位置だが、今までのソロワークスではあまり浮かんでこなかったpupaでのゴンドウさんの曲(*3)を思い出す。軽快で柔らかなホーンもまた、ゴンドウさんの操るホーンらしさの一つであり、僅か1:39なのがもどかしいが私は本作ではこの曲が一番好きだ。
 穏やかな中盤を抜けて、後半のM-8[Waiting for New Horizon]は展開がはっきりしたテクノ楽曲で、特に4:12辺りからはエンディングのようで感動的だ。ただ、アウトロが少し不穏なのが引っ掛かるが…。続くM-9[Flow]は少しCM曲のような印象を受ける。イントロはサウンドロゴのように、本編はFMラジオのトラフィックインフォメーションのBGMのように感じるのは私だけだろうか。
 ラストはM-1の別バージョン、M-10[Music for Psychoroman]で締め括られる。威勢の良い曲もメロディーだけ抜き出すとこうも神秘的になるものなのか、と気付く。同じ曲の別バージョンが収録されると、少し劇伴を聴いているような気分になる。
 いつもよりも親しみやすく、かと言ってジャンルが偏っている訳でも無く"いつも通り"バラバラな10曲が並んでいる本作。最初に聴いた時は「こういうの珍しいな…」とも思ったのだが、不穏な曲が少なく、長い曲も無く(最長でも6分台)、エレクトロニクスとホーンの融合のバランスの良さも際立っている。冒頭にも書いたが、ゴンドウさんのソロを聴いたことが無い人に薦めるのであれば間違いなく本作を挙げたい。
   
*3…ホーンは使われていないが、pupaの2008年作【floating pupa】のイントロダクション的な曲 [Jargon -What's pupa-]が思い浮かんだのだった。

Vol.11【G55】

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 2023年4月6日リリース。ソロワークスだとVol.6、あと私はあまりしっかりとは聴き込めていないのだがムジカ・ピッコリーノにも通じるような作風だと思うが、全く同じかと言われるとそうでも無いし…と首を傾げてしまう。
 オープニングを飾るM-1[Fanfare for G55]を聴いた時点で、前月、前々月までとは全く毛色の違う作品にすっかり迷子になってしまった。このペースに慣れるべく続くM-2[02_見上げれば月が]、M-3[Kantara]と聴き進める。M-2は少し不思議だけどホーンの音が優しい。M-3に何処かanonymassっぽさを感じるが、迷子気分はまだまだ抜けない。
 M-4[悦びの深奥]はユーフォの厚い音の層が柔らかくて心地良く、M-3までで?マークだらけになった脳内が少し落ち着く。他の楽器や打ち込みが入っておらずユーフォだけで演奏されているのは、ソロワークスの中ではこの曲だけではないだろうか。多重録音ではあるが、ブレス音まで聴こえるぐらいの生の質感に、作曲家・プロデューサーよりも"ユーフォ奏者"としてのゴンドウさんの姿が重なる。同時に、この不思議なアルバムの中で本人の姿が見えたことに少し安心する。
 なのに、M-5[Funny Visitor]の軽快なリズムで再びよく知らない世界に連れて行かれてしまう。聴き終わった瞬間、思わず「なんや、この曲…」と呟いてしまったのだが、何度聴いても同じ感想を口にしてしまう。何なんだ、この曲は。勿論disではなく誉め言葉である。
 かと思えば今度は、悪い夢でも見ているかのようなM-6[TV mania]に、1分未満のドラムンベースのM-7[The Pebble]、と目まぐるしく変わる曲調に惑わされる。とにかく落ち着く隙間の少ないアルバムだ。
 M-8[石と水の間に]は直線的なフリューゲルの音色が響くが、生音なのに無機的に聴こえて少し不気味だ。全13曲中8曲目なのでまだ中盤とも言えるが、まだまだこの旅は終わらないのだな、と思うような着地点の掴めない曲でもある。
 場面転換の忙しなさはまだまだ続く。いきなりボーナスタイムが始まるようなM-9[Joyful Cricket]が嵐のように過ぎ去り、ディジュリドゥとユーフォが静かに低い位置で交差するM-10[at dusk]、ミュージックソーのような奇妙な音が主旋律を奏でるM-11[記憶のワルツ]までを聴き終わると、この"振り回されっぱなし"の旅を楽しんでいる自分が居ることに気付く。そして、M-12[巡礼者]は複数の楽章で構成されているかのような9分を超える曲だが、終わり方に"ゲームオーバー"を感じてしまう。よく分からないなりに、せっかく此処まで辿り着いたのに…。  
 ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分からないままM-13[O.D.A.]が始まるが、この旅に終わりなんて無いのかもしれないし、そもそも旅ですら無かったのかもしれない。知らない世界に放り出されて先の展開も読めず、音楽的な側面にはまだフォーカス出来ていないのも事実だ。とは言え、面白さ、滑稽さでいうと本作が抜きんでていることは間違いない。この滑稽さがどう作られているのか、繰り返し聴くことで紐解いていくのも今後の楽しみだ。

Vol.12【Snafu】

配信リンクはこちら。Spotifyの場合は以下。

 2023年5月4日リリース。月次リリースも遂に1年、の12枚目。タイトルの【Snafu】とは"Situation Normaly All Fucked Up/状況はいつも通り全てがめちゃくちゃ"という意味らしい(*4)。リアルタイムな心境を投影したのかとも勘ぐるようなタイトルだが、最近の作品が多いのだろうか。情報が無いので何も分からない。
 M-1[序]は冒頭からいきなり14分にも渡るドラムンベースのような疾走感のある曲だ。ただ、音圧がそれほど強くないのか、それともベースがあまり動かないからか、ビートに追い立てられるような印象は無くむしろヒーリングミュージックのような風通しの良さがある。続くM-2[United Suspicion]もM-1からの疾走感を引き継ぐが、こちらは朗々と歌うように鳴るボーンが特徴的だ。また、ウッドベースのようなベース音には少しだけ残響があり、ジャストで鳴らされる打ち込みとの差によってさらに際立って聴こえているように感じる。ゴンドウさんの音楽の説明として最も多く用いられるのはエレクトロニクスとホーンや生の演奏や質感との融合という部分だろうけど、融合した結果のバリエーションはあまりにも広いということが分かる1曲だと思う。
 M-3~M-5は[O.D.A.2]、[O.D.A.3]、[O.D.A.4]と、Vol.11のM-13[O.D.A.]とシリーズになっているのか同タイトルが付けられている。だが、本作の[O.D.A.]はVol.11とは違い、いずれもダンスミュージックとしても通用するような曲ばかりだ。M-3はファンクっぽい横ノリが気持ち良く、もしこれを生のドラムに置き換えたらどうなるだろう、という想像も広がる。M-4は再びドラムンベースの曲だが、M-1やM-2よりも少し重心が低めで、這うようなベース音がクセになる。M-5はまたもや12分という長さの曲だが、次々と展開していくので全く飽きない。特に6:55頃以降のパートには前向きなメッセージが込められているようにも受け取ることができ、LinkCoreのアルバム説明に書かれていた内容が重なる。
 「何もめちゃくちゃな事なんか無いし、むしろ凄くまとまっていて感動すら覚えるけどなあ」等と思っていたら、アルバムのタイトルトラックでありラストのM-6[SNAFU]は、想像以上にめちゃくちゃだった。こういう曲は今までに無かったという感想も書き飽きるほどに毎月新しい発見ばかりのリスニング体験を繰り返しているが、それでも敢えて書いておく。"こういう曲は今までに無かった"。
 コンセプトを抜きにすると、クラブ使いも出来そうな曲が多く(と言っても私はクラブで音楽を使うような立場では無いのでよく分からないが)、Vol.10ほどバラエティ豊かでは無いにせよ、エレクトロニクスやテクノやハウスを聴く層にもフィットする作品だと思うので、そういう方にはお薦めしたいアルバムだ。  
 一方、もう一度アルバム全体を通して見てみると、どれだけ緻密に組み立てたものでも、めちゃくちゃになる瞬間がある。それでも良い、壊れたものから今度はまた新しいものを組み立てて、生きていく。そんな意味合いがあるのかもしれない。めちゃくちゃな状況から、次はどんな作品がリリースされるのか。もう1年経ったのか、だなんて感慨に耽る暇は、ゴンドウさんにも聴いている此方にも無いのである。

*4…2023/4/27のご本人のツイートより。

Vol.9~Vol.12を聴き終えて

 聴き終えてというよりは、いつもぼんやりと「この曲好きやな」とか「この曲良いよな」と思っていたことを言葉にしてみると、毎月のように聴いているのに未だに「こんな事書いたことなかったな」という感想が次々と出てくる。例えば、私は散々ホーンにフォーカスして聴いていたつもりだったが、トロンボーンの使い方が良いだなんて感じたのはVol.10以降だった。一体どれだけのアイデアがあるのだろうか。
 また、自分の中に参照できるデータベースがあまり無い事を少しもどかしいとも思い始めている。他のアーティストやジャンルであれば点と点が繋がる感覚は何度も経験しているが、ゴンドウさんの音楽に対してはそれがあまり無い。分かる人が聴いたらどう聴こえるのだろうか。他の人の感想が知りたい。

 あとはやっぱり、CDでのリリースはしないのだろうか、と思う。言うのは簡単、なのかもしれないけれど。せっかくなのでCDでも聴きたいし、手元にも置いておきたい、と思うんだけどなあ。