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ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.19)

 音楽家のゴンドウトモヒコさんのソロアルバムの感想、Vol.19編です。普段から(ゴンドウさんの作品に限らず)アンビエントは言葉にしづらいと考えているうえに電子音響に関する知識も無いため、リリース当初は「今回はnoteはスキップかな」等と考えていたのに、結構長くなりました。
 公式情報は以下からどうぞ。本記事投稿時点ではVol.20がリリースされています。


Vol.19『EX.A.M.M』

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 2023年12月2日リリース。2023年最後のリリースは、90年代前半にボストンでストリート活動をされていた時期の楽曲群で、実際にカセットで販売していた作品とのこと。これまでも、Vol.5『mostly Euphobias』Vol.7『about Boylston street』など90年代前半~半ばの作品で構成されたアルバムはリリースされていたが、今回はインダストリアルなアンビエント作品に特化されている。前月(Vol.18『Euphobient Music』)の、あらゆる側面が詰め込まれたあの人懐っこさは何処へやら。しかし、特定の時期の特定の音楽性の作品群を再生することで、約30年前の若き音楽家と向き合うことが出来る1枚だ。

 冒頭のM-1「Prt One_1#.7」の曲頭から早速、ひんやりとした冷たさを感じるシーケンスが繰り返されるのと並行して、唸り声のようなユーフォが鳴り響く。いきなり鮮やかさや光とは無縁の世界に閉じ込められるような曲だが、中盤から重厚な低音のうねりが押し寄せてきた頃には、深海を彷徨うが如く本作そのものが持つ世界に潜り込んでいる事に気付く。
 無機質なシーケンスと重くどっしりと響くユーフォの組み合わせは本作全体を通した特徴であり、M-1を聴いた時点で離脱を試みるリスナーも居るかもしれないが、それを引き留めるかのように何処かで聴いたことのあるメロディが聴こえてくるのがM-2「Prt Two_1#17」である。恐らくソロワークスVol.4『A Song without Words vol.4』のM-9「Euphobia#7」のバージョン違いで、M-1よりもメロディアスなユーフォの音に束の間ホッとする。しかし、「Euphobia#7」と比べるとそのユーフォはやはり重く、シーケンスの音は鋭利になっており、同曲の持つ雄大さとはかけ離れている。
 M-3「Prt Three_1#.23」やM-4「Prt Four_1#.9」は再び、無機質な空間の中で、ユーフォの音だけが鳴り続ける。M-3は、水音と水面を照らす光を表すような電子音により、少しだけ明るさを取り戻すような時間だ。その下でのユーフォの静謐な響きは何処か基礎練習のようにも聴こえ、電子音楽とユーフォを専攻していたというかつてのゴンドウさんの姿が想像できる。一転してM-4では何かが軋むような不気味な音が繰り返され、不穏な気配に付き纏われることになる。
 折り返し地点となるM-5「Prt Faive_1#.13」は、シンギングボウルのような音を使うことで瞑想音楽のような色を本作に加えている。また、ユーフォのオリエンタルなフレーズも印象的だからか他の曲よりも聴きやすく、本作のハイライトの1つだろう。約30年前の作品とはいえ、今だからこそ受け入れられるであろう音楽だとも思う。
 M-6「Prt Six_3_16#.12」ではまたもや不穏さが漂い、まるで幽霊でも出てきそうな曲だ。3分前後から奇声のような音が発せられており、恐らくユーフォから出ているのかと勝手に想像しているが(*1)、真相は如何に。
 静かに聴いていられるのはここまでで、M-7「Prt Seven_#10#.17」が始まるといきなり、耳をつんざくようなノイズに襲われる。ノイズの向こう側にある音楽は意外にも穏やかなものに聴こえ、まるで別の世界のようだが、次第にノイズとの共鳴へと移り変わっていく。続くM-8「Prt Eight_1#.11」もノイズが前面に押し出されている。こちらもM-7と同様にノイズの向こう側には別世界が広がるが、聴きたくても聴かせてもらえない。或いは、綺麗な世界を見ようとしているのに、現実が邪魔をしてくる、とでも例えるか。
 ラストのM-9「Prt Nine_1#.15」は、シーケンスとユーフォが並行で全く別の音楽を奏でる。固定電話のプッシュ音のようなピコピコとした音が耳から離れないにも関わらず、その一方でユーフォのまろやかな音色にも耳を奪われる為、バランス感覚を失いそうになる。さらにシーケンスとユーフォのキーの不一致がこの違和感を加速させる。しかし、この奇妙な感覚も、曲が進むにつれて何故か慣れてしまうのが恐ろしい。

 他のソロワークス作品とは違い、リスナーとしてもひたすらに「音」に集中することになる本作。音の海に深く沈み込んでいくと、当時の事など何も知らないのに、ボストンの街角でユーフォを抱えてパフォーマンスをしている(今の私よりも若い)彼の姿を本当に観てきたような気がしたのだった。
 果たして30年前がどうだったかは知らないが(物心がついていないので)、今はまたカセットがそれなりに売られている時代の筈だ。私自身も、カセット専門店でアンビエント作品を買うようになった。今、本作がカセット専門店に並んでいたならば、きっと30年前にはまだ生まれていなかった人たちも手に取るだろう。ソロワークス作品は配信限定リリースなのが勿体無いと都度思っているのだが、今回は特にそれを考えざるを得なかった。いつかリリースしてほしいと願う。


*1…ユーフォをプリペアード化したらあの音が鳴るのだろうか、と想像する。或いは、チューニング管を1本抜くだけでも妙な音は鳴ると思う。試してみたいが、沼の深そうな世界でもある。以下は昨年のツイートだが、30年ぶりということは、本作が制作された頃もプリペアード・ユーフォを演奏されていたのだろう。