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ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.13)

 2023年6月リリース分で13作目となった、音楽家のゴンドウトモヒコさんのソロ名義のアルバム。今回も感想を書きます。前作迄の感想はこちら。公式のソロワークス特設サイトは以下。

Vol.13【Vortex of Blue】

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 2023年6月2日(*1)リリース。本作は'00年代以降に某企業のイメージ映像向けに制作された楽曲群で構成されているとのことで、いつになくスタイリッシュな曲が並ぶ印象だ。
 M-1[黄昏の隅で我が祈りを奏で]はゆったりと神秘的に始まる冒頭部分こそ今迄も聴いた事のある感触だが、次第に、他のソロワークス、特に90年代の作品が中心となっているVol.5やVol.7の内省的なイメージとは対照的に、視界が開けていくような場面転換が行われている。この1曲を聴いただけでも、今回は外向きのオープンな楽曲が続くのだろう、と想像できる。
 続くM-2[TAO]は、まるでM-1は助走だったと言わんばかりに、16分で動くベースラインが程良い疾走感を生む1曲だ。女声のコーラスや後半部分の転調、どれをとってもポップな印象だが、特に前者は曲調こそ違えどVol.4のM-2[Theme for SIX]ととても似ているように思うので、是非併せて聴きたい。また、M-3[Mountain]にも同様に女声コーラスが入っているが、スキャット部分がanonymassで使われているようなフレーズでファンとしては嬉しくなる。anonymassがアルバムを出していた頃と同時期の制作なのだろうと想像する。
 M-4[Pulse Drive]は本作のリリース前日にご本人がツイートされている(*2)が、Vol.10のM-9[Flow]の別バージョン。[Flow]を聴いた時にまるでCM曲のようだと思ったのだが、その感想はあながち間違いでは無かったらしい。そういえば、[Pulse Drive]では聴けないが[Flow]の冒頭にはサウンドロゴのようなフレーズがあり、あの音を少し解体して再構築したようなフレーズ(こういうのを音楽的には何と言うのかさっぱり分からない)がVol.1のM-7[Phonico rattling movement]の後半部分で鳴っている事に最近になって気付いた。こういう発見があるので、過去作を何度も聴き返すのは面白い。
 アンビエント色のあるM-5[Small Valley]にもコーラスが入っているが、目立つ訳ではなくあくまでもユーフォと同じように響くポジションだ。このコーラスと、暖かくも少しざらついたユーフォの質感が、ひんやりとした電子音とのコントラストを生んでいる。M-4まで、そしてM-6以降もBPMの速い曲が多いからか、まるで休息ポイントのような楽曲だ。
 M-6[Dochaquizm]やM-7[Franging Friend]はフリューゲルの音色が気持ち良い。M-6ではエキゾというか北欧っぽい音に呼応するような大らかさや、リズムを刻みながらも柔らかい音色が楽しめる。M-7ではギターと共に晴れ渡る青空を描くかのような伸びやかな響きが広がっている。いずれも何処か"広さ"のようなものを感じるのは、コードを示したり空間を埋めるようなパートが必要最低限しか鳴っていないからだろうか。音楽的なことはよく分からない。あと、この爽やかなポップさによってpupaを思い出したのはきっと私だけではないだろう。
 M-8[Wind]はM-7までで描かれたイメージからは一転して翳りのような色が出ており、絶えず刻まれるベースとリズムによって少し緊張感がある。ただ、こちらもそれほど音数が多くないからか必要以上に迫りくる様子は無い。M-6やM-7はpupaを思い出したが、M-8はどちらかというとYMOやMETAFIVEに近いかもしれない。M-9[Her Dancing Style]はコーラスというよりボイスサンプリングと呼ぶのか分からないが、混沌とした印象だ。天候で言えば、晴れていたかと思えば急に夕立が来るような忙しなさ。ただ、ここまで聴いていて本作には何処となく"よそ行き"感を覚えていた為、この混沌っぷりこそがゴンドウさんの作品だろう、と思ったのも正直なところだ。
 そして、M-10[Volcano]では本作前半で見られた爽やかさはすっかり消えてしまっているが、全12曲の中で私が一番好きなのはこの曲である。いや、今年に入ってからリリースされたソロワークスの曲の中でも1、2を争うぐらい好きかもしれない。因みに1、2を争うもう1曲はVol.8のM-9[Dear Material]なのだが、やはり生音のような質感が好きなのだと思う(生音のような、と書いたのは、本当に生の楽器の音なのかそれに近い音を入れているのか私にはよく分かっていないからだ)。だが、[Dear Material]とは違って生音の暖かさや柔らかさはなく、並行して鳴っている電子音によって引き立てられているのか、むしろ生だからこその無骨さによって閉塞感やくぐもった空気が漂っていて、前作のVol.12の楽曲に近いようにも思う。全く違う系統の音楽を引き合いに出すのだが、ウッドベース(のような音)をはじめとした生音の冷たさに触れ続けていると、イギリスのGondwana Recordsからリリースされているようなミニマル~エレクトロニカを横断しつつも生楽器の音を入れているバンドの作品と並べて聴いても面白いかもしれない、とも思った。
 終盤のM-11[光降るまで]は嵐が過ぎ去って、夢か現か分からなくなるような静けさが訪れ、雲の切れ目から光が差すような絵が浮かぶ。そして、M-12[Ending Flow]は再び青空が戻ってくるかのようなエンディングだ。 
 全体を通して天候の移り変わりを思い浮かべるような流れのアルバムで、偶然6月のリリースになったのかもしれないが、梅雨時に聴くのにうってつけのすっきりとした楽曲が多かった。ただ、試聴段階(毎月リリース前に試聴可能となったタイミングでチェックしている)では「シュッとした曲が多いなあ」という印象だったのだが、いざ聴いてみると、やはり何処か素直では無いというか一筋縄ではいかないことに気付く。そして、その素直じゃない部分にお気に入りの1曲を見つけてしまった自分の感覚を見つめ直すことが出来るのも面白い。もう13枚目、計137曲も聴いているのに、まだまだ新しい発見だらけである。 

*1…この日はビルボード大阪にてゴンドウさんも参加されている蓮沼執太フィルのライブがあった。終演後にサイン会がありご本人とお話できるチャンスもあったのだが、リリース直後故にまだ本作は聴けておらず、特段感想をお伝えすることも出来ずサインだけ頂いてきてしまった。

*2…当該ツイート。この少し前にファンの方から、同じ曲の別バージョンかとの問いかけがあったのだが、リアルタイムでそのやり取りを見ていたので面白かった。

おまけ: 愚音堂メルマガ92号のインタビューについての感想

 2023年5月31日に配信された愚音堂メルマガの92号に、ソロワークス1周年を記念したインタビューが掲載されている。無料とはいえメルマガ購読者のみが読めるものなのでぼやかして書くが、フリューゲルとトランペットについての話が興味深かった。楽器のトーンは使用モデルや材質、マウスピースの作りで変わってくると思うが、勿論本人の奏法もあって、ユーフォ奏者が吹くフリューゲルと、トランペット奏者が持ち替えで吹くフリューゲルの音色は明らかに違うのだろうとも思う。私はユーフォを吹いた事が無いので想像の域を出ないが、ゴンドウさんの吹くフリューゲルがああいう音なのは、きっとそういう理由なのだろう。

 これを読んでくださっている方は私とSNSで繋がっている、つまりゴンドウさんのファンの方だと思うので案内は不要かもしれないが、そうじゃない方がもしかしたら此処に辿り着かれた可能性も考えて。メルマガ購読はこちらから登録できます。LINE受信も可。

 今回はここまで。Vol.14も既に告知されているので楽しみに待ちます。