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私から君へ 3

またまたお返事遅くなってすまない。
寒暖乱行下に振り回された冬の終わりに家を移し、バタバタしていると気付けば桜が咲いていた。

新しい家と共に、新しい仕事を始めようと、これまでの仕事に加えて勉強を始めた私の新生活は大変忙しくスタートを切った。

そんな中、これまで世田谷区内やその周辺で家が近くてよく会っていた友人達が、かわるがわる門前仲町の私の家まで遊びに来てくれて大変嬉しい限りだ。

たしかにそんな粗悪なヤツもいたなあ。
心当たりのあるアイツは、自身の誕生日に私の家にきて夜通し酒を飲み、コンビニで買ってきたシャンパンをラッパ飲みして抜栓直後の泡に耐えきれず全部吹き出しやがった。
そして申し訳程度に拭いた素振りを見せたかと思うと、まだシャンパンだらけのテーブルと椅子の上で買ってきた豚汁を飲み始めた。
五発ほどシバいて髪をひっぱり横に移動させた。
その夜は君も一緒にいたが、まさかアイツとはアイツのことだろうか。

急ぎ足で桜を東京で眺めた私は今、沖縄に来ている。
仕事で一週間の滞在だ。
これまでに沖縄に来たのは一回きりで、中学の修学旅行だから君も一緒にいたな。
あの時は汗っかきのクラスメイトが黒いTシャツを乾いた汗で塩まみれにしていた。
その記憶で覚悟を決めてきたが、四月中旬の沖縄はまだ涼しく、陽が出ない時間は長袖で丁度良いくらいだ。

仕事で来ているが、幸運にも間の日程で二連休を貰い、一人で車を借りて沖縄を彷徨いている。
今は北谷という町の浜辺でこの手紙を書いている。
一丁前なことを言うつもりはないが、東京なんて大都市に三年間も暮らしている私には、少し重たい潮風と波の音、広い空と豊かな緑にハイビスカスが咲く景色だけで、充分な贅沢に感じる。

昨日は大正時代から商っているソーキそば屋さんへ足を運んだ。
テビチと呼ばれる豚足が評判らしいその店で、親切なうちなーお兄さんがメニュー紹介してくれた。
申し訳ながら豚足が苦手な私は、豚足以外の二種のお肉が乗ったそばとじゅーしーと呼ばれる沖縄炊き込みご飯のセットを頼んだ。
料理が届いて、壁の色や柱の作り、ボロボロの券売機から風情を感じながらそばを味わっていると
「お兄さん背高くてカッコええねぇ!モデルね!カッコええからこれサービス!」と言ってテビチをサービスしてくれた。
沖縄の人の優しさと、豚足の癖のある脂身が身に沁みた。

今日は三時間ほど一人で海を眺めて本を読んだり煙草を吸ったりコーヒーを飲んだりしていたが、何故海がこんなに落ち着くのか一つわかった気がする。

視覚にも聴覚にも広告が一つもない。
人間が金儲けの都合で作ったものが何も入ってこないというのは、こんなにも心と体を健全に癒してくれるのかと、また私のアンチ資本主義が強固さを増してしまった気がする。

まあ別に過激な何かを起こすつもりないが、東京とは似ても似つかない場所で一人で二日間も過ごしたのは実りがあった。


また改めて、私は東京が嫌いで、でも東京でまだ暮らそうと思えた休日だった。

隠れ反資本主義革命軍より


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