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熱の幻

熱を出すと、「あぁそういえばこうだったな」と思う。 コトコトと煮込まれているような体温に、全身がちょっと自分のものではなくなっている。 指先はまるでドロリと溶けてしまいそうだ。 まつげがピリピリ揺れる。瞳が前ピンになっていてよく見えない。 幼稚園生のときの熱と、今の身体の熱は、きっと同じ膨らみ方をしている。 幼稚園の頃の私は、とかく風邪を引きやすくて頻繁に休んだ。 しかも全然治りが良くなく一週間欠席などざらだった。 寝込むこと自体には慣れていたけど、ひとつ不得意なこと

    • 依存性の高い快楽

      怒れなくなっている自分に焦ることある?とその画家は言った。 知り合いの紹介で出会ったその画家は、10近く年上だった。でも、爛々と輝く画家の大きな瞳は、私のそれより新鮮で生まれたてのような気がした。 絵を書き始めたのは、ストレスを発散したかったから。多言語を学んだけれど、自分が言葉では表現し得ないストレスや怒りを抱えていることに気がついた。だから自分のために、誰に見せるでもなく絵を書き始めた。個展をやるようになって、段々書けなくなっている。怒りに自分は鈍感になってきているの

      • 戻ってこれる目標

        「大きな目標を作って、それに向けた小さな目標を作って、そこから今日やることを見つけ出せば、それが志望動機と未来像になると思うよ。」 履歴書を前にうんうん悩んで、尊敬する人に電話したらこう言われた。 「じゃあつまり、渋谷の109に自分の作品をデカデカと貼りたい、だから技術と人脈と業界知識が欲しい、そのためにここで修行したいって感じですか?」 「違うよ、109に作品を貼りたいは小さな目標だよ。君の場合は、例えば『自分の作品を街の景色にしたい、だから109に作品を貼りたい、そ

        • 書きかけだったもの

          どうでも良いが一週間ほど前に怖い目にあった。でも、自分の力不足が原因だと分かっているし、次回は上手くやれると思う。ただ、怖かった。 二週間前からどうにも調子がおかしい。道を歩いているだけで涙がこぼれ、簡単なことで胸の奥が竦むような感覚がする。言葉がうまく使えない。声を出すことが怖くなる。それでも誤魔化し誤魔化し毎日過ごしていたのだけど。 その日は誤魔化し切れなかった。笑顔でいるのにボロボロと涙が出て、声が出なくて、言われていることの意味がわからなくなっていった。なんでこん

          スーツ

          スーツが嫌すぎてトイレでぼろぼろ泣いている。 私がスーツを着るとき、着させられるとき、人は人でなしになってしまう気がする。柔らかい雰囲気、優しさ、愛嬌、共に良く接しようという大前提が失われる感覚。人はお互いを評価し、冷たくあしらい、常に周りを敵だと思って構えなくちゃならないような気持ちになる。 しっかり眉上にした前髪が、私に戦を思わせる。清潔で美しければなんだっていいはずなのに、意味を失って独り歩きを始めた謎のルールにのっとって物事が進む。お互いへの思いやりから出たはずの

          貴方が不幸なのはブスだからだよ

          最近よく「ブスだから人生が上手く行かない」という声を聞く。同様に「美人になったら人生上手く行き始めた」という話もよく聞く。その通りだと思う。顔面の良し悪しで人生はまるごと決まる。 そのタイプの幸せしか「幸せ」にカウントしない生き方をしている限りは。 自身をブスだと言い美人になりたいという人はこういったメリットをあげる。 ・異性が優しくなる ・異性から口説かれる ・服が似合いやすくなる ・自信が持てる ・周りが助けてくれるから生活が豊かになる 異性が優しくなったり、口説か

          貴方が不幸なのはブスだからだよ

          就職すらまともにできない奴

          世の中はまともに仕事できる人で溢れている。みんなちゃんと働いて、家族を養い家を買い車を買う。そして子どもを産み、育て、学校に入れる。 親は大抵自分の生活を成功例だと思っているから、自分のように正社員になってしっかり働き暮らすことがこの世でもっとも幸せな方法だと子どもに教えこむ。 それで、大学なんか出してもらっちゃうと周りもそう思っている人ばかりになる。大学は就職率をあげようと急かしてくるし、親は将来を憂いて心配しだすし、友達はどんどん内定を貰ってくる。そうすると、内定を貰

          就職すらまともにできない奴

          毎日のこと

          職探しのためにあちこち遠くへ行く。電車賃はかさむし大嫌いなスーツをこまめに手入れしなくちゃならないし、にこにこ笑って苦痛に耐えなくちゃならない。でも、悪いことばかりでもない。 例えば、降りたことのない駅で降りる。首が痛くなりそうなほど天に近いビル。黒い人々。隙間に落ちる光。そういったものはこのコンクリまみれの都会でしか見れない。とっても不思議で、遊園地に来た気分。 例えば、知らないカフェに入る。初めて食べたパンが美味しい。オレンジジュースはどこに行ってもUCC。気に入って

          毎日のこと

          やりたいことリスト

          やりたいことは大小様々あって、でもそれを全部今世のうちにやりきって置きたいです。来世あるかわかんないし。リスト作っておけば一つずつチェックしていくことでさっくり死ねるし、次何していいかわからなくて途方に暮れたりしない。 そういうわけでやりたいことリスト 2018/03/21 ・猫を飼う…生活が落ち着いたら いやもう人生に必要でしょう猫。柔らかくてもふもふ。気ままに自由に暮らしてくれるし、視界の端にいてくれるだけで幸せな気持ちになれる。 ・可愛い家に住む…5年以内に かわ

          やりたいことリスト

          幸せな気持ち

          お給料日がやってきました。おかげでいつもスカスカのお財布がちょっとだけ元気だと言っています。ずーっと我慢していたものを必要な順に買いに行くことにしました。誰にも言えないちょっぴりの贅沢、聞いてくれますか。 まず、いつも遊んでくれる人と遊びました。いつも私に合わせて、河原で肉を焼いたりスーパーの値下げされた弁当を分け合いっこしたりしてくれます。優しくて面白くて柔軟剤のいい匂いがする人。すっからかんでも楽しく遊べることを教えてくれた人。奮発して小さなヤカンをプレゼントしました。

          幸せな気持ち

          間違い

          鼻をかむと血が出る。肌がヒリヒリとして動くのが辛い。たてばくらり、動悸がする、息苦しく、頭は自分のものではない。鬱々としてこのまま消えてなくなりたい。なくなりたくない。 みんな私のことなんにも知らないくせに知ったような口聞きやがって。落ち着いた柔らかな木漏れ日や柔軟剤、ため息の出るような透き通った風アパート一階の外廊下、雪あかりと生活、全部全部私のものじゃない。 本当の私はこんなに醜くて最低でとても人間臭い。微笑みを浮かべて額縁にはまる私は私じゃない。本当の私は毛穴があっ

          先生へ

          私はこれからどうしていけばいいのか、なんにもわかりません。 ここしばらくで忘れられないのはデイビッド・カンです。牛の舌を咥えて機械油やらケチャップやらを混ぜた墨をつけつつ長い紙の上を這うパフォーマンスで、息苦しさ、つたう唾液、悲鳴をあげる四肢にぞっとするものでした。それでいて私は、このパフォーマンスに惹きつけられました。彼の喉に詰まった牛の舌は、私にもあると思ったのです。でもそれが彼のものと違うがためにまた口にして良いものやら気が滅入ります。彼の舌はディアスポラ(「撒き散ら

          意味

          脳みそがゆらゆら揺れる午前2時。全く意味をなさない電気ストーブがごうごうと音を立てていて、私は道で轢かれた蛙みたいに干からびていた。 粘膜が腫れ上がっていて息ができない。ため息を吐いた。咳が出た。 こんな最悪なことあるか。夢の中でまで自分が何のために生きているのか考えていたのだ。ダサすぎて笑えもしない。布団の中で膝を折ると、全身で虫が潰れたような感覚がした。 どうせ死んじゃうのだから好きなことをしよう、と思った。どんな過酷なことも、素晴らしい技術と経験が得られるなら受け

          オレンジ色に光るほっぺ

          今日、実家の車は廃車になる。 あいつはおんぼろだった。いつもホコリまみれで、ステアリングはジョリジョリ言うし、窓は真っ白に曇ってどうにもならないし、エンジンは5回に1回はかからないし、シートは穴だらけだった。 休みの日は母を友人のもとへ運び、1週間分の食べ物を積んだ。あいつはきっと、隣町までしか行ったことがないだろう。この長い20数年で、たった4万kmしか走っていなかった。 馬の合わない営業からあいつを買った父と母は、田舎から出てきたばかりだった。凍える都会に怯えつつ、

          オレンジ色に光るほっぺ

          柔らかい吐息

          触れているところがぽかぽかする。乗られた重みにじんわりと支配される身体。髪を撫でる。吐息が聞こえる。これがこの世で一番の幸せ。そのまま本を読む贅沢。

          柔らかい吐息

          布団の真上を毎日が

          できない。 布団の上でごろごろして2日目。何もできないでいる。鼻から馬鹿みたいに水が出るし、喉は砂漠みたい。頭には象が乗ってるんじゃないか。救いは大きなスウェット、これだけ。 大掃除もできず床面積が日に日に減ってゆく。健康は遠のき心の余裕も減ってゆく。来年始動予定の事業を進めなきゃ、履歴書を書かなきゃ、論文を書かなきゃ…やることだらけなのに私の周りはゆらゆらしていて、現実はベールの向こうでするすると進んでいく。 あの芸人さん昔の恋人に似てる、あのときは上手くいかなかった

          布団の真上を毎日が