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飛び続ける

「お前たちは奴隷だから」
と、従兄が言った。

その意味を知るまで数年かかった。

広い庭付きの一軒家に
祖母、伯母、伯母の息子である従兄が
暮らしていた。

従兄の父親は、たまたま
夜、玄関で会ったくらいだった。

これから、お仕事なのかな?
従兄は、寂しそうな顔で
父親を見送っていた。

母から、伯母は社長の愛人だと聞いた。
従兄は、そのふたりの子供で
認知されていなかった。

子供の目から、見ても
従兄の満たされないキモチの矛先が
異常に歪んでいるのがわかった。

何でも買ってもらえる。
手に入らないおもちゃはない。

全種類ある怪獣やウルトラマンのソフビを
エアガンでブッ壊し
ある時は、庭で何かを燃やしていて
なんだろう?と見たら
昆虫を燃やしていた。

従兄の身の回りのことは祖母がしていて
伯母は、母親らしいことはしてなかったと思う。

父は、毎週、家族を連れて
祖母宅に行っていた。

従兄が、高校入学後に
伯母と大喧嘩をしていた。

高校の授業についていけない従兄が
自分が行きたかった高校ではなく
伯母が薦めた高校に入学したことを
後悔し責めていたのだ。

それに対して、伯母も怒鳴っていた。

次に、伯母と従兄の大喧嘩が始まったのは
大学の進路の時だった。

有名大学に入学したいのに、戸籍でダメだと
怒鳴っていた。
自分の生まれを責めていた。

未婚の母の子供の戸籍を見たことがないから
母子家庭の子供の戸籍とは違うのかもしれない。
わからないけど。

進路のたびに、大喧嘩する従兄に

私は、その鎖を断ち切るには
自ら自立するしかないんじゃないかと思った。

大学卒業後、大手の会社に入社した。
でも、従兄は家を出ることはなかった。

伯母が、従兄の彼女が毎日のように泊まってると
親戚に文句を言っていて
早く、一人暮らししたら
自由になれるのになーと思った。

私も、自分のことで忙しくなり
高校くらいからは、父に反抗して
祖母宅へ行きたくないと拒否ったこともあり
疎遠になった。

気がつくと、従兄は実の父親の経営する会社のひとつに
転職していた。

あんなに、親に反発していたのに
結局は、親のレールの上に収まるのか。

私の一度目の結婚の時は
まったく、話しかけることがなかったのに
二度目の結婚後は
やけに、話しかけるようになった。

お金があるか、ないかで
人を見てるところは変わらない。

心底、反吐が出る。

従兄のキモチは、私には理解できない。

どうして、家を出なかったのか?
なぜ、父親の経営する会社に入ったのか?

世界は、こんなに広いのに
なんだか、狭い世界にいるんだね。

私は、家から出てから
すごい貧乏だったけど楽しく
毎日が、青春だった。

いろんな人たちと出会った。

普段なら、出会わないような人たちと
いろんな価値観も知った。

従兄は、海外に留学経験もあるのに
どうして、また窮屈な世界に戻ってきたんだろう?

私なら、もう二度と戻らないけどな。

そして、私は私を縛るものすべてから
全力で逃げる。

私を大事に必要だと思ってくれる人なら
少しは、そばにいようって思うけど

でも、基本、ひとりでいたい私は
やっぱり、どこかに
とどまるなんてムリだな。

ココロだけは、誰にも侵されたくない。

家や、血縁や、金や
ほんと、そーいうのが一番
私にとって、どーでもいい。

私が、ほしいのは
もっと、別の、違うもの。

そして、それは人から与えられるものじゃない。

昔、私たちを奴隷だからと言っていたけど
弟たちは、裏で文句を言いながら
表では、言いなりでいる。
ある意味、奴隷かもね。

でも
私は、奴隷じゃない。

むしろ、従兄が
愛人の子供として
親の奴隷じゃないか。

どうして、飛び出なかったんだろう?

私は、飛び続けるけどね。
どこまでも。

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