800文字日記/20220418mon/049テーマ「台所で手洗い」012

掃除が終わって、猫と遊び、卵かけご飯を食べてデスクで一服をする。それから部屋の台所に立つ。棚にある米びつと生卵の間に置かれたデジタルクロックは十三時二十八分を示す。猫がシンクの右横のトイレで眼鏡橋のような格好でクソをする。

水切りカゴと菜箸やフォークやナイフや箸やスプーンやしゃもじやボールペンやマジックペンや歯ブラシや歯磨き粉などが挿さるマグカップの間にあるポンプを押す。白い泡が右手に乗る。左手でレバーハンドルを僅かに上げる。蛇口からでた水は水柱となってシンクとつながる。レバーを調節して細くする。水柱の底は蛇腹のようにゆがむ。右手の小指に含ませるように水をつけて両手を洗い始める。

左の五本の指を、抹茶を立てる茶筅(ちゃせん)のようにして、右の手のひらにあて、擦る。爪の間に泡をすりこませる。また、ボトルから泡を取って、今度は逆の手で同じく擦る。それから両手の指と指を交わらせる。男女が裸で肌と肌を絡み合わせるように。十の指を先っぽから指の股と側面を擦る。目を落とすとその陰影はXがブレているように見える。

ヌルヌルになった泡のまま今度は指を一本また一本としごく。親指のつけ根の筋肉を逆の親指の腹でほぐしてから自転車のグリップを握るように親指全体をつつみこみ洗う。逆の手もおなじことをやる。

ここで白い泡が黒ずんでくる。一旦、水で洗い流す。またポンプで新たな泡を手につける。どこまで洗ったか忘れたので、最初からやり直す。猫が畳の部屋の押し入れでうるさい。何かを落としたようだが無視する。両方の親指から小指までを一本また一本としごいて洗い終え、両の手首を絞るように洗う。腕時計の跡を擦り落とすイメージだが、腕時計は二年前に壊れてから着けていない。

もう一度、手に、多めに泡のソープを盛る。目をつぶる。自分の手を他人の手と想像する。全身が泡だらけの裸の女の乳房や股に洗ってもらう行為を想像する。遠くで猫が鳴く。(795文字)


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