傷心旅行・2・真面目なわたし

無理矢理仕事を終わらせて、新幹線に飛び乗った。
彼との初めての旅行だから、必死で仕事を片付けた。

旅行のための時間を作るために、今週は寝ないで仕事をしていた。
会社に泊まるまではできないけれど、着替えを持ち込んで、近くのネカフェでシャワーを浴びて仮眠をとっていた。

やっと休み、楽しみにしていた旅行、のはず、だったのに。

ギリギリで乗り込んだ新幹線で、彼を驚かそうと思ったのに。
座っていたのは、大嫌いな女だった。

その瞬間、全てが繋がってしまったことが、悲しくてくやしい。

案の定、「なんで」「どうして」と騒ぐ面倒な女は、とうとう泣き出した。
ほんと、ずるい。

そうやって、いつもいつも女をアピールしているから、仕事のひとつも覚えないんだって言いたい。

涙を拭きますといわんばかりに取り出したハンカチには、フチにレースがあしらってあって、そのレースにすら嫌悪感を覚える。

持ち物全てに「女子」をアピールしていて、本当に気分が悪い。

わたしはいつも「可愛げがない」と、敬遠される。
そんなことはわかっている。

どうして「女」だから、可愛げをアピールしなきゃならないの?
わたしは、そんなことに興味なんてなかった。

…なかった、はずなのに。

彼に「可愛いところもあるんですね」と言われたときには、正直ドキリとした。

「可愛さ」なんて、ずっとずっと昔に捨ててきたはずなのに、そんな些細な一言で動揺するなんて、自分でも驚いた。

ずっと「可愛げ」なんて捨ててきたわたしに、彼はいつも「可愛い」と言ってくれた。

「怒ってる顔も可愛い。」
「メガネを外した顔も可愛い。」
「仕事を頑張っている姿も可愛い。」

そういってくれるから、もっともっと頑張れた。

…それなのに。

彼はこの女にも「可愛い」と言っていたのだろうか。
くやしさと、情けなさと、悲しさがごちゃまぜになって、胸につかえる。

「ごめん、結婚することになった。
今までありがとう。」

スマホの画面は、何度見てもその言葉だけが並んでいて、なんとも言い難い気持ちがこみ上げてくる。

この女みたいに、そうやって自分だけが悲しい思いしてますって泣けたら、少しはスッキリするのだろうか。

「次で降りれば?」

バカみたいに泣いてる女に、そういってみたけれど、聞こえているのかいないのか、反応はない。
もっとも、反応されたところで、ムカつくだけだけど。

…わたしは、このまま帰りたくない。
このまま帰ったら、きっとまた仕事をするだろう。

休みなんて、やっぱりいらないわ!
なんていえばいいのだろうか?

…なんだか、疲れた。

本当は、寄りかかりたい。頼りたい。
彼といることで、甘えることの心地よさを知ってしまったんだ。

きっとこの女にはわからないだろう。

女が昇進するなんて、
そういう思いに絡みつく、男の嫉妬ほど恐ろしいものはない。

「女を武器にしやがって」と、簡単に暴言を吐く。
部下でいるときには、ニコニコ優しくしていたって、立場が逆転した瞬間に豹変する。
見たくもなければ、知りたくもなかったことを、目の当たりにしなきゃならない。

だけど、女だって敵にしかならない。

「男に媚び売って」「こっちを見下して」そういって、女だって敵なんだ。
だいたい、この女は敵の代表みたいなものだ。

ただ同期ってだけなのに、いつもいつも比較対象にされた。

「あのくらい愛嬌があれば、まだマシなのに」
「少しは見習えば?」

わたしよりも仕事の能力が低いあの女の、一体なにを見習えばいいっていうのだろう。

毎年毎年、新人研修しかしていなくて、仕事を指導しているのか一緒に騒いでいるのかわからないくらいだ。

それに、新人研修とは名前ばかりで、結局こっちが一から育てないと使いものにはならない。
使いものになるのだって、毎年一人いればいいってくらい。

あとは、使う前にいなくなるか、使えないままいなくなるか、そのどっちかだから。

この女の方が、よっぽど女を武器にしてるはずなのに、どうしてわたしばっかり標的にされなければならないのだろう。

女からも、男からも敵にされて、見渡す限り敵しかいない中で、彼はわたしの唯一の味方だった。

泣きたいのはこっちだよ。

べそべそ泣いている隣の女を眺めながら、奥歯をギリリとかみしめた。

絶対に、泣くもんか。
だから、早く降りてよ。
あんたがいたら、泣けないじゃない。

どうして彼は、こんな女がよかったのだろう。
全く、理解できない。

だいたいこの女は、自分の年齢や立場を理解しているのだろうか。
いつまで「可愛い」と言われると思っているのだろう。

どんどん若い子が入ってくる中で、わたしたちは十分「古く」なっている。
可愛さだけで、残っていけるわけじゃない。
自分にどれだけの魅力があると、過信しているのだろう。

この女は、別にそれほど可愛くもない。
彼は本当に、この女のどこに魅力を感じたのだろう。

だけど、ただひとつ思うことは、彼がこの女を選ばなくて良かったってこと。

わたしが選ばれなかったことは、本当に悲しいけれど、彼がこの女を選ばなかったことだけは正解だって褒めてあげたいわ。

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あおいゆの

小説・傷心旅行

彼との楽しい旅行のはずが、いきなり失恋!?隣に乗り込んだ相手は、大っ嫌いな人物!?「私」と「わたし」のココロ模様、行き先はどこへ?
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