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美術室に通い始めた14歳と、画家になりたかった私。(第0話)

最近、生徒が美術室に来る。

昼休み、私は職員室でササっと食事を済ませ、美術室で絵を描いていた。
私的な目的で使用するのは本当はいけないことなのだけど。

私は描く。
描き続けることでしか自分を押さえつけられない。
才能がない自分を認めたくなかった。

本当は教師になんてなりたくなかった。
でも画家になれなかったから仕方がない。

画家になれなくても、美術系の仕事はたくさんある。
専攻分野によるけど、イラストレーター、ゲーム、映像、広告。
私は絵画学科油画専攻だった。同期の多くはそういった職業に就いた。

私は教師になった。
本当はいくつか美術系の内定があった。
しかし逃げた。

才能がないことを認めたくないのに、
勝負からは避け続けている。
自分の絵だけで飯を食えない人を小馬鹿にし、中途半端に美術系の職につくくらいならやめてやる、そう自分に言い聞かせていた。

そして、そんな自分が大嫌いだった。

私は誰にも比較されず、「絵が上手い」とチヤホヤされる場所を選んだ。
学校に私より上手い人はいない。「才能がある自分」でいられる場所はとても心地よい。

ぬるま湯で私は絵を描き続けた。

賞に出すのはやめた。
描いては捨て、描いては捨て、描いては捨て。
描いては捨て、描いては捨て、描いては捨て。
描いては捨て、描いては捨て、描いては捨て。気が付けば25歳になっていた。

それでも描き続ける他なかった。
描いている自分。それが私でありそうすることでしか自分を保てなくなっていた。

その中にはもちろん、いつかきっと報われる、そう期待する自分も含まれている。賞に応募することさえしないのにだ。

彼が来たのは、通い始めたのはそんなある日だった。





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