激越__プロ野球県聞録_C_

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 彼らの「県聞旅行」では、移動はだいたいのところ陸路が選択される。思えばそれらの鉄道で、津軽半島から青函トンネルを潜り、下関からは関門鉄道トンネルや新関門トンネルを潜ってきたのである。連絡船やフェリーならまだしも、飛んでしまうと北海道にも九州にもけっして「渡れ」ないのだ(だから沖縄のキャンプ地にも船で渡りたい)。フェリー会社とはどうにか組めても、航空各社とは永遠のライバルである。
 かくして鉄道でつながれた日本縦貫ルートを行く旅は、きっぷ一枚という手軽さで、地球の緯度にして最長で十五度分ほども移動できる計算になる。では「現在まで/どこまでもつながっている」のは現行路線だけなのか……その過去の歴史は、分割民営化前から継続している観光キャンペーン(「ですてぃねーしょん・きゃんぺーん」と呼ばれる)もあるにはあるが、かつての球団保有時代にまでさかのぼるとなると、今日まで一本の線として存続しているのは「某後継球団の愛称」くらいのものだろうか? しかし彼らは遠くを見つめ、しばしば途中下車し再乗車する。依然として一枚のきっぷで。
 ……薩摩半島の枕崎とか指宿(いぶすき)から「日本最北端の」稚内市へも、行こうと思えばJR線で行けるのだ。おまけにこんど生まれる「四国独立野球王国リーグ」――仕掛け人はあの名遊撃手イワゲ(=IWAGE)でそこから「Iランドリーグ」とも――の地には、JR瀬戸大橋線で渡ればいい。王国内もJR全四国が全域的にカバーするので、何なら弘法大師=空海にあやかって、現地で八十八か所ほど、ゆかりの札所を巡ってみてはどうか?
 何はともあれずっと南方の、自生ソテツさえ見られる鹿児島や宮崎のキャンプ地から、亜寒帯広がる北海道なる球団本拠地としての新天地――札幌市内だけでなく、ファンや投手陣の縁起直しに十勝岳や十勝平野があり、ほかに道北のもっと奥地には野手必見の「ウッツ川」や「欝岳(うっつだけ)」などを用意する地――にまで、彼らはただ鉄路を進みつづける。JR全九州が全域的に交流電源(20000V)によって電車を走らせるなら、JR全北海道は非電化もものともしない、ディーゼル機関を有する車両が幅を利かせる「気動車王国」なのであった。
 ところで彼らの地元新潟県は、北陸地方とも中部地方とも北信越とも区分されるが、鉄道としては関東と同じくJR日本東の管内となる。県内の信濃川流域には同社にとって重要なうえにも重要な水力発電所があった。それは新幹線や在来線での結びつきと同様に、彼らの土地を強く関東と結びつけている。私鉄がほとんど走らず(現在たった一社のみ)、広い県域をJR線がカバーする鉄道路線網を見ても明らかなように、全県的に「JR(日本東)王国」というにふさわしい。電源と新幹線と在来線が幅を利かせるうえ、この秋にも国内四番目の「大都市近郊区間」が設定される予定であり、JR日本東管内での同県の存在感は確実に高まるだろう。同社がその「本丸たる」本社を置く東京・新宿との間には夜行急行も運行されており、たとえ現在建設予定の県立新球場でナイターの試合が長引いた場合でも、翌早朝五時には新宿駅に帰着することができる。
 新潟県内には古くから車両製作所もあり巨大鉄道会社との関係は深い。かたや球団保有企業でもある東京資本のレジャー開発だとか、かたや毎年のように移転話がつきまとう「在京」球団がある。また国家的規模の電源となれば、県内に建つあの世界最大の原子力発電所など、新潟を営業地域としていないという巨大電力会社(本社東京)が保有しているものだった(だがもしやその一大電力会社が、ノンプロとは別に、原発立地県にプロ球団をもたらすような望みはありやしまいか――雇用や税収や交付金というばかりではなくて?)。
「新潟は(ほとんど)関東(みたいなもの)だ……!」


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――激越せよ、激越せよと呼ぶ声あり。

東奔西走の、孤独とさすらいの、現地調査と工作活動の日々。

彼らは陸路を選択し、新潟と東京を、関東甲信越を、

太平洋ベルト地帯を駆け巡る。

砂利道と鉄のレールと列車の屋根。

それはいつ果てるともない、終わりなき旅の記録なのだ。