激越__プロ野球県聞録_C_

《「一人だけ野球」な個人企画》都道府県見聞録――時代変遷の記録 その1

都道府県見聞録――時代変遷の記録 その1

青木淳悟

 平成末頃、改元を間近に控えて、世の中はどうもすっかり回顧ムードに包まれた。小売も食品も電機も自動車も、各業界を挙げて盛んに当の一時代について、過ぎ去りつつある三十年間ほどを振り返ろうとしていた。ことに多くのメディアで「特集」が組まれたことは、きっと記憶に新しいだろう(というか、それはつい最近のことだ)。

「やっぱり公共放送では――」
「さすがに全国紙ともなると――」
「まさか、『×スポ(スポーツ紙)』でさえ回顧するとは……?」

 雑誌の特集も多い。伝統を誇る文芸誌業界では、A誌が三か月連続で「平成と○○」、B誌が「天皇・平成・文学」、そしてC誌がアンケート「平成の終焉――何が生まれ何が消えたのか」と、やはり様々な企画物が誌面を飾っていた。あれを読みこれを読み……と、そこでワタシはひとつの重大な事実に気がついたのである。
「あれれっれ、あれ、あれあれ~? 何か物足りないと思ったら……誰一人として『プロ野球のこと』を取りあげていないぞ?」

 平成十六(二〇〇四)年六月十三日日曜日の某大手新聞社によるスクープ記事の内容は、日本中のお茶の間というお茶の間に届けられ、総計四〇〇〇万人とも八〇〇〇万人ともいわれる野球ファンを震撼させたはずだった。記事見出し《近×球団 オリッ×スに譲渡交渉》がそれであり、まもなく「球界再編問題」の幕開けとなる。
 それ以後、半年以上にもわたる攻防戦の模様は、過去の報道やいくつかの書籍に記録されたが、新刊電子書籍『激越!!プロ野球県聞録』(「集英社/すばる Digital Book」※電書のみ)もそのひとつである。長篇小説五〇〇枚。大きな社会的事件だったにもかかわらず、もしかしたら誰も注目しようとしていないいま、この場で自作を振り返ることによって「時代の記憶」を呼び起こしたいと思ったのだ。

 ――ちなみに本作中には、〇四年当時は存在していながら、一〇年代にはすでに姿を消してしまっている事物が多数ある。……名称・店舗・建物・企業・各種団体・交通機関ほか。この「ふざけた現実の世の中」の浮沈や優勝劣敗に、(ワタシ一己の勝手な思い入れとして?)悲喜こもごも至る。これをひとつの問いの形式へと変換するなら、「再編問題以降、平成の後半で何が消えたのか?」。
 あるいは自作の補遺とか補足資料ともいうべきか、情報過多な小説のさらなる蛇足として、以下にそれらを列挙したい。いずれも拡張プロ野球世界に関連する/していた事項である。(計105項目、順不同)

・【ミネラルウォーター「大清水」】商品名を大幅に変更。また缶入りは廃止されスタイリッシュなペットボトル容器に
・【ダイエー新潟店】テナント変更
・【ラフォーレ原宿・新潟】テナント変更。同複合商業ビルの低層フロアには、近年になって新潟市中央区役所などの公的機関が入ることに
・【新潟三越】現在も営業中ながら、撤退予定(二〇二〇年三月)のあることが先頃発表される。今後古町からは百貨店が姿を消し、万代地区で営業する新潟伊勢丹が県内唯一の百貨店となる
・【日本海タワー】営業終了
・【レインボータワー】営業終了。新潟市中心部の象徴として動態保存されていたが、解体撤去を決定
・【ホテル朱鷺】新潟県人を泊める宿からリニューアル予定。世界人に門戸を開く「東京上野ユースホステル」に
・【日本郵政公社】「日本郵政グループ」に改称
・【逓信総合博物館ていぱーく】閉館
・【全逓会館ビル】取り壊し後、建て替えを計画? 跡地はドーム球場そばのコインパーキングを経て、現在マンションギャラリー

――――――

・【後楽園会館】労災保険の福利厚生施設でホテル業務も行っていたが、隣接の東京労働局の庁舎とともに閉鎖。建物はその後十年以上も放置されつづけている
・【サウナ東京ドーム】旧後楽園サウナ。都内最古のサウナだったものの、およそ半世紀の歴史に幕
・【シャープビル】オーナー変更
・【東芝本社ビル】本社機能の大部分が川崎市に移転したことに伴い、「浜松町ビルディング」に改称
・【松下電工東京本社ビル】現パナソニック東京汐留ビル。……松下電工がある日突然松下電器産業の子会社に。また松下グループがパナソニックグループとなり、同社は「パナソニック電工」へ社名変更。やがてパナソニックの完全子会社となり、吸収合併され社内カンパニーの一つに。Nationalブランド及び松下ブランドは廃止され、「Panasonic」に統合
・【コクド及びコクド本社ビル】プリンスホテルと合併し消滅。本社ビルも売却・解体
・【ホテル西洋銀座】セゾングループから経営が変わっていたが、ホテルとしても閉館し売却。ビル解体へ
・【有楽町マリオンの西武百貨店】JR東日本系列の「ルミネ有楽町」になる
・【旧国立競技場】すでに解体済。すったもんだの末、東京オリンピックに向けて現在建て替え中
・【東京水天宮の「旧本殿」】同地に建て替え済。なお建造物の屋上を神域としているのは以前と変わらないが、建物全体が免震構造となった

――――――

・【砂防会館本館】首相経験者ら大物政治家が個人事務所を置いた「派閥政治の舞台」は、老朽化のため建て替えへ
・【りそな・マルハビル】三菱地所に売却後、二社とも本社を移転し、ビル再開発
・【旧読売新聞本社ビル】ビル建て替え
・【旧東京中央郵便局の建物】再開発で高層タワー化。低層階は旧建築を組みこんだ商業施設・KITTE(キッテ)
・【横浜ランドマークタワーの「高さ日本一」】竣工して二十二年目、「失われた二十年」を経て、ついに大阪市阿倍野区の超高層ビルにその地位を譲る
・【関越トンネルの「日本最長の道路トンネル」】首都高の山手トンネル全線開通により国内第二位の道路トンネルに。三十年もの長きにわたり保持しつづけた記録だったが、一方で山岳道路トンネルとして現在まで日本最長
・【道路関係四公団】日本道路公団が三社に分割、他の三公団もそれぞれ民営化され、計六社の民間企業となる
・【名古屋(小牧)空港】中部国際空港・セントレア開港後、就航路線の多くがそちらへ移転すると、名称も「名古屋飛行場」に変更。「その他の空港」に位置づけられる
・【スペースワールド】八幡製鉄所の遊休地を活用した「新名所」もついに閉園。展示スペースシャトルの譲渡先も見つからず、解体撤去を決定
・【株式会社加ト吉】香川県人の創業者は行商から身を起こした立志伝中の人物(「冷凍讃岐うどん」の開発は後年)で、社名は祖父・加藤吉次郎が営んだ水産加工の個人商店に由来。同社は設立以来右肩上がりの成長をつづける優良企業として冷凍食品大手となったが、不正な循環取引の発覚後、提携関係にあったJTの完全子会社に。ホテルやレジャーランド等の多角化していた事業も縮小。やがて社名も変わり、現在は冷凍うどんにのみブランド名「カトキチ」が残る


「その2」につづく。


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激越せよ、激越せよと呼ぶ声あり。

砂利道と鉄のレールと列車の屋根。

それはいつ果てるともない、終わりなき旅の記録なのだ。

激越!! プロ野球県聞録

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