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◇配信前夜のエッセイ2――これは「野球ゲーム」ではない。

 次に挙げるファミコンソフト4タイトルのうち、それぞれの「タイトル画面」の映像を見て、もっとも爽やかでないものを(選択肢A~Dに○をつけて)1つ選び、併せてその理由を述べなさい……と、いきなり突然藪から棒に、出題されてしまったとしよう。設問の意味や出題者(昭和54年生まれ)の意図をよく考えてから解答せよ、と。

A『プロ野球ファミリースタジアム’88』(ナムコ)
B『燃えろ!!プロ野球』(ジャレコ)
C『プロ野球?殺人事件!』(カプコン)
D『究極ハリキリスタジアム』(タイトー)

 ファミコンなんて話が古いし、そもそも誰がその「爽やか度」(?)の判定をするのだ。一方的に話を進める勝手な奴だとは聞いていたが、相手の世代やゲーム歴をいっさい考慮せずこんな調子っぱずれな質問をして、趣味と思い出の押し売りにもほどがあろう。たとえ昭和の末期に発売されたファミコンソフトという共通点はあるにしろ、それらに興味のある人間がどれだけいると思っているのか。……まあ、世間にはそういう方も意外と多い(推定約3000万人)のかもしれないが、あえて話題を「タイトル画面」の印象のみに絞る必要がいったいどこにあるんだ。そんなの狭いよ、(川●球場みたいに)狭すぎるんだよ!

 映像の確認は、4タイトルとも某投稿動画サイトで確認することはできる(記憶が定かでない方はご確認ください)。そこで迷うことなく「C」に○をつけて、さてその理由はなんだろう? 4タイトルに共通する、空をイメージしたような青一色の背景画面。また他の3タイトルと比較してみても、そのタイトルロゴの作りはしっかりとしており、野球へのリスペクトを感じさせなくもないのだが、どうしても「C」を選ばずにはいられない。
本ゲームのタイトル画面は、背景が青一色であること以外、爽やかさの要素はどこにも感じられない。そのロゴ自体の字面(『プロ野球?殺人事件!』)に加え、画面に流れるBGMがまた爽やかでなく、むしろゲーム本編の雰囲気との兼ね合いで、全体として「怪しい感じ」を演出しようとしている。
 以上が、今回初めてこのゲームの存在を知った人間の、第一印象というところではないだろうか。つまり「爽やかそうではないゲーム」という印象である。スポーツゲームでこそ得られるような、爽快な気分を味わいたいという方には、どうにも勧めようがないゲームなのだ。

 ゲーム導入部たるプロローグシーンでは、ある晩自宅で某スポーツニュース番組を見ていた「いがわ すぐる」が、いかにして今回の事件に巻き込まれてしまうかが描かれる。テレビを見ていただけで、何も悪くないその主人公の彼も、殺人現場からいがわ宅にニセ札入りアタッシュケースを運ぶ羽目になった「ほら たつのり」も、そこに仲よく私服姿で登場している。シーン中の人物はみな三頭身くらいのドット絵。それにしても、こんな過去のファミコンソフトの映像が、ネット環境さえあれば家に居ながらにして視聴できてしまうのだから、21世紀というのは恐ろしい時代だ――「高度情報化社会」と呼ばれる由縁である。ちなみに作品中の舞台は前世紀、1988年9月の、ペナントレース終盤という設定となっている。世の中はまだ昭和だよ。

 プロ野球界は、当時もいまも、憶測やら評判やら「関係者の話」などが飛び交い、架空の球界を描く『プロ野球?殺人事件!』もその傾向がしっかりと反映されている。引退1年目のいがわ氏が冒頭の事件で警察に嫌疑をかけられ、ゲーム開始時点で全国に指名手配されつつも自ら犯人捜査に乗り出すという設定自体、ファミコンとはいえ球界特有の「内輪の論理」が働いているようにも感じられる。
 まずゲーム冒頭の横浜ステージ――横浜市郊外の自宅付近(横浜市緑区霧が丘?)から新横浜駅や横浜球場まで含めたエリア――で、姿を消した事件関係者(某スポーツ紙記者と「かきふ まさゆき」)の行方を追って、広いフィールドマップで表現された「町」全体を動き回ることになる。
 が、何らかの証言を得られるのは結局のところ、横浜球団「ホイップス」の親会社やその周辺の関係者、また横浜球場内はもちろん、遠征中の「タイガーキャッツ」が滞在するホテルといったあたりでたむろしているユニフォーム姿の現役選手や監督をつかまえ、雑談を交わしながら情報を入手する。町中を巡回中の警官にとっては指名手配犯である一方、球界関係者にはだいぶ顔がきくので、そこらの一般市民との会話(しみん「あたくし むじつを しんじてます!」)とは異なる水準の話題がやりとりされる。
 ……フィールド上を移動する村人や町人と話せるのはドラクエと変わらないが、いうなれば「ドラクエ界」で名前の通ったキャラクターとも各所で顔を合わせるような感じだろうか(しかも登場キャラクターのみならず、憧れの「ほりいゆうじ」氏や「とりやまあきら」氏ともゲーム内で顔を合わせられる?)。

 往年の名選手や人気者など、有名プロ野球選手に似た人物が多数登場する本作では、「ネタ会話」と分類されてしかるべき内容もなかなかに多く、捜査やクリア条件に不要な台詞を聞き流す能力が必要とされる(無意味な発言が実に多い!)。
 球界との距離でいえば、マスコミ関係者も仲間内のようなもので、顔見知りの番記者あたりがチラホラ出てくる。皆それなりに(日常会話が成立する程度の)協力的姿勢を見せてくれるが、主人公が現在置かれた状況から判断するならば、「球界の常識は社会の非常識」だといわれかねないところがある。新聞社で聞き込みする野球人も野球人なら、事件情報を平然と漏らすような記者も記者ではあるまいか。

――よこはましんぶんしゃ
 いがわ「こんにちは。」
 きしゃ「おー いがわさん。
     にせさつじけんに
     かかわってるって ほんとう?」

 これはけっして「野球ゲーム」ではない……どう考えても「野球ゲーム」であるはずがないが、しかしここに再現されているのは、マスコミと球界との切っても切れない関係なのである。横浜市内の町角で、スタンド売りの「1ぶ80えん」のスポーツ紙を読んでみると、今回の「ニセ札殺人事件」に関して、少しはましな関係者の反応に触れることができる。ほんの少しましな――。

いがわ「ほうにちスポーツか。
   「いがわしの じけんについて
    かんけいしゃは つぎのように
    かたっています。
   「くあた……
    ぼくなら にせさつ
    なんかに てをだしませんよ。
   「おいかんとく……
    ったく あたまがいたい。
    タイガーキャッツと
    ゆうしょうあらそいを している
    たいせつな じきだというのに。
   「つまらんきじ!!すててやれ。ポイ」

 そうこれは、元所属球団入団3年目になる若手有望投手と、この年を最後に同球団の監督を退くことになる就任5年目の監督による、ある程度地に足のついた発言だったのではあるまいか。
 ただし現実からすれば、1988年の某トラ球団は完全にネコになって最下位を独走していただけに、トラ球団ファンにとっては「大嘘」となり、またこの年首位を独走して優勝していたはずの名古屋球団のファンも黙ってはいない設定なのだ。
 ……と、本作はこんな球界を舞台にした、「ロールプレイング&アドベンチャー」ゲーム小説です!