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南伊、女一人旅のこと part.5(終)

周遊鉄道で降り立ったソレントは、ナポリ市街よりもいわゆる“ヨーロッパ”らしかった。白い建物、青い空、緑に輝く木々…
ただいかんせん、その日は風が強すぎた。海風だったのかもしれない。

様々な国旗が並ぶ街の中心を少しそれると、そこはもう海だった。
沖縄で見るような真っ青な海とはまた違う、少しオレンジがかったような、それでいてエメラルドグリーンっぽくも見えるような、光の当たり方によってその見え方を大きく違えるような海。

美しいので写真をと思い、スマートフォンを引っ張り出したが、風が強すぎて落としてしまいそうになった。ふと正面を見ると、ヨーロッパ系の顔立ちをしたおじ様が私と同様に風と戦いながらスマホで海を撮ろうとしている。
なんとなく笑いあったりした。

その後は地元の小さな美術館に行くなどしたけれど、基本的にそれほどたくさんやることはなく(私のイタリア語が半端なので、できることがないという言い方の方が正しいかもしれない)、最後にお土産としてソレント名物のリモンチェッロというお酒、そして生ハムを購入した。

リモンチェッロはレモンを使ったお酒で、べらぼうにアルコールが強いというので楽しみだった。生ハムはなんとなく、イタリアっぽいので買ってしまった。

旅に来るといつも食べ物ばかり買っているのだが、部屋に物を増やすのが苦手なのでこれは仕方がない。友人に小物やオブジェみたいなお土産をもらうといつも本当に困ってしまい、引き出しで何年も寝かせている。棚に置くと掃除のときに邪魔になるため、飾ることすらできないのである。

地下鉄に再び乗り込むと、ソレントから私と一緒に大量の学生、おそらく小学生か中学生が乗ってきた。ちょうど放課の時間とかぶったらしかった。何をいっているのかところどころ分かりそうで分からない、明るいざわめきが好もしい。

ホテルに着くと、やることもないのでリモンチェッロを開けた。
しかし、レモンのお酒というので私が想像していた爽やかな酸味はそこになく、ただただべたつくほどに甘い、そして、のど越しに熱くなるような強い酒で、ごくごく飲めるようなものではない。

結局この酒は帰国日の前日まで飲み終わることができなかった。ワインをたくさん飲もうと思っていた旅だったのに、リモンチェッロを開けるので精一杯で帰国することになったのは今でも気がかりである。

この晩、リモンチェッロを飲んだ私は妙に解放的な気分になって、そういえばこのホテルの地下にはレストランがあったなと意気揚々とたずねた。だが訪問してみると、しっかりとしたスーツを着た老紳士が給仕役をするような格式の高いレストランで、適当なセーターを着ている私は完全に場違いであった。

それでも私はカプレーゼと、牛肉をいい感じにしたものを食した。一人で来ているので無言だし、言葉が分からないので店員さんにもニコニコするしかない。結局、まともにイタリア語でしゃべれたのは会計の際、「白ワイン 一杯」とレシートにあるが、実際には運ばれてこなかった、ということを説明したときのみだった。
なぜもらえなかったのだろう、白ワイン。楽しみにしていたのだけど…

部屋に戻り、またレモンチェッロを飲んだ。やはりべたべたに甘い。そのまま眠ってしまった。

翌日起きると、何もやる気が起きなくなっていた。
そのままホテルで一日ごろごろし、夕方外に出てピッツァ・フリッタを食べる。
ピザを生地で包んで揚げた名物料理なのだが、私が買ったのはなんだか皮がふにゃふにゃしていて、中のピザのおいしさを邪魔している気がしてならず、ピザを食べたほうがよかったなと思った。

部屋に帰り、前日に買ったリモンチェッロの続きを飲む。
喉が焼けるように熱くなり、甘ったるさがきつくなった頃にどうしようもなく眠くなってそのまま寝てしまった。

旅行先で一日寝ていると、人生は本当に自由で美しいなと思う。
何でもできてしまうし、何でもしていいのである。
もったいないとか、折角だから、とか言ってやりたくもないことをやっている間に人生はあっという間に終わってしまうから、旅行先でも観光も何にもしないで寝てしまっていいのである。

が、その翌日、大聖堂に行ったところ、ステンドグラス、イエス像、祭壇、壁画などの荘厳さにすっかりやられてしまい、日本人にありがちな無宗教なのに泣きながら観覧してしまったため、昨日もここに来ればよかったなと普通に後悔してしまった。

そんなイタリアだった。

前回書いたもの→南伊、女一人旅のこと part.4

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青木空絵

アオキソラエです。思い出をまとめた2000字くらいのエッセイを半年ほど毎日投稿していましたが、2019年以降は不定期更新に切り替わっています。旅行に行ったら旅行記を書き、生活で辛いことがあったらエッセイを書き、という形でやっていく予定です。よろしくお願いいたします。

エッセイたち(2019年)

2019年に書いたエッセイをまとめていきます。(更新中)
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