見出し画像

精神を削られた3日間のこと

精神が死んだ思い出というのが人生においていくつかあり、今日書くのはその内の一つである。たった三日で私の精神はぶっ壊れ、しばらく人と会話できなかった。

それは夏の盛り、就職活動を控えて色々な会社を覗いているときに起きた。
私はその日、家から少しばかり離れた会社、電車で乗り継いで二時間くらいのところへ行ったのだが、そこの人事の方がすごく私を気に入ってくださった。人事はぽっちゃりしたおじさんだった。私は何故だかぽっちゃりしたおじさんには好かれる傾向にある。

ニコニコ笑いながら、「君には何かきらりと光るものがあるような気もするし、特にそんなこともないような気もする」という評価をされた。要するに私が奇天烈すぎてその日一日では人柄を捉えるのが困難だと思ったらしい。

「今度インターンやるからさ!来てよ!」
輝く瞳で彼にそう言われ、正直めちゃくちゃ嫌だったのだが、断れる状況ではなかったし、その時点ではわりと入りたい会社だったので参加を決めた。

一応説明しておくと、インターンというのは職業体験のようなものである。その仕事で実際にやるようなことを入社前の学生に取り組ませて、それを社員の方が見て、あの子はいいね、とかあの子はそうでもないけどこれから伸びそうだね、とか判定していく催しである。

就職活動なんかしておいて何言ってるんだという感じだが、私はこの、色々な人に値踏みされるというのがあまり好きではない。人にじろじろ見られたり、私のことで考え込まれたりするのがどうしても嫌なのだ。

自意識が過剰でネガティブだからだろう、人が自分の方を見ているとどうしても、「こいつ能力低いな」「手際が悪いな」などと思われている気がして仕方がなく、思い込みが激しいために本当にそう言われたときのようなダメージを心に負ってしまう。参加した時点で、「悪口を言われているような気持ち」を味わい続けることはほぼ確定であった。だからインターンのような場は避けてきていたのだ。

インターンは翌週の週末から三日間に渡って開催された。家から二時間かかるのに集合時刻は朝の8時だったので必死こいて起き、会場に集まる。自己紹介をしてくださいというので適当に紹介したら、ほかの子は私よりずっとハキハキと、社員の方々よろしくお願いします!感を迸らせながら喋っていた。そうか、みなこの会社に入りたい人たちなのだなと改めて思った。

しかし、この時点でかなり辛かった。学生は全部で30人なのに対し、同数くらいの社員が常に部屋の後ろに待機しているのである。めちゃめちゃ怖かった。60人収容の会議室。私が立つと社員も学生もみんな見る。怖い怖い、発表など世界一向いていないのだ、私は。自分の容姿にも意見にも自信がないのだから。

が、地獄はここからだった。まあぼかすが、内容としては二人一組でめちゃくちゃ面白い紙芝居を作るというもので、私が筋書きと構成を考え、それにもう一人の子が絵をつけてくれる。この子が美大生ではちゃめちゃに絵がうまかったのでそれを活かさない手はなく、あれこれと考えていた。すると、だ。

社員の人が、私があれこれと考えて書いているメモを後ろから覗き込んでくるのである。
私にとってメモというのは自分の脳内をそのままアウトプットしたもののため、脳を直接覗き込まれているような恐怖を感じた。しかもそれが定期的に続く。色んな人が見てくる。

その上地獄だったのが、二時間に一度、自分の班の進捗を全員の前で発表しなければならなかったことだ。もう一人の子はデザインを手がけているわけだから、発表者は全体図が分かっている私ということになる。

二時間に一度、頑張って喋るのだが、もう手に汗を握りまくった。他の班の発表者は、こういう機会に慣れているのか、「この会社に勤めたい!自分をよく見せるぞ!」という思いが強いのかみな、ペラペラと喋っているのに、私だけは精神がすでに枯渇していて、いや、もうこの会社には入らないと決めたので、帰らせてください、という気持ちでへろへろ喋り、差は歴然、気を使った社員の人が話しかけてきて余計辛い、という地獄の連鎖が発生した。

私がへろへろなので絵を描いてくれていた子が次第に苛立ち始めた。彼女からすれば就職がかかっているので当然である。私のせいで力が発揮できず、選考の際に不都合が発生すれば困るだろう。
険悪なまま21時過ぎに解散した。

翌日も集合は8時だったため、6時に家を出たが、私はもう終わっていた。終わり人間である。私は磨耗した精神を回復するためには絶対に1日7時間は眠らなければならないのだが、この日は5時間程度しか眠れていない上、精神の磨り減り方も半端ではなかった。

集合すると、絵描きの子は昨日よりやや機嫌を持ち直していたものの、やはりにこやかにとはいかなかった。ぼろぼろの精神で、「本当に大丈夫なの」と急かされながら作業をした。辛かった。

何とか二日目を乗り切ったが精神は崩壊しており、三日目はもはやイラスト担当に声すらかけられない始末(怖いので)であった。そんな三日目も午後に差し掛かり、そろそろ帰れるぞと思っているといきなり呼び出しがかかった。

チームで、ではなく私一人が呼ばれたので、ひょっとして帰らせてくれるのか、と思ったらそうではなかった。「うちの会社の偉い人と喋らせてあげる」という謎のチャンスタイムだったのである。

部屋に入るとおじさんが二人、めちゃくちゃ偉そうにふんぞり返って座っており、面接などではないので私に話題を振ってくるわけでもない。しかし黙っているわけにもいかないので頑張って、「この仕事の大変なことってなんですかあ」などと薄い質問をしたら、「そりゃもちろんたくさんあるよ(鼻息)」みたいな返しをされて話が一向に続かない。

そのまま十分たち、部屋に帰っていいよと言われたので帰り、作業をラストスパートで進めた。紙芝居はそれなりの仕上がりだったのだが、講評タイムのとき、先ほどのおじさんたちに「絵はいいけどね!他に魅力がないね!」とボロクソに言われ、私の精神の削れた部分をさらに砕かれてしまった。

そのまま帰った。
人に値踏みされまくり、否定されまくり、おまけにパートナーたる画家の少女にもチクチク刺され続けたので、なんかもうトラウマになってしまい、後日その振り返りをしましょうと会議室に呼び出されたとき、その会社のロビーや椅子、机や照明など何もかもが怖かった。

それをきっかけにその会社を受けるのを辞めた。大学にいく電車の中で「すいませんが貴社は受けません」とメールを送り、スマートフォンの画面を消したらめちゃくちゃすっきりした。
本当に怖かった。インターンに行かなかったらあのまま選考を通過し、あそこで働くことになっていた可能性もあると思うと、逆に行っておいてよかったなと思う。

昨日書いたもの→詩集の中で過ごした冬のこと

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

サポートしていただいたものは書籍の購入にあてる予定です…! (本屋に行くと一度に7000円使うヤバい人間のため)

3

青木空絵

アオキソラエです。思い出をまとめた2000字くらいのエッセイを半年ほど毎日投稿していましたが、2019年以降は不定期更新に切り替わっています。旅行に行ったら旅行記を書き、生活で辛いことがあったらエッセイを書き、という形でやっていく予定です。よろしくお願いいたします。

エッセイたち (2018/09)

2018年9月2日から30日までに書いたエッセイをまとめました。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。