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銀色の指輪

るみこのお話は
「知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる」で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わります。
#こんなお話いかがですか

知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。
東雲。もうすぐ日が昇る。
急に冷たくなった空気が私の頬をなでた。私誘われるように目が覚め、ここにきた。外は霧が立ち込めていた。だから、遠い記憶を重ねやすいのだろう。薄っすらと見えるバラの花たちで庭園だとわかる。

ついでに懐かしいアノ人にも会えたらなんて欲張りな話。せめて思い出の中で蘇りさせよう。
バラを育てることが上手な人だった。毎年、大きな花、小さな花、色も様々咲き誇っていた。私は、年に2回、そこを訪れていた。あまりにも綺麗な景色に心を奪われて、訪れる度にアノ人に話しかけ感動を伝えた。心を奪われたのは景色だけじゃない。
ある年、初めて声をかけられた。朝早く来て欲しいと。霧の中、満開のバラの花が甘い香りを漂わせると思っていたのに、期待とは裏腹に香りはせず、花が咲いていない事にも気付いた。
アノ人を見つけると駆け寄り理由を訊こうと思ったら、手には今まで見たこともない綺麗なバラの花を手にしていた。茎には銀色の指輪が添えられいる。その特別なバラを私に渡してくれた。茶人を真似た贅沢な告白。

遠い、遠い記憶。でも色あせることなく昨日の事のように思い出す。この記憶さえあれば、いつでも心にバラの香りが漂い温かくなる。温かくなった心の吐息とともに目蓋を開けると、いつの間か霧が晴れ、無くなったはずの銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。

*よこやま あお*

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