おだやかな私_note

エピソードⅠ|おだやかな私

 夢の中にいるみたいだった。最後のタイムアウト。コート上で踊る1分間がいつもより長く、ゆっくりと感じられた。意外だった。おだやかな私がいた。

 2018年4月28日。三沢。青森ワッツの2017-18シーズンホーム最終戦。この日を最後に、岩舘千歩はチアダンスチーム「ブルーリングス」のプレーヤーから退いた。 2018-19シーズンからはディレクターに専任する。一年前から決めていた。楽天イーグルスのチアで一度現役を退いている。感傷は全くなかった。
「青森で活動を始める時、兼任は考えてなくて。でも、青森ワッツは県初のプロスポーツクラブでチアチームも初めて。楽天で経験のある自分がプレーヤーとしても手本を示そう。兼任に挑戦してみようって」


 初めて地元にできたプロスポーツの舞台。その素晴らしさを多くの人に知ってほしい。ディレクターとして岩舘はダンスや演出にこだわった。青森らしいチアをつくろう。派手さは要らない。明るくはつらつと。慎ましく上品に。大切なのは立ち居振る舞い。チアを女性の模範となる存在にしたい。プレーヤーとして岩舘は手本を示した。 


 ブースターはブルーリングスを愛した。他チームのブースターも「青森のチアは素敵」と話題にした。初めてアウェーに帯同した福島ではブルーリングスのパフォーマンスにどよめきと歓声が上がった。バスケそっちのけでブルーリングスを真似ていた女の子たちがチアスクールに入校してきた。bjリーグの「ベストパフォーマー賞」も受賞した。 

 岩舘は地元でこの仕事ができることが嬉しかった。楽天とワッツ、球団規模は比較にならない。でも地元の充実感こそ比べものにならない。ブルーリングスはBリーグでも珍しいチアチームへのスポンサーを得ている。コスメティックパートナーとして支援するラビプレはプロテオグリカンなど地元素材による化粧品を開発・販売する。青森から「美」で新しい道を拓く。同じ思い。化粧品とチアなんてベストマッチだ。ありがたかった。
「だからこそ地元企業の理解と支援があり、地元にプロスポーツクラブがあって、チアの活動ができるのは幸せなことだとメンバーにも知ってほしくて」


 メンバーは職場や学校に通っている。限られた時間の中で、岩舘の指導はダンスのみならず姿勢や歩き方などの所作にも及ぶ。厳しすぎるかなとも思う。彼女たちはプロではない。しかし、試合会場ではプロとして行動しなければならない。心を鬼にした。メンバーも応えた。できなかったことができるようになり、自分の意見を言い、助け合った。一人ひとりがブルーリングスであろうとした。メンバーの成長を岩舘は喜んだ。
「表情の固かった子がお客様に最高の笑顔で応えている。こんな笑顔ができるようになったんだ」


 仕事や学校の都合で去っていくメンバーとの別れは辛かった。続けたいけど続けられない。続けてほしいけど送り出さなければならない。この経験を自分たちの人生に活かしてほしい。いや、これからの人生にこそブルーリングスの経験は活きる。社会人として、女性として。岩舘にはプロの矜持があった。そして、自身もメンバーに支えられて成長できていることに気づいていた。
「一緒にやってきたメンバーがいなければ、今の私もブルーリングスもないです」
 5年目を迎え、自分の役割を見つめ直した。手本を示す目的は果たせたかな。後輩に託そう。岩舘は思った。

 三沢での最終戦を終え、チームはオフシーズンに入った。地域のイベントに参加しながら新シーズンの準備も始まる。ブルーリングスのメンバーも替わる。7月、仙台市で開催された東北チアフェスティバルにブルーリングスが参加、岩舘はディレクターとして同行した。新リーダーのMIRAIと2年目のKAEDEが舞台に駆けていく姿を見送りながら、自然な笑顔になっている自分に気づいた。あの時と同じだ。おだやかな私がいた。 


「自分がプレーヤーの時はストイックに追い込んで頑張るぞ!みたいな。でも今は、ブルーリングスを受け継ぎ、これからのブルーリングスをつくっていこうとしている後輩を見守るおだやかな気持ちなんです。ディレクターとしてみんなが輝けるダンスや構成をつくることが今の役割。早くみんなの輝く姿を見たい。こんな母親のような自分もいいかな。そう素直に思えているんです」

 最後のタイムアウト。ゆっくり感じられた時間の中で感謝の気持ちがこみあげてきた。今、おだやかな私の理由がわかる。自分を支え、成長させてくれた人たちへの感謝の気持ちとともに、新しい自分に向き合っている。だから-。6年目のブルーリングスを、岩舘千歩は誰よりも楽しみにしている。
 この思いだけは変わらない。

「私はずっとチアリーダー」

岩舘千歩(いわだてちほ)
青森県八戸市出身。2011年よりプロ野球楽天イーグルスの公式チアリーダー「東北ゴールデンエンジェルス」で活躍。 2013-14シーズンより青森ワッツチアダンスチーム「ブルーリングス」ディレクターを兼任。 2015年4月より青森県に戻り「ブルーリングス」ディレクター兼プレーヤー。 2018-19シーズンよりディレクター専任となる。チアスクールディレクターの「千歩先生」としても青森・八戸・弘前を飛び回る日々を送る。プライベートでは「無類の猫好き」。

ブルーリングス
青森を愛し、青森から輝く女性像を発信する。チーム名には、青く燃える情熱の炎が凛と 輝いて輪(リング)となり、和を広げるという思いが込められる。Bリーグで戦う青森ワッツを鼓舞するパフォーマンスはダイナミックかつキュート。岩舘千歩ディレクターが「青森らしさ」にこだわったチアは、清潔感とエレガンスにあふれ、子供たちや県外ブースター からも人気を集める。Bリーグ発足前年のTKbjリーグではチアグループのベストパフォーマー賞も受賞。チアスクール生で構成されるブルーリングスジュニアチームとともに、青森ワッツのホームゲームを青く彩る。

episode1 | text&photo: Hiroki Nakamura | photo: Shinji Narita

エピソード1は、2018年9月27日付東奥日報別刷、2018年9月28日付陸奥新報、2018年11月14日付デーリー東北別刷に掲載されました。

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青森美人主義

-美しい青森から美しく− Bリーグ「青森ワッツ」のチアダンスチーム「ブルーリングス」、美容成分「あおもりPG(プロテオグリカン)」配合、青森発の基礎化粧品ブランド「ラヴィプレシューズ」、弘前市の新聞「陸奥新報」のコラボレーションによる"青森美人ストーリー"。
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