俺は演劇リボルバー08 二兎社『鴎外の怪談』

#演劇 #劇評

折り込みチラシをくじ引き。引いたチラシを観に行く。それゆけ演劇リボルバー!
①燐光群「カウラの班長会議」→②3.14ch「宇宙船」→③鬼の居ぬ間に「目々連ー覗き込む葉ー」→④ノアノオモチャバコ「ノア版三人姉妹」→イマココ  

はるばる来たぜ湘南台!

湘南台市民文化センター。初めてこの名を耳にしたのは大学で西堂行人氏の授業だっただろうか。その時から一度は来てみたいと思っていた憧れの場所である。
というのも、ここはあの太田省吾が拠点にしていた劇場なのだ。太田省吾はすごい。

無言で人が水道に立ち寄っては去る

代表作の『水の駅』はそれだけの作品だ。演出の太田省吾は毎日水道の滴り具合が気になって毎日水の番をしていたという。そんな演劇界のキングオブ前衛みたいな人が拠点としていた劇場はこんなところでした。

どーん。

地球がどーん

グローブ座でさえここまで地球ではないというのに……。ポストモダン建築の代表作と言われているようで、確かにどことなくつくば万博的な、科学が未来を生み出すと信じられていた時代の匂いが感じ取れる。設計者のサイトを見ると、オープン当時の活況が見て取れます。

しかし、20年以上経った今、いたるところに寂れが……。

そして、その寂寥感を助長しているのがこの貼り紙の数々。

 このせせらぎや池をイメージした施設は、遊び場ではありません。中に入らないでください。
 中に入ってケガをしても施設側では事故に対して一切責任を負いません。
 保護者の方は、お子さんが中に入らないようご指導くださるようお願いします。
  湘南台文化センター施設管理者

せせらぎや池をイメージした施設とあえて前置きする親切心。そして、ケガをしても施設側では事故に対して一切責任を負わないと明記。湘南台文化センター施設管理者。

きけん!とおらないで!

ポップ体のフォントが素敵です。ていうか、こんなとこ通るのって子どもでもいないと思うけど……。

きけん!はいらないで!
きけん!はいらないで!

ポップ体によるきけんリフレインってどんだけきけんなんだよ! 今まで何人怪我人が出たのか気になって仕方がない。

そして、扉も壊される。きけん過ぎる……。ちなみに、この日は12月だったから7か月間犯人探しをしているようだ。

歌や
ダンス練習をしている方々
 ここは、特定の人の専用スペースではありません。
 施設利用者から足を振り回していてあぶないとか、通行に支障があるとの苦情が寄せられています。
 これ以上、苦情が続くようであれば使用禁止などの対応をすることになりますので、ご承知ください。
 施設管理者

よく見るとダンスの上に小さく「歌や」とテプラで追加されています。

これはちょっと……ねえ……。公共施設って何なんだろうか。歌やダンスの練習をする人たちの自由を奪ってまで守りたい公共って何ですか? と施設管理者に問い質したい。
だいたいにおいて、本当に危険を感じるような状態なら施設管理者は口頭で注意するべきだし、貼り紙だけして対話もなく一方的に通達っていうのは卑怯だし、むしろクレーマーに対して、ちゃんと施設管理者仕事してますよって貼り紙でアピールしてるだけのような気もする。

全国津々浦々の公立の劇場やホールに適用されている「公共=みんなのもの、なぜなら税金出してるのは市民だから」という日本的な公共の概念は、突出した個を扱う芸術とは相容れない論理である。その溝を埋めて公共という言葉をアップデートするための人材を輩出すべくアートマネジメントというものが学問として体系づけられ、もう早20年経とうとしているというのに、全く何も変わっていない公共劇場の現場を目の当たりにして観劇前から気分が落ち込みました。

そして、劇場の中に入ってみると、テプラ祭が開催中。あらゆる備品にテプラが貼られています。

お客様及び警備各位
この扉は舞台に光が入る為、解放禁止です!
舞台に光りが入る為
開放厳禁

扉には開放厳禁とテプラが貼ってある。
そして、その扉のドアノブを見てみると、さらなるテプラが貼ってあった。

常時開放

開けたいのか開けたくないのかどっちだよ! 扉は開けちゃいかんが、鍵はかけるなってことだと思うけどわかりづらいわ!

そして、コンセントにもテプラ。

コンセント使用料金一区分¥100
使用確認出来次第加金いたします。ご了承ください!

ちょうどiPhoneの電源が切れていて電気泥棒しようと思っていたので、危うく二兎社に請求がいくところでしたわ……。あと、加金の文字が間違ってるよ、施設管理者さん。

たぶん、舞台上の備品とかもテプラ祭りが開催されているんだろうな……。劇場自体は雰囲気も良く、客席も見やすくていい劇場なのに、あまりにもひどすぎる。公共劇場の諸悪の根源はここに来れば全て学べるような気がします。全国の公共劇場のスタッフの皆さんは視察に来るべき。

世の中の案内板に矢印があふれていつの間にか迷子だ
青木麦生


さてと、鴎外の怪談。実は初めての二兎社だったのだが、永井愛の劇作と役者の力量のみで舞台を作り上げる潔さに感服致しました。

作家としての森鴎外と陸軍軍医としての森林太郎という、この二律背反の構造の描き方が実にうまい。

冤罪の検証もなく共産主義者だからという理由で悪と決めつける政府に対し、大逆事件の裁判の被告人弁護士団のブレーンとして肩入れし、風刺小説で言論の自由を訴える作家としての森鴎外、そして、陸軍軍医として政府高官の有識者会議に参加し、裁判前から死刑を確定させる現場に立ち会いながら何もできない森林太郎。

そして、この構造がそのまま森家の家庭内にトレースされ、自由を求め、若く美しい嫁と、旧態依然とした価値観を持ち、林太郎に森家の当主としての振る舞いを求める姑の間で翻弄される鴎外がユーモラスに描かれる。

さらには、鴎外自身の過去にもフォーカスされ、『舞姫』のエリスとの結婚を果たせず、自由恋愛よりも日本での地位と立場を選んだことを未だに思い悩む鴎外の実存的な視点が描かれる。

という風に重層的に物語を見せつつ、当時は秘密保護法の問題が盛り上がっていた時期なので否応なく現代の社会状況を照射するわけです。

大逆事件の裁判が行われる前に死刑が確定したいたことが有識者会議で明らかにされ結果的に共産主義者を死刑に追い込んだ鴎外に向けられたこの言葉が、実に重い。

私たちは賛成したわけではない。ただ黙っていただけだ。

こういうキナ臭い話をユーモアに包んでさり気なくウィットに富んだ物語にしてしまう永井愛は作家としての力量が際立っている。優れた劇作家だと思います。井上ひさし亡き今、こういうことができるのはこの人しかいないかもしれない。

ベテランの役者陣の安定感は素晴らしく、若手の人も違和感なくついて行っていました。特に姑役の大方斐紗子さん。実に素晴らしい役者さんです。この人こそ人間国宝にするべきなんじゃないだろうか。笑い方一つで笑いを取れたり、ちょっとの仕草、間の取り方でセリフに陰影をつけていくのはお見事。見ていて惚れ惚れします。

いいお芝居みたなー、という思いにさせる作品でした。


ということで、チラシ引きの儀を……という段で立会人が何やらざわつきはじめました。

演劇のチラシがない。

ここで改めて自らの存在意義を問うた。結論が出るまでに2秒かかった。そう、俺は演劇リボルバー。音楽リボルバーではないのだ。ましてや演芸リボルバーでもない。
ここは断腸の思いで演劇リボルバーの終焉をここに宣言させて頂こうじゃないか(ワーイ)。

2014年7月から12月にかけての演劇リボルバーは終わりを遂げた。

①燐光群「カウラの班長会議」→②3.14ch「宇宙船」→③鬼の居ぬ間に「目々連ー覗き込む葉ー」→④ノアノオモチャバコ「ノア版三人姉妹」→⑤二兎社「鴎外の怪談」

【収入】
パトロン提供資金:2,500円

【支出】
カウラの班長会議:3,600円
ムランティン:3,800円
目々連:3,000円
三人姉妹:3,500円
鴎外の怪談:3,500円

実に長い旅路であった。未知の劇団との様々な出会いがあった。最後のリボルバーを書き終わるまでに1年3か月無駄にかかった。その間、永井愛は鴎外の怪談で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。ムランティン・タランテーノは大冒険に出た。鬼の居ぬ間には怪談を作り続け、ノアノオモチャバコは武富士ダンサーズと踊っているだろう。燐光群はいつだってレフトアローンだ。

ここまでリボルバーを打ち続けることができたのも、皆さまの温かい支援があってこそ。文化はパトロネージなしには成立しないというのを身をもって体験致しました。演劇リボルバーは新たな弾を求めて、旅立ちます。

それいけリボルバー! めげるなリボルバー! ありがとうリボルバー!

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