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俺は演劇リボルバーSeason2【2】8月の家族たち

さて、ほぼ一年ぶりの演劇リボルバーの更新。この間、観劇をサボっていたわけではなく、リボルバーは回り続けていた。

ただ感想を書くのがめんどくさかっただけである。しかし、このままでは、ただただリボルバーが回り続け、どんどん書かなければいけないものが溜まっていくばかり。心はどんどん重くなっていき、そんな現実から目を背けるかの如く、今日は焼肉やな、と目の前の快楽を享受し上ミノなんぞ注文してしまう日々。闇金に手を出すとこんな気持ちになるんだろうな……と、増えていく金利に押しつぶされそうになりながら年明けを迎え、だらだらコタツに入っているうちに年度末。花もつぼみを膨らませ、我が精神が一年で最も不安定な気候に晒される中、ふつふつと湧き上がって参りました。

私の業は、そんなものだったのか。

こんなことで、今までドナドナしてきた数万枚のチラシ束に報いることができるのか。

ここで、演劇リボルバー第一回の所信表明を思い出す。

演劇を観に行くと必ずもらう、あのチラシ束。工夫を凝らしたチラシの数々。その一つに込められた思い。打ち合わせに次ぐ打ち合わせ。デザイン考えたりアー写撮ったり校正したり関係各所に確認したり印刷したり誤植を見つけて上からシール貼ったり1万枚のチラシ束から印刷が滲んでいるものをピックアップして抜き取ったり……。どうせ部数刷っても値段変わらないからと5千・6千・7千と次々に増えて配りきれずに事務所の奥で積み重なるチラシ束。公演が終わってドナドナのように台車に載せられて捨てられていくチラシ束よ。もちろん、チラシというのは公演の告知のためにあるわけで、それだけの公演が行われるということに他ならない。知らない劇団。知らない役者。世の中こんなに演劇があるのかと感動すら覚えてしまう。あのチラシ束の重さは、人々の表現欲求、自意識の重さといっても過言ではない。しかし、興味があったとしても、そのほとんどは資源ゴミと化すのが常である。だいたい、開演前や休憩中に選定を始め、興味がないものは劇場に置いてくる。見終わらなかったものは、帰りの電車で選定していらないものは駅のゴミ箱へ。あとは家のトイレに置いといて、興味を持った数枚がトイレに常駐となり、いつしか公演期間が終わって、結局はゴミと化すのである。そんなことでいいのか、と。興味があるかどうかでチラシを選別するなど表現というものを踏みにじる行為にあたるのではないか?今まで捨ててきた数々のチラシ束の残骸にいつか呪われる日が来るのではないか? 我が国においていつまでたっても演劇文化が成熟しない理由は、ぞんざいに扱われてきた大量のチラシ束の中にあるのではないか? 悔い改めなければならない。観劇のスタイルを根本から問いなおすべきである。例えば、チラシ束の中から無差別に1枚抜き取ったチラシの公演を観に行くというのはどうだろう。そして、観に行った時にもらうチラシの中から無作為にまた1枚引いてその公演を観に行く。これを繰り返していくことが、今まで燃やされていったチラシ束の供養につながるのではないか。

このまま、終わるわけにはいかないぜリボルバー。ということで、まず、昨年の5月に観たもののレポートから始めてみたい。

5月某日、夏日、快晴。
まだ湿度も低く、夏の日差しの割には過ごしやすい。絶好の行楽日和である。そんな中、向かった先はBunkamuraシアターコクーン。

またかよ……。
4月の『アルカディア』に続き、2回連続でのコクーンである。今回の演劇リボルバーで引いてしまった公演はこれだ!

『8月の家族たち』シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ2016

翻訳劇、随所にタレント使ったキャスティング、と前回の『アルカイダ』と丸かぶりであった。演出はムランティン・タランティーノの本家、ケラリーノ・サンドロヴィッチ。上演時間はケラ演出安定の3時間半の長丁場。チケット代は、S席・10,000円 A席・8,000円 コクーンシート・5,000円 。もちろん中二階立見席(3,500円)を求めてで当日券売り場に向かった。

並んでいる人が全くいない落ち着いた当日券売り場で中二階立見席の説明を受ける。
「冒頭上手のシーンが多いので向かって左側の席がおすすめです」と巧みに誘導されるが、前回中二階立見を経験済みのリボルバー。受付の席割図をチラ見して、誘導された方と逆の右側席がガラガラなのを確認するや否や、電光石火の勢いで右側を選んだ。無事、立ち見席のチケットをゲットした私は、意気揚々と中二階立見ラバーのスローガンをシュプレヒコールしながら客席へと向かった。

多少の見切れよりも、立見の自由を!

多少の見切れよりも、立見の自由を!

誰か「シアターコクーンpresents 中二階立見ラバー」って連載やってくれないかな。ステージナタリーさん辺りで。

中二階立見席に向かうと、予定通りのエリア占有状態である。さーて、今日の消費カロリーはどれぐらいかな、何ならヨガマットを持ってくればよかったなー、とエクササイズのメニューをシミュレーションしつつ、開演を待った。

が、しかし、私の目論見は脆くも崩れ去った。

普通に面白かった。

気がついたら3時間半があっという間に終演。夢中で観劇してしまった。エクササイズをしている暇など全くなかった。カーテンコールの時には、スタンディング・オベーションさえしていた。出色の出来だった秋山菜津子が出てきたところで会場が一気に沸き立って一層の拍手。麻実れいがラスボスの如く出てきたところで、今日一番の万雷の拍手。立ち見席から劇場全体を見渡しながら、その思いを劇場にいる人たちみんなと共有していることに感動して若干目を潤ませながら、私は目一杯の拍手を送っていた。

いやー演劇って本当に素晴らしいですね。
麻実れいも秋山菜津子も何回か観たことがある役者だったけど、今回ほど凄みを感じたことはなかった。さすが、ケラは秋山菜津子の使い方を一番わかってらっしゃる。気をてらうわけでもなく、戯曲と役者の本質を引き出すだけの演出、素晴らしかったです。一時期、サリンジャーやサローヤンやテネシー・ウイリアムズを好んで読み漁っていた時期があって、その時好きだった病んで弱いアメリカが描かれていたことが自分好みだったのかもしれない。前回に続き、引用してしまって恐縮ですが、徳永京子さんの紹介と評に唸らされました。

演劇最強論-ing ひとつだけ

note ネタバレですが『8月の家族たち』についてこれだけは

私は反省した。なんでこんなに期待していなかったのか。つまらないと勝手に思い込んで、3時間半の綿密なエクササイズメニューを事前に立てていた私を恥じた。つまらないと決めつけていたのは何が原因なのか。

ぜんぶ、チラシのせいだ。

新作がほぼ全てを占める日本の演劇界では、チラシは特別な意味を持つ。完成されていない作品のイメージ・内容をチラシによって告知し、集客を目指す。観客はチラシを見て想像を膨らまし、日程やチケット代などの現実的なあれやこれやを調整しながら、チケットを買うかに至る。何より、リボルバーが次の公演を観に行くことができるのもチラシのおかげである。

偶然にもリボルビングしたこのチラシを改めて見てみる。

A3の二つ折りチラシ。表面にはメインビジュアル。裏面にはオレンジの背景にオレンジという攻めた色合いでキャストが綴られている。安定した顧客層を抱える宝塚系の麻実れい、音月桂、ケラの世界観を支えるナイロン系の犬山イヌコ、劇団健康出身の秋山菜津子、小劇場界隈の人気役者生瀬勝久、橋本さとし、芸能界からは常盤貴子、そして村井国夫、木場勝己といった新劇出自の渋い役者が締める。適度に公演の主催でもあるキューブ所属の役者を散りばめた盤石のキャスティングである。

そして、中面を開くと、あーナイロンだなぁというスラップスティックさを表したお馴染みのレイアウト。

事前の情報をチラシからしか得ていなかった私は、すっかり、海外で話題の翻訳劇を気鋭の演出家が充実のキャストで贈る極上エンタテインメント系のものかと思い込んでおりました。普段の自分では絶対に触手が伸びない類の公演である。こういった自分とは遠いものと出会わせてくれるのも演劇リボルバーの醍醐味といえるだろう。

終演後、劇場を出るとちょうど10日前に亡くなった蜷川幸雄追悼の記帳台があった。恥ずかしながら蜷川幸雄作品は観たことがない。自分の中では、蜷川というだけで触手が伸びない類の公演に分類されてしまっていた。簡単に言うと、ジャニーズとか若い男の俳優さんを使ってるからです。ケッと思うわけです。チケット代も高いし。しかし、自分の興味・嗜好に従って物事を摂取していくと、非常に狭い世界しか体験することができないことになるということを改めて思い知らされました。

蜷川幸雄の追悼特番をNHKでやっていて、もう見るからに体調の悪い蜷川さんが気を振り絞るようにネクストシアターの若い俳優たちに稽古をつけている姿を見た。たぶん、この人にとっては相手がアイドルだろうが名もなき若者だろうが、関係ないのだろう。興行である以上は、キャスティングには大人の事情も絡むこともある。でも、舞台に上がれば、そこには芝居があるだけ。勝手なレッテルを貼って、見る芝居を選ぶ観劇姿勢を問われているような気がした。身が引き締まる思いで、記帳台に「演劇リボルバー」と記し、劇場を後にしました。

懸命に働いた人が夢を見るために集まるのが劇場だ ――蜷川幸雄


さて、チラシ引きの儀。立会人は必死に餃子の皮をこねているこの方々です。

目隠し、手袋、挙句の果てにバランスボールに乗らされ、俎の鯉のリボルバーさん。

そんな過酷な条件の中、引き当てたチラシはこれだ!


マーダーバラッド@天王洲銀河劇場

!!!

ミュージカル???

チケット代を見て戦慄した。

ステージシート席 12,800円 (パンフレット付)
全席指定席 10,800円
(全席指定・税込)

中二階立見・・・ないよね・・・。

暗澹たる気持ちを抱えつつチラシを握るリボルバーであった。
めげるなリボルバー!働いてチケット代稼げリボルバー!!実はもう半年も前に観終わってるから早く書けリボルバー!!!

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