ハヤテのごとくに向けて(ハヤテのごとく!二次創作小説)

埃まみれの都会の空
油まみれのビルディング
繰り返す毎日の満員電車
静かに開く地下鉄の改札

流れゆく人々 暮れゆく人々
忘れゆく日々 
急ぎ続ける 走り続ける他にない

かつての風船 夢中になった風船
壊れてあった風船 また風船を膨らませてみよう



「こんばんは」
彼はそう告げた。僕はすっかり忘れていた。
その青い髪、天然ジゴロ。そう誕生日は11月11日だ。
彼は何でもできるが器用貧乏だった。

彼と僕の出会いはずいぶんの昔のことだった。
テレビジョンに映る。アニメーション。
漠然と記憶に残っている。
そのあとはブックオフに行った。3巻まで中古で買った。
何回も繰り返した、なぜなら100円で手に入ったのが3巻までだったから。
もうよく覚えていないのだけれども、3巻ぐらいまでは伊澄さんがフューチャーされていた記憶がある。戦わなければ生き残れないのだ。



3:55
乾いた電子音が冬の朝に響く。太陽を顔を出さない朝。これがいつもの僕の朝だ。
自分の身支度は省時間で、最低限だ。
まずは顔を洗う。冷水で顔を濡らすだけで目を覚ます。
タイムイズマネー。貧乏人は自分のために使う時間は短ければ短いほどいい。
仕事衣装に身を包む。毎日着る服装だからこそ、毎日新鮮な気持ちで着こなす。
就寝前に丁寧に手入れした執事服に袖を通す。
食事は朝ご飯の支度をしながら、速やかに済ませる。これが僕の毎日だ。

「おはようございます」
僕は姉さんと一緒に厨房に入る。
姉さんは僕よりも早く職務に就いている。
姉さんは一人で誇張抜きで10人分の仕事をする。さらにその仕事の精度とレベルが高すぎるのだから、もう完璧超人というほかにない。
僕はずっとこの仕事をしているが、昔から失敗ばかりで姉さんに迷惑ばかりかけてきた。
もう10年以上は経っただろうか…。10年やっても、まだ形にはなっていない。
天文学的な負債は消え去ったが、あくまでマイナスがゼロになって、人並みになっただけだ。
これから僕はどう積み重ねていくのだろうか。



あの頃は僕は少年だった。
僕は学校から親から逃げた。
僕は漫然と自宅で過ごした。
たまに来るのは、気まずそうな顔をしながら来る担任だった。
僕は三国志と信長の野望を左手に添えて、漠然とした日々を積み重ねた。
答えなど誰も知りやしなかった。大人でさえも。

僕にとってインターネットの世界が新鮮なことだった。
毎日見ていたケーブルテレビは見飽きたし、日中は何も面白いものがない。
あるインターネットサイトに出会った。知らないうちにずっとそこにいた。



3:55
世間というのはくだらない。
大人は見栄と外見に拘っていて、つまらない人間関係。
上辺の人間関係。理解されぬ、理解に苦しむ関係。
ある文豪もこう言っていたではないか。
智に働けば角が立つと。
兎角にこの世の中は生きにくいのだ。
だから、人が生きるのには哲学が必要だ。芯が、表現が必要だ。
私の漫画、この私の漫画、私の表現。
私は家柄ではない、私は金銭ではない。私は、私だ。

「よっしゃあ!」
私はゲーミングモニターに叫んだ。
目の前のアーミーを、エネミーの頭部を貫いた。
つまり、人生とは、この反復するゲームの連続だ。
「また、新しいマッチングを始めよう…」
LEDで装飾するマイルーム。
輝かせることに意味なんかない。
そうだ、いくら機械のスペックが凄かろうと、私がエネミーをキルできるかは、この私の問題だ。
私はあらかじめ用意された機械ではない。



人とつながるとは大切なことだ。
もちろん、当時はそんなことを考えやしなかったが。
僕は初めて文章を書いた。
僕は拙い手でローマ字を画面上にタイピングした。
僕は改行の仕方すら知らなかったが、僕は執事と和服と神父の話を書いた。
色々な人と話せた。初めてはお茶の会だった。



3:55
「むにゃむにゃ…」
私はぐっすりと眠る。なぜなら、私はザ・普通の人の代表だからだ。
9時に寝て4時に起きるのは、敏腕の経営者ぐらいなのよ。
私はちょっとだけ夜更かしをして、7時30分に鈍い頭を擦らせて、少しだけ奮発したドリップコーヒーを胃に注ぐ。
私はコーヒーの色を匂いを嗅ぐたびに思い出すことがある。
あの店長の顔、あの爽やかな消えてしまいそうな後ろ姿。
彼はいつも私を置いていく。
私が高校生している間に、彼は自転車を走らせて、いつの間にか高校を転校していた。
私は追いかけたかった。このままじゃ、あまりにも普通だったから。
背伸びしていることは分かっていた。でも、あれは必要な背伸びだったわ…。




クラクション
淡々と流れるニュース
悲しいことを冷静に伝えるニュース
クラクション
鳴り響く クラクション



その時の僕のすべてだった。
僕は執事とお嬢さまとの間柄に夢中だった。
経験したことがない恋愛。少し広大になる世界観。
よくわからないが連発されるパロディ。
それまで漫画とはただ見るものだったが、こう自由に解釈して動かしていいんだと思った。
生きる意味など、希望など塵ほどもなかったが、この作品が終わるのは見届けたいと思っていた。



5:00
1時間働く。料理と起床までの準備、ある程度は目途がついた。
淡々と料理をする。
いつもの料理、いつもの紅茶。
お嬢さまは食に未だ関心がないが、かといって味付けの違いには敏感で、手を抜くとすぐに見抜かれる。
お嬢さまは今日もインターネットゲームでドンパチしているんだろう。
これもいつものことだ。反復する日々。いつもの些細な日々。
この後は姉さんとお嬢さまが少しばかり口喧嘩をする。
姉さんは仕方なさそうにお嬢さまを諭し、お嬢さまはいつものことかとめんどくさそうにあしらう。
そして、5分ほど押し引きがあって、僕が姉さんとお嬢さまに紅茶を勧める。
そうすると、うやむやになって、朝食が始まる。
まあ、お嬢さまにとっては遅すぎる晩御飯なのだが。
これでいい。この日々が続いていくことに意味がある。



5:00
「ラグなのだ! 絶対、当たったのだ! おかしいのだ! 回線絞ってる、絶対に!」
ゲーミングマウスをクッションに殴り捨てる。
画面には順位が表示される。そして、次のマッチングへのカウントダウンが表示される。
「こうなったら、このゲーム会社の株式を買収して、サーバを強化してもらって、不埒なプレイヤーを徹底的にBANしてもらうしかないな…」
ゲーム画面から切り替えて、いつもの業務用の画面を開こうとする。
「いや…そんなのはつまらない。そんなのはワクワクしないんだ…」
ゲーミングチェアを軋ませて背伸びをする。
腰と首筋が悲鳴を上げている。生きている感じがする。
重くなった腰をゆっくりと上げて、床に転がるマウスを手に取る。
「まだだ。もう一回、もう一度だ」
外に出る意義など感じない。
現代社会は便利すぎる、ECサイトに頼めば物質的なものはすべて手に入る。
ありとあらゆるサービスは廉価で手に入るようになった。
個別にそれらを用意するのは、娯楽の域でしかなくなった。
私にとって必要なものは、この場所だけで手に入る。
だが、あの漫画、あの熱意はどうだ…?
この場所にいるだけで手に入るのか…?



僕は新しく友人ができた。
周りなど見えなくて、自分のことなどよくわからなかったが、毎日楽しく過ごした。
スマッシュブラザーズ、地下鉄での移動、ガンダムの話。るろうに剣心、武装錬金。
夢中で過ごした。自分に自信などなかった。僕は劣等感の象徴だった。
僕は夢中で過ごしたほかの人とは違う中学時代を、振り払うように高校に進学した。
執事とお嬢さまは僕の日常に何となくいてくれたが、徐々に影を薄めていった…。



5:00
走り続ける。私は日課のランニングを続けていた。
毎日、自分に負荷を。ビジネス社会は絶えず走り続けなくてはいけない。
走り続ける、何のために?
昔を、何を感じていたのかしら…。
親への憎しみ、愛情をもらなかった腹いせ。
それでも、不明瞭の物を抱えていても、判断を、決断を続けていく。
考えるのをやめよう。走り続ける、冬の冷たい空気に白い靄がかかる。



襲い掛かる切迫感
貫き通す自己論理
心をコントロールする
日々、積み重ねる
何処に走る 何処へ走る
いつ、辿り着く?
あの人ならどんなことをいうかしら…
駄目ね。あの人がいると緩んじゃうから…
ただ走り続けろ



僕は彼らの行く末を淡々と消費し続けた。
話は大きくなり、キャラクターは成長していく。
舞台は変わり、人は増え、人間模様は複雑になっていく。
執事の在り方に文句を言いたくなる僕は、ただあの時を維持していたいだけではないのか…?



7:30
朝食を片付ける。今日、姉さんは外で所用があるらしい。
朝食が済むと、お嬢さまはいつも通り自宅に向かわれて睡眠を取られる。
こんな時期も必要なんだ。僕もそれぐらい分かっている。
確かにこの生活は金銭面で困ることがない、お嬢さまの資産運用のセンスはずば抜けている。
ありあまる金融資産からのインカムゲインで十分すぎるぐらい生きていける。
お嬢さまはお金を増やすことの才能はあるのだけれども、管理したり計算することにはまるで興味がないようだ。
だから、僕は姉さんと協力して資産管理を手伝っている。

でも、情熱をエネルギーを持て余している。それはわかっている。
だけど、僕にできることは、こうやって日々暮らすことを、丁寧に支えることだけだ。
今日はカーペットを綺麗にしよう。
カーペットになるとなかなか難しかったが、10年も続ければ慣れたものだ…。



7:30
体をベットに投げ捨てる。疲弊した前頭前野を洗浄したい。
今日が始まり、今日が終わる。
昔好きだった、福本伸行はなんて言っていたか。
まあ、今日はおしまいだ…とにかくおしまいだ…。
考えたくない。



7:30
スマートフォンのアラームが鳴り響く。
ああ、冬の布団ってなんでこんなに包容力があるのかしら。
離れさせてくれないわー。
…なんて、バカなことを考えてないで起きよう。

電気ケトルに水を入れて、加熱させる。
寝ぼけた顔に頭に、水を触れさせる。
ひんやりした感触とともに、頭の鈍さがバウンドする。

トースターに、いつの日かの思い出の影を残したコーヒーカップに。
少しばかりの贅沢の卵製品、乳製品を添えて、いつも通り至って普通に。

ぼんやりとしていると遅刻しちゃうかも!
遅刻すると、あの人の小言がめんどくさいからなー。

洗面台で鏡とにらめっこした。



あの頃の友人はいまどこを走り続けている
今はどんな顔をしている
真夜中のドライビングロード
朝靄がかかる 静かな住宅街
あの頃の思い出をすべて忘れて
地下鉄のリズムに合わせて 揺れていた



7:30
人生はマラソンなのか。
なぜ、そんな例えば好まれているのか、よく分からない。

私は朝にオフィスに出社し、30分でタスクを崩し終えた。
メールの山と、書類の優先順位をつけて、オフィス街に出た。
この7時30分、他の人がオフィスに向かうことしか頭にない時間。
このわずかな時間に、このわずかな場所に、灰色の壁と空に飲み込まれない空間がある。
ほんの少しの街路樹と、ベンチがある場所にたたずむ。
5分だけでいい。私は木刀を手に取る。
1回、1回。ただ振り続ける。
ひとつひとつ、何かを振りほどいていく。

私は私の進むと決めた道を走り続けている。
昔、私によく似た子がいたわね…。
負けず嫌いで、自分を曲げたくない、そんな脆い、ナイフだ。
私はまだ走っているわよ。



真夜中のドライビングロード
闇夜の中を走り続ける
吹き抜ける風と何かを忘れるために走り続ける
かすかな街灯といつか明けるだろう朝に向けて走り続ける

俺たちは違うロードを走り出している
でも たまには徒歩で 何も持たずに歩いたっていいんじゃないか



埃まみれの都会の空
油まみれのビルディング
いつもと少し違う道を歩いてみる
誰も歩いていない道を歩いてみる

かつての風船 夢中になった風船
あの時の風船 また風船を飾ってみよう…

俺たちは同じ道を歩いている




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