電車で会った気持ちの悪い奴

ほぼ満員の状態で、都内から最寄りまでいくと隣にはずっと気持ちの悪いやつが一緒だった。正確には「ただの隣席者」が途中から「とてつもない異常者」に思えた。

はじめはただ隣に座ってるだけの存在だったが、途中、奴の手がぼくの膝の上に抱えるようにしておいたリュックに触れた。リュックに偶然触れた感じではなく、その端につけたキーホルダーにだ。違和感は覚えたが、奴の体のどこかに僕のバックやキーホルダーが触れてしまっただけだろうと、むしろ申し訳ないような気持ちで、なるべく身を縮め動かないように努めた。「すみません」と口に出したかもしれない。

他に席は空いていなかったし、あと30分はその電車に乗らないといけなかったので“ただただじーっと”していた。しかし、また奴が僕のバックに触れた。今度は自分と僕の境目に線を引くようにー汚いものでも払うようにー手刀のようなものを入れてきた。咳の振動がわかる距離だからわかる、明確な悪意を感じた。気持ちが悪かった。余計に動いてはいけないと思った。今思えばその時に違う場所に移動すればよかったのだが、「なんでわしがどかなあかんねん」と思い始めていたので不快に思いつつもまた“じーっと”していた。
しかし、体制が悪かったのか、抱え込んだはずのバックから肩紐がぺろんと、本当に少しだけぺろんと奴の方にたれた。その瞬間、奴はひとのバックの肩紐をむんずと掴み、ぐいぐいぼくの股の方に押し返してきた。その間、奴はなに食わぬ顔でずっと携帯をいじっていた。奴にとっては日常だったのだ。

たったそれだけのことだ。

たったそれだけのことがとてつもなく恐ろしかったのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?