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八丈島でサンストーン(日長石)探し!

夏の仕事を終えて、私はウン週間ぶりの休暇を得た。
少し遅れた夏休みの旅行先は、八丈島だ。
だが、シュノーケルや登山をするわけではない。例によって、石探しが目的だ。

絶景かな

八丈島でサンストーン(日長石)と呼ばれる石が採れるという話は、鉱物マニアの間で有名だ。
サンストーンとは、銅などを含有することによって赤く(時に青に)見える灰長石のことである。
サンストーンという名称は鉱物名ではなく、灰長石の変種につけられた宝石名だ。
ビーチコーミングで瑪瑙や碧玉などの半貴石を採集していたが、宝石鉱物は初めてでテンションが上がる。
私はよくお世話になっている鉱物専門店さんから事前情報を得て、八丈島の僻地である石積ヶ鼻へと挑んだ。

当日は気温31℃快晴
海風が心地よいが、湿度がすごいし日差しがじわじわと照りつける。
この時期の八丈島の日差しはやばいから日焼け止めを塗った方がいいよ、と現地のバスの運転手さんからアドバイスを頂いたが、私はストールで腕を覆っているので大丈夫だと答えた。だが、湿度と気温が高い状態でストールを巻いていると、蒸し焼きになる感覚に襲われる。
末吉温泉のバス停から産地まで歩くうちに、私はストールを脱いでしまい、なまっちろい腕は八丈島の日差しによってこんがりと赤く焼かれることとなった。

この道中で謎のおじさんと出会う(後述)

さて、しんと静まり返った細い道を延々と歩いて行くと、見晴らしがいい場所までやって来た。
見晴らしがいいと言ったら聞こえが良いが、要は、である。
強風にあおられてふらついたら終わりだ。因みに、周囲には人が全くいない。
さっそく命の危険を感じた私は、震えながら産地を探す。
どうやら、溶岩が固まった岩場が件の産地らしい。周辺を見回せば、それは崖下に見つかった。
何とかアクセスできる場所を探し、息を殺して慎重に下りた。

一歩踏み出したら足場はない。

産地に辿り着いた時、私は思わず息を呑んだ。
玄武岩質の溶岩が、流れた時のままの荒々しい表情を覗かせていた。
どうやらこの場所は、25000年以上前に東山が噴火した際、形成されたらしい。八丈島は東山と西山が幾度となく噴火した過程で形作られたのだが、そんな八丈島の歴史の中でも、初期の方に生み出された場所が海食崖として眼前に横たわっている。
なかなか感慨深く、私はしばしの感動を味わった。

溶岩跡がイケメンすぎて泣いた。

だが、それも束の間。
周囲が岩場に囲まれているせいか、熱を帯びた空気が滞留している気がする。体内に熱がこもって汗がじわじわと滲み出し、蒸篭の中のシュウマイになった気分だ。
ここに居続けたら危険が危ない
そう感じた私は、いそいそとサンストーンを探し始めた。スマホも圏外だし、人通りがある道路からは離れすぎているし、何かあったらそこで終了だ。体力があるうちに目的を完遂しなくては。

焦りながら探し始めたにもかかわらず、灰長石はすぐに見つかった
なんと、岩場のあちらこちらに埋まっているのである。辺りを見回せば、探す間もなく視界に入るくらいだ。
やがて、赤い灰長石――すなわちサンストーンも見つかった。白いものに比べたら少ないものの、こちらも注意深く探せばすぐに見つけられる。

灰長石付きの岩がその辺にあるというか、その辺の岩に灰長石がついてる。

岩に埋まっているものはハンマーを用いても採集するのが難しいので、落ちているのを拾った方がいいというアドバイスを事前に頂いていた。美しい溶岩流の跡にハンマーを下ろすのは抵抗があったし、なにより装備が重いので持って来たくなかった。
なので、私は軍手とシャベルを用いて地を這いながら落下したサンストーンを探した。運が良ければ、綺麗な分離結晶が手に入るらしい。

これはいい日長石。だが、採集は不可能だ。

岩場から零れ落ちたサンストーンはすぐに見つかったが、できるだけ母岩が付いていて産状が分かりやすく、かつ、サンストーンの名にふさわしい赤いものが欲しいと思いながら選別をする。

そうしている最中も、蒸篭のような暑さが私の体力を奪う。
辺りは静かで、聞こえるのは激しく打ち寄せる波の音だけだ。産地の入り口に大量のフナムシがいてドン引きしたが、少し入ると虫すら見当たらない。先日雨が降ったとのことだったが、地面はすっかり乾いていて砂が舞っている。
死の気配を色濃く感じた私は、辛うじて赤いサンストーンと灰長石を幾つか拾い、大地の恵みを分けてくれた産地にお礼を言いながらその場を去った。

代謝はそれほどいい方ではないはずなのだが、全身汗だくになっていた。空港で買った明日葉茶はすっかりぬるくなっていたが、沸騰しそうになっている身体に染みた。

因みに、産地に向かう途中の藪の中に住み着いている人がいてビックリしたが、どうやらその周辺の管理を任されている現地の方らしい。秘密基地のようなものだったのだろう。
帰路のバスで一緒になり、産地の詳しい話を聞けて大変勉強になった。昔は今以上に石が採れたそうなのだが、めっきり少なくなってしまったらしい。糸魚川や七里長浜でも同じことを聞いたのだが、どこの産地にも共通する問題なのだろう。
私は元々、「帰りの荷物が重くなるとしんどいので、選別して必要最小限を持って帰る」を信条にして採集を行っているが、今後もその方針を曲げずに行きたい。

さて、今回の成果はこのような感じだ。

かわいい。トップ画像のサンストーンの方が大きめ。

このサンストーンは、自然銅が一定の方向に配列しているために赤く見えるという。
サンストーンと言えば、アメリカのオレゴン州で採れるものがとくに有名で、オレゴン州では偶に青っぽいものも産出する。

まるでおにぎり。白い部分は灰長石で、黒い部分は普通輝石だろう。
灰長石の隣にあるのは普通輝石だと思うが、橄欖石っぽいのもわずかながら窺えた。

こちらは通常の灰長石だ。
よく見ると、橄欖石らしき石や、普通輝石らしい石も見える。
これらは火山弾の斑晶としてよく見られ、世間を騒がせた福徳岡ノ場の軽石でもお馴染みのメンバーだった。ただし、こちらは玄武岩質のスコリアなので、母岩が黒っぽいのだが。
また、大きな灰長石が見られるのは珍しく、八丈島は世界的にも有名な産地の一つとのことだ。

テキトーに拾ってこのサイズ。

さて、目的のサンストーンも無事に採集し、その後はマッタリと八丈島を満喫することになった。
といっても、残暑が厳しい中だったので、ほとんど暑さに喘いでいた気がする。海遊びをするのでない限り、夏の八丈島に来るもんじゃないと思った。暑すぎて現地人はほぼ歩いてないし

更に、バスが通ってなくてタクシーは面倒くさいからという理由で、神湊から宿泊先の「リードパークリゾート八丈島」まで上り坂徒歩36分を炎天下で踏破してしまい、大浴場でひと風呂浴びた後は何もする気が無くて、強制的に「なにもしない」をしていたのは別の話。
しかし、そんな中でも心地よさはあった。ホテルの周りは牧場以外何もないので、ノイズを感じることなくのんびりと過ごせた気がする。

赤い屋根が宿泊先。気温は31度、湿度82%。歩いている馬鹿は私だけだ。

今回の反省点は、海遊び以外で八丈島に行くのは真夏を避けることと、都心の人間特有の「面倒くさいから歩く」を島で発揮しないことの二点だろう。
常に海が見えるのは最高だし、山も綺麗だし、空気が良くて、海鮮と乳製品がむやみやたらに美味しいので、次は暑さが厳しくない時に来ようと思う。

何にせよ、この一泊二日はコンクリートジャングルから抜け出せたし、復路の飛行機の中からはブロッケン現象も見られたので、秋からまた頑張れそうな気がする。


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