近代世界システム(1)

戦争の海の近代世界システム

1.日本とヨーロッパにおける近代文明の同時勃興

 近代はアジアの海から誕生した。より、正確にいえば、海洋アジアからのインパクトに対するレスポンスとして、日本とヨーロッパに新しい文明が出現した。それは戦争、征服、奴隷化など暴力的収奪を特徴としていた。


2.ヨーロッパを魅了した海洋アジアの物産

 ヨーロッパに出現した近代社会は、「近代世界システム」と呼ばれる。それは16世紀を中心とする190年間(1450~1640)に、西ヨーロッパを中心とし、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸を周辺地域として形成された。

 近代世界システムの提唱者ウォーラステインによれば、その契機となったのは、14世紀のヨーロッパ全域を襲った危機であった。技術進歩のない封建制のもとでの土地の疲弊、戦争の勃発、そして全土を間欠的に襲った疫病である。

 特に疫病によって、ヨーロッパの人口の1/3が失なわれた。当時は胡椒や香辛料が疫病の医薬と考えられており、いくら高くても需要があった。ヨーロッパ人が憑かれたようにアジアやアメリカを目指して、大航海に乗り出していったのは、これらを求めてのことである。

 香辛料の産地は、当時、「香料諸島」と呼ばれた東南アジアであった。ヨーロッパ人がここにたどり着いた時、この地は中国、インド、東アフリカの3地域を結ぶ活発な海洋貿易の一大中心地域であった。そこでは、胡椒・香辛料以外にも、木綿、絹、砂糖、コーヒー、宝石、陶器など、実に豊かで多様な物産が交易されており、ヨーロッパ人はたちまち魅了された。

 しかし、交易をしようにも、ヨーロッパには売るものがなかった。毛織物をさかんに売り込もうとしたが、インド、東南アジアはむろん、中国や日本でもさっぱり売れなかった。

 ヨーロッパ人の欲しいものはアジアにしかなかったのであり、一方、ヨーロッパ製のものでアジア人のほしいものはなかったのである。

 幸い、新大陸南アメリカで銀山が発見され、ヨーロッパ人はその銀をアジアに持ち込み、交易を行った。

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