西洋哲学史まとめ②

 ヘレニズム時代において、ギリシアのポリス社会は、アレキサンダー大王の遠征後崩壊してしまっていた。社会秩序は不安定になり、政治や社会に期待ができなくなっていた。そのような時代においては、自己の内面世界の安定、個人がどう生きるべきかを問う思想が流行することとなった。
 ここでは、ピュロン、エピクロス、セネカの思想を概観する。

ピュロン(BC365頃~BC270頃)

 ピュロンは、極端な「懐疑論者」であった。懐疑論の始祖ともいわれる。
 ピュロンは彼の哲学を、幸福になりたい人が抱くべき3つの問いにまとめている。
① 事物は実際にどのようなものか?
② わたしたちはそれに対してどんな態度を示すべきか?
③ そうした態度を示せばどうなるか?
 これらの問いに、ピュロンは以下のように答えた。
 第1に、わたしたちは、世界が本当はどのようなものであるかを知ることができない。誰も実在の本質、真理を知ることはできない。人間がそれを知るのは不可能であり、独断と断定は避けるべきだ。そもそも、もし真理などというものがあるのであれば、学説が分かれて論争されるようなこともないはずなのである。それゆえ、わたしたちは実在の本質、真理については考えなくてよい。
 第2に、上記の結果として、どんな見解にも固執すべきではないことになる。真理などというものは何もわからないのだから、すべての判断を保留(判断停止=「エポケー」)すべきだ。
 第3に、このような考え方をすれば、すべての不安から解放され、アタラクシア(心の平安)を得られるのである。
 ピュロンのこうした懐疑主義は、のちにデカルト等に受け継がれていく。

エピクロス(BC341~BC270)

 エピクロスは快楽主義を説いた。
 エピクロスは、快楽について、「祝福された生の始源(アルファ)であり目的である(テロス)である」として、その追求を肯定した。そのうえで、食欲や性欲などの身体的快楽は「動的快」であるのに対し、知恵は「静的快」であるとした。そして、静的快は、身体において苦がなく、魂において乱されぬことであり、心の平安(アタラクシア)の心境に至ることができる、快楽主義の究極の目標だとした。

 エピクロスの快楽主義は、食や性などについて自由奔放であると誤解されがちである。しかし、エピクロスが説いたのは、むしろ、ライフスタイルを簡素にし、周囲の人々に親切して、友人に囲まれて暮らすのが最良の生き方だ、ということである。足るを知る、という老子の思想と通底するものである。

 エピクロスは、死への恐怖について、死に対する恐怖は時間の無駄であり、誤った論理にもとづいていると主張した。
 われわれは、生まれる前にずっとこの世に存在しなかったが、それを不安に感じたことはないだろう。であるなら、なぜ死後、この世から存在しなくなることを不安に思う必要があるのだろうか。わたしたちは非対称にも、生まれる前のことよりも死んだあとのことを心配する。しかし、それは上記のとおり間違いなのである。それが理解できれば、死後のことも、生まれる前のことと同じように思えるはずだ。そうなれば、死への恐怖などなくなるだろう、死とは一切の苦しみや不安からの解放なのだから、とした。

セネカ(BC1~AD65)

 セネカはストア派(禁欲主義)の哲学者である。
 ストア派の基本的な考え方は、変えられることのみを心配せよ、というものである。上記した他の思想同様、心の平安(アタラクシア)を目指している。
 わたしたちは、何が起こるかはコントロールできないことが多い。しかし、それにどう対応するかはコントロールできる。このコントロールできることのみを心配せよ、というのである。

 ストア哲学では、感情は論理をあいまいにし、適切な判断が損なわれるとされた。感情は制御するだけでなく、可能なかぎり排除すべきであるとする。ストア哲学においては、「理性や意志の力で欲望に動かされない」ことをめざし、「不動心(アパテイア)」を理想とした。

 ストア派の哲学者であるセネカは、人生の短さについて考察した。
 セネカは、問題は人生がいかに短いかではなく、わたしたちのほとんどが与えられた時間をうまく使っていないことだと考えた。人生が短いと不平を述べても仕方がない。そうではなく、短い人生を最大限に活用することが重要なのだ、という。つまり、ここでも人生の短さというコントロールできないことを心配するのではなく、いかに時間をうまく使うかという、自らがコントロールできる事柄を心配せよ、というのである。人の人生は、無駄なことをして浪費しなければ、多くを成し遂げるのに十分なほどに長い。
 ストア哲学では、世捨て人のように他者から離れて暮らすのが理想とされた。もっとも有意義に生きるには、哲学を学ぶべきだとも指摘をした。それこそが真の生き方だというのである。


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