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旅のチカラ

「旅」といえば一人旅。
それも国内ではなく、海外を一人で旅する人に私はいつも憧れの目線を勝手に送ってしまう。

今日は「旅」と「過去の自分」を少しだけ振り返りながら、私にとっての旅を綴りたい。

私が自分の言う「一人旅」を初めて経験したのは2012年のことだった。季節は夏から秋に変わろうとしていた。
この当時、私はまだ大学生で就職活動が解禁される前に漠然と一人旅がしたいと思い立った。
「思い立ったが吉日」という言葉のとおり、気づいた時にはパソコンの前で飛行機の予約とBooking.comでホテルの予約を完了させていた。我ながら毎回こういう仕事だけは速いなと感心していて、それは今も変わらない。
大学生の私は何かやりたいことを思いつく度に「思い立ったが吉日」という言葉を自分自身に乱用してあれこれした。テレビで特集されていたデート特集を見てすっかり感化されてしまい、当時好きだった人に自分からデートに誘ったこと。ヴィレッジヴァンガードの店内にあったバイトの募集の張り紙を見て店員さんに「バイトがしたいんですけど。」と声をかけたこと。思い立ったが吉日なんて言葉を使うと少し違和感があるかもしれない。きっとこれらに当てはまる言葉はどれも「度胸」や「勇気」といった言葉が自分の背中を押していたんだと思う。それらの言葉が今の自分にはしっくりくる。当時好きだった人とはうまくいかなかったけれど、ありがたいことにヴィレッジヴァンガードのバイトには採用された。

一人旅の行先はお隣の国、韓国ソウル。
今もなお徴用工等の多くの外交問題を抱えている日本と韓国だけれど、この年ももちろん例外ではなかった。日韓情勢が険悪だったのに加えて北朝鮮からのミサイル発射を理由に母に何度も韓国行きを心配されながら関西国際空港発ソウル仁川国際空港行きの飛行機に乗り込んだのをよく覚えている。
旅の行先を韓国にしたのは当時円高だったので韓国に行くことが国内の旅行よりも容易だったのとバイト先の仲良しだった先輩二人がソウルに留学中だったので会いに行こうと思った。ただそれだけであった。

学生だったので、時間だけはたくさんあった。だから、いろいろな予定を詰め込んだ旅行だったはずなのだけれど、今となっちゃ記憶が曖昧だ。ただ、食べた料理と連れて行ってもらったお店だけは今も鮮明に覚えている。この一人旅を終えても友人と何回か韓国へ行ったけれど、友人から毎回美味しいご飯屋さんに連れて行ってと言われる度にあの時に教えてもらった料理のあの独特な味を求めて友人にあの店たちを紹介した。ありがたいことに毎回一緒に行く友人たちからは高評価をいただけている。

先ほど述べたとおり、一人旅で先輩に教えてもらって以来今も大好きな料理が「タッカンマリ」だ。
タッカンマリとは韓国語で鶏一匹というそのままの意味なのだけれど、韓国人の友人に韓国で何を食べたか聞かれたとき、タッカンマリと言うと意味不明といった顔をされることがあった。今はどうなのか分からないけれど、その当時はかなり馴染みがない料理だったんだと思う。タッカンマリを知っている人からすると今も昔もタッカンマリと言えば東大門と言われている。私が連れて行ってもらったタッカンマリのお店もやはり東大門の近くにあるお店で、そのお店はタッカンマリ通りと道に名前がつくくらいの場所にあった。タッカンマリ通りまでの道のりは決して容易いものではなく、夜は恐怖を覚えるくらい薄気味悪い場所にその店はあった。
肝心の料理の内容はというと、簡単に言えば鶏のお鍋、水炊きといったところだろうか。ぐつぐつと沸いた鍋の中で鶏がまるまる一匹煮られている。鶏だけでなく、じゃがいも、トッポギといった具材がアジュンマ(店員のおばさん)の手によって鍋に入れられていく。鶏が食べごろになるとタレと一緒にいただくのだが、このタレの味が忘れられない。ポン酢に似た味のソースに恐らくコチュジャン、あとお好みの量でお酢を自分でブレンドしていただく。ちょっと物足りなければ辛子を足す。夏に食べても美味しいのだが、冬に食べるタッカンマリほど美味しく感じるものはない。

大学3回生、就職活動は目の前に迫っている。
当時の私は自分がちゃんと就職できるか自信がなかった。
4年も大学生活を送っておきながら、これと言って学業の面でやり切ったと思えるものはなかった。唯一これだけは頑張ったと言えたものはアルバイトだった。ヴィレッジヴァンガードとは別に私の働いていたアルバイトでは基本的に一人一台レジを扱うことになっており、自分の退勤時間が近づくと自分が扱ったレジの金額とレジに入力された金額が間違っていないかの照合作業がある。これが1円でも多くても少なくてもレジを扱っていた人の責任になるため、金額が合わなければ報告書を書かされた。私はこの報告書を書くのが大嫌いだったと同時にお金の稼ぐということの難しさとしんどさを学ばせてもらった。そして、一人旅の目的でもあった先輩たちとも私が韓国にまで足を運ぶまで仲良くなれたのはやはりアルバイト先での出会いである。
結果、就職活動は結構きつかったけど何とか就職できた。

最近つくづく思うのは人生大半のことは「なんとかなる。」ということである。大学生だったあの頃、何でも白黒をつけたがる自分がいた。肩の力を抜くことも知らなかった。真面目なことが悪いことではない、不真面目なことが良いことでもない。
28歳になろうとしている今、白でもなく黒でもなくグレーであることが自分にとって都合がいいときもあるということを自分なりに受け入れている。肩は相変わらず力を入れてしまうけれど、それもいつかは良くなると信じている。

旅と私。
大学生の私と28歳を迎えようとしている私。
状況も環境も変わったけれど、夏に一人旅に出ようとしている。行先は韓国。母に一応報告するとあの時と同じように心配された。航空券が思ったよりも安く取れた。ホテルは今から探す。この旅で私の人生の何かが変わることを望んでいなかったり、望んでいたり。2泊3日という少ない弾丸旅行日程だけれど自分のことを知らない土地でゆっくり過ごしたいと思っている。美味しいご飯を食べたい。行きたい場所がある。そしてメディヒール(韓国で有名な効果抜群のパック)を爆買いすることも忘れずに。

ワクワクしてきた。
なんでもできそうな自分に。
旅はいつも不思議な力を私に与えてくれる。

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