香川の旅エッセイ③小豆島

今回の旅のもう一つの目的は小豆島へ行くことだった。

以前から角田光代さんの小説が原作の映画『八日目の蝉』の舞台にもなった小豆島へ、人生で一度は行ってみたいとずっと思い焦がれていたのだ。
わたしはこの物語のファンだ。
内容は決して明るくはないが、最後には涙がとまらないほど、眩しさと希望で溢れている。
どこか幼い頃の自分と重ねてしまう部分、母という存在や母との関係、母性について考えさせられる作品で、主演の永作博美さんや、渡邉このみさん、井上真央さん、小池栄子さんなど他豪華なキャストさんが小説の中の登場人物を生き生きと演じられ、その世界にどんどん魅了されてしまう。
男性も登場するが、この映画は女性の持つ感情に特に焦点が当たったような映画だと思う。

そして、『八日目の蝉』の小豆島の風景も忘れられず、わたしは思い出すと定期的にこの映画を観ていた。

泊まっている高松のホテルから、フェリー乗り場までは、お散歩がてら歩いて行った。
2キロくらい歩くと、それらしきフェリー乗り場が見えた。

さっそく船の乗車券を購入した。

フェリーは60分おきにくるらしく、港で少し待ってから13:00頃に着く便に乗りこむと、いつものお決まりの窓際席に座った。
目の前の座席に、小豆島のゆるキャラ、オリーブしまちゃんのぬいぐるみが座っていた。
オリーブしまちゃんとわたしで一緒に記念撮影をした。

フェリーは窓の外で水飛沫を飛ばしながらぐんぐんと進んでいく。
来る途中のコンビニで購入した飲み物を飲みながら、海で青く光る窓を夢見心地でぼんやりと眺めて平和なひとときを過ごした。
想像以上にフェリーのスピードは速かった。

船の中で香川に暮らしている方や、以前香川旅をしてきた友人とメッセージを交わした。

香川県に住んでいる方には、この日はちょうど暑いだけじゃなく風もあるラッキーな日だよ、ということを教えてもらった。
私は大事な日が雨予報でも、大切な瞬間に晴れることがよくある。この日もお天気予報では昨日からずっと曇りマークだったが、当日の空は青く澄んで晴れ渡っていたので少し浮かれ気味だった。

でも、香川に住んでいるとよくあることらしく、空の気分次第で天気がコロコロと変わる為、あまり香川の人は天気予報を気にしないらしい。
また一つ、素敵な香川を知るきっかけとなった。

その人とはお互いに音楽が好きなことで繋がれた、歌声が素敵な女性だ。
今回は弾丸だった為、次回香川に行く時にはぜひゆっくりお話してみたいなぁと思った。

香川を旅した友人はおすすめの観光スポットや、うどん屋さん等、行ってみてよかったところをたくさん教えてくれた。

島巡りの日が晴れてくれて、本当に良かった。
海は凪いでいて、いつもこの島で暮らす人の日常は穏やかな青緑色に包まれているんだろうと、なんだか落ち着いた気持ちになっていくと同時に、そんな一日を切り取ったようなわずかで貴重な時間と、この日の体験を大切にしようと感じた。

今回は誕生日にイルカに会いに行くことが一番の目的の弾丸旅行だったので、ちゃんとしたプランを考えていなかった。いつもわたしたちの旅は行き当たりばったり、余白のあるふわっとした計画をすることが多い。
フェリーを降りるとレンタカーは当日に借りることができなかったので、現地で電動自転車を借りて島を回ることにしたが、この自転車旅がのちのち思いがけないこととなる。

島案内のカウンターに、香川県のガイドブックで載っていた、「小豆島エンジェルロード」の干潮時間表が目に入った。本日は14:00とあった。潮が引き、砂の道が現れると歩いてその道を渡ることができる。

エンジェルロードは潮の満ち引きの時間で、砂の道が現れたり消えたりするようだ。
その光景が幻想的でふしぎで、訪れてみたい観光スポットだった。

フェリーから降りた後、島の観光案内の掲示板を見たりうろうろしていたので、「14:00までもう時間がない」ということに気づき焦り出した。

フェリー乗り場の土庄港(とのしょうこう)からエンジェルロードまでの距離を調べた。
距離はそんなに遠くなく15分くらいでなんとか着きそうだ。
他の予定を後にして、1番にエンジェルロードへ向かうことにした。

久しぶりのサイクリングだったし、(過去に家族で宮古島巡りをしたことはあった。)
はじめてちゃんと乗った電動自転車の島巡り、海までの道を風を切りながら走る爽快さに気持ちが高ぶっていた。

エンジェルロードの付近にある羽のついた白いポスト
苺味のソフトクリーム

エンジェルロードは干潮の時間に合わせたように、私たち以外にも沢山の観光客が訪れ、中には海外から来ている家族もいるようだった。
海を前にわくわくと心が躍っていた。

まずは逸る気持ちを抑えて乾いた喉を潤そうと、近くの売店で冷たいソフトクリームを購入した。
電動自転車なのでだいぶ足は楽させてもらってるのに、ふだん運動をしなさ過ぎて体力もないので、坂道の多い小豆島は私にとってわりとしっかりとした運動になっていた。

ソフトクリームは食べる前にあまりの風の強さに握ったコーン以外ほとんど風で飛んでいきそうになったので、あわてて食べた。
おまけに外の暑さでどんどんと溶けはじめ、アイスクリームが垂れるという大惨事がおきた。
わたしが一人であたふたしてる間にも、「早く早く!潮がすぐに満ち始めている!」という彼の焦りの声がする。

見ると、エンジェルロードは海で砂が隠れ始めてきている。これがあのエンジェルロードかぁ、なんてじっくりと感動することもままならないまま、急いでソフトクリームを食べた。

前を歩いている人が服の裾を少し持ち上げて砂と海の混ざる道を歩いていく様子が見えた。

海の波打ち際で透明なクラゲを見つけた。

動かないクラゲをわたしは少し触ってみたかったのだが、「毒があるかもしれないから触っちゃだめ」と止められた。
昔海でクラゲに刺された痛い経験を思い出したのでそっと様子を見守るだけにした。
クラゲは生きているのか死んでいるのかもわからない雰囲気でただ海中を漂い、ここまで流れ着いたように見えた。

その間にもエンジェルロードはどんどん波で塞がって来ていて、後列についてきた人たちはこれ以上先に進むか躊躇しているようだった。

私たちはなんとか砂の道を渡り終え、帰りのことはもう考えないまま、後ろを振り向かず、その先の展望台を目指した。

約束の丘展望台は恋人の聖地らしかった。
なんと直球な名前をつけたのだろう、と。
ぶっちゃけて言えば家族でも友人でも誰と一緒の聖地でもええやんと、わたしの中の謎の関西人が疼くくらいの直球さだ。
ご当地グルメのように、観光地へ行くたびに見かける恋人の聖地。でも一体誰が恋人の聖地認定をしているのだろうか。謎が深まった。

それでもせっかく渡って来れたのだから、と浪漫のカケラを胸に抱いて階段を登った。

展望台の上から眺めた景色はキラキラと水面が光っていて、空と海が見渡せる、まるで癒しのパワーが溢れたような空間だった。

さっきまで渡ってきた道がいよいよ途切れてしまってきていた。
もう引き返して行く人も多い中で、最後の足掻きでエンジェルロードを渡りきろうとチャレンジしてる勇敢な人々も見えた。

わたしたちのように、渡りきったもののどう帰ろうか、考えてそうな人もいる。

展望台の上に取り残され、
「もし帰れなくなったらどうする?泳いで渡る?」

わたしの悠長な質問にも彼はいつものことだと慣れっこの様子だった。

「まぁ、どうにかなるよ。渡って来れたんだからさ。」

そんな感じで、ゆるゆるとしたレンタサイクルの小豆島旅が幕開けした。

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