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釧路湿原探検記

春休みの終わりごろ、今年度でANAのマイルの一部が期限切れになることに気づき急遽4月に釧路に行くことにした。あまりに全てをノリで決めたため、ついうっかり物工の院試説明会をすっぽかしてしまった。あまりに全てをノリで決めたので、飛行機とホテルを予約してから、4月の上旬が釧路における完全なオフシーズンであることを知った。例えば、タンチョウサンクチュアリでタンチョウを見られるのはタンチョウを集めて給餌を行う冬季の10月〜3月の間で、釧路湿原のノロッコ列車が動くのは4月下旬以降、川下りなどのアクティビティは夏季がメインで5月〜9月、という具合である。通りで宿も飛行機もめっちゃ安いと思ったんだよなぁ。しかも、私は大学四年生にもなっていまだに自動車の免許をとっていない…できるアクティビティがまじでない…ということで、今回の釧路旅行ではひたすら湿原を歩いた。この記事はその長い長いお散歩の振り返りである。

まず、釧路駅から1時間ほどバスに乗って「釧路市湿原展望台」へ向かった。
よくある展望台かと思いきや、内装がめちゃくちゃおしゃれである。どうも釧路出身の高名な建築家、毛綱 毅曠なる人物が建てたものらしい。

釧路市湿原展望台内部

屋上からの眺めはぼちぼちだったが内部の建築や湿原の生態系についての展示は、入場料の480円に十分見合った見応えがあった。

この展望台を起点にぐるっと一周2.5kmの木道が整備してあり、これが第一のお散歩である。

湿原展望台コースの木道

よく晴れた日で、急な上り下りもない木道は大変歩きやすい。途中に簡単な吊り橋なども登場した。木道の傍に一歩足を踏み出すと、腐葉土特有の沈み込むような土の感触が楽しい。

木道の傍のフクジュソウ

木道のわきにはフクジュソウも見られいかにも春らしい。気温は7℃くらいで少し肌寒いが、天気がいいのと体を動かしているのでちょうど快適な感じだ。


きのこ

こーゆう感じで木に生えてるキノコって食べられるんだろうか?

そんなこんなでしばらくてくてく歩くと、「サテライト展望台」に到着する。


サテライト展望台からの眺め

高いところから湿原を一望できてめちゃくちゃ開放感があった。朝早くに散歩していたのとシンプルにめちゃくちゃオフシーズンだったこともあり、まじでほんとに誰もいなかったので大きな声で歌ってみたりしたのだが、超気持ちよかった。

サテライト展望台からまたさらに歩いて湿原展望台の出発地点まで戻った。一周するのに40分くらいでちょうどいい運動量のお散歩だった。

そこから、バスに乗って4km離れた温根内ビジターセンターへ。ビジターセンターには綺麗なトイレと湿原の生態系について扱った展示や書籍がある。散歩中に見つけた気になるいくつかの植物について図鑑と睨めっこしたりできた。エゾシカの角が6本くらい置いてあって自由にさわれたのは激アツだった。
このビジターセンターからも一周1時間くらいのお散歩コースが整備されているので、ここから第二のお散歩スタートである。


ふきのとう?

散歩道の入り口で鮮やかな若草色に惹かれて見てみるとふきのとうらしき植物が群生していた。春らしくてかわいい。


温根内コース

湿原展望台コースは腐葉土の森の中の木道を歩いたが、温根内コースは湿地の中に浮かんだ木の橋を歩く。当然湿地には基礎を打てないので、この橋は緩やかに沼に沈んでいるらしく、定期的に整備を行っているそうだ。整備の人間が立ち入れるのは湿地が凍って足が沈まなくなる厳寒期なのでこの整備は結構過酷らしい(ってビジターセンターの展示に書いてあった)。


やちぼうず

橋の両側には丸っこい草の塊がたくさんいる。湿地の妖精さんみたいでかわいい。「やちぼうず」と呼ばれるこれらは、スゲ類の植物が根を張ったあと、冬の凍結で土ごと持ち上げられるのと春の雪解け水で盛り上がった裾野を削られることを何年も繰り返してできるものらしい。


ハンノキ

周囲の木はよく見ると一箇所から数本ずつまとまって生えている。湿地の過酷な環境で立ち枯れた幹を起点に新しく木が生える「萌芽更新」によるものだ。湿地のハンノキ林でよく見られるらしい。


やちまなこ

木の橋の傍に長い竹が用意してあって、「やちまなこ」と呼ばれる水たまりにさせるようになっていた。試してみると一瞬そこに当たったような感触がしてからもズブズブと竹が沈んでいく。溜まった泥が偽底を作るが実際の深さは3〜4mにもなるので、どんどん底へ引き込まれていくように感じられる。いわゆる底なし沼である。

ひたすらに木の橋を歩いて行く。普段世界有数の人口密度を誇る街東京で過ごしているので、視界に一切他人がうつらないというのはなんとも心細いような、気が大きくなるような奇妙な感じがする。

たぶんそれで魔がさしたんだと思う。このままコースに沿ってぐるっと回ってビジターセンターに戻るのがなんだか惜しいような気がしてきた。そこで、コースの中間地点で、ビジターセンターに戻る道に背を向けて、広大な湿地に向かって伸びる、一本道に足を向けることにした。予定外の第三の散歩である。

湿地に向かって伸びる一本道

地図によれば、この道を道なりに4.6km進めば一応湿原展望台まで辿り着けるらしい。

沈みかけている道

観光用の道を外れたことは道の整備状況の悪化からすぐにわかった。木が腐って沈みかけている箇所が頻繁に出てくる。そこを避けながら歩みを進める。

写真中央付近にカエル

鳥の声がいやにやかましくなったと思って歩いていたがしばらくしてそれがカエルの鳴き声だと気づいた。地元神戸の田んぼで聞こえるカエルの声よりも甲高い。相変わらず両側にはやちぼうずとハンノキ…ここで道が曲がって、木の橋が終わり、コースが腐葉土の上の探勝歩道に繋がった。

探勝歩道

よく見るとうっすら線路の跡のようなものが見える。この道はかつてディーゼル機関車が走っていた鶴居軌道のあとの歩道らしい。線路の幅は762mmと現在使われている鉄道や新幹線より狭い。


道を塞ぐ倒木

道が倒木で塞がれていたり湿地に侵食されてぐずぐずになっていたりする箇所が多々ありなかなか幸先不安である。あとなんか結構な頻度で動物の糞があり、うさぎとかはいいんだけど、狐のやつっぽいのとかもちょくちょく遭遇する。ここはもう人間のナワバリではないのかもしれない…そんな不安に煽られた脳裏に山道入り口で見たヒグマ注意の看板の記憶がチラつく…


最近も出たらしい。鈴持って来ればよかった。

流石に1人でチャレンジするコースではなかったのかもしれないと弱気になるが弱気になったって仕方ない。だって目の前の看板に、[←湿原展望台3KM /温根内ビジターセンター1.8KM→]って書いてあるもん。もう引き返しようもない。腹を括って進むのみだ。

アドレナリンを出しながら歩いて行くと周囲の動物の気配に気づく。カエルの声にばかり気を取られていたが、鳥もたまに木に止まっていたりする。哺乳類に遭遇することは特になく、ただただ目の前に伸びる一本道を歩き続けた。3KMって結構長いわね。


残雪

道の脇に溶け残ってる雪を見つけた。歩道の両脇の水たまりは雪解け水でもしかしたら思っているよりも冷たいかもしれない。まぁ手を突っ込むのもなんかいやなので確かめなかったんですけどね。

周りに誰もいない広大な北の大地をひたすら自分の足で歩き続けるのってなんかすごく冒険っぽくてわくわくする。道が悪いのとヒグマが怖いので他のことを考える余裕がなくて歩くことにひたすら集中…スキーでヤバめのバックカントリーに突っ込んでる時と同じ感じの緊張感…

そんな調子で歩き続けること約1時間、無事湿原展望台に戻って来れた。

鹿肉カレー

お腹が空いたので、ちょっと遅めの昼ごはんに鹿肉のカレー。他の肉で例えるのが難しい味で、美味しかった。

これで今日の釧路湿原散歩はおしまい。


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