夏の終り(2013年)

画像1 夏の終りは瀬戸内寂聴が出家する前、瀬戸内晴美名義で執筆した小説を熊切和嘉監督が映画化した作品。音楽を手掛けたのは元Sonic Youthのジム・オルーク。
画像2 主人公の相澤知子(満島ひかり)は染色家を目指しながら、妻子ある男と気ままに半同棲生活を送っている。妻も夫との関係を知った上で、8年もそうした三角関係が続いていたが、暮らしは充実していたはずだった。
画像3 一緒に暮らしている作家の年上男慎吾(小林薫)は妻と知子の間を行ったり来たり。穏やかでマイペースな性格で、優しい面持ちだが、言い方を変えるならばどちらにも毅然とした態度を取れない、優柔不断でだらしのない男とも思える。タバコをふかす仕草や、中年の渋い色気は確かに漂っている。武曲にも出ていたし、熊切監督なにげにお気に入りの俳優さんだなw
画像4 知子が留守中にある男が訪ねてきた。知子がかつて夫と娘を捨て、駆け落ちしてまでして愛を貫こうと夢中になった相手、年下男の涼太(綾野剛)だった。後日再び連絡してきた涼太に、知子はただの風邪を重い病気だと偽り、会いに来てほしいと伝える。そこで2人は思いがけない再会を果たすのだった。
画像5 知子の元夫は大学教授で、書生だった涼太はその教え子だった。お互いのことが気になっていた2人の不貞関係は、共通の知人の選挙活動を手伝った際に、徐々に距離が縮まったのをきっかけに始まった。
画像6 夫と娘を捨て、涼太と一緒になることを決意するこのシーンも強烈!夫から平手打ちをくらい、愛想を尽かされた知子が「だって!好きなのよ!!」と叫んで地団駄を踏む仕草はまるで子供のよう。この時代に結婚していた男女って、好きじゃないけど子供をもうけて生涯連れ添った人がほとんどで、たとえそういう思いや願望を持っていたとしても、心の中に鍵をかけて気持ちを鎮めたじゃないのかなあ?嘘が無くて自分に正直と言えば多少は聞こえは良いが(笑)寂聴さんの強烈な人柄が現れていたのでした。
画像7 焼け木杭に火が付いた2人は、その後も逢瀬を重ねる。慎吾の目を盗んで風呂桶を抱えて会いに行ったり、びしょ濡れの知子が涼太の家に駆け込むシーンは、知子の止められない思いと衝動を表現するのに非常に効果的なシーンです。
画像8 しばらくはこの三角関係(慎吾の妻を含めたら四角関係w)は続く。お互いに無い良さがあり、無いものを埋めてくれる存在として両方とも失いたくない気持ちは理解できる。でも実行するかはまた別の話(笑)
画像9 時間差で2人がニアミスしたりするシーンは、見ていてハラハラ、ヒヤヒヤしてしまう。欲望に忠実で、どこまでも恋に貪欲な女だ。
画像10 知子が自分を良いように利用していることを分かっている涼太。鬱積した不満が爆発したのだろう。会いに来ても涼太の嫉妬心を掻き立てるよう言葉や、慎吾の愚痴などをぶつける知子。長年連れそった慎吾との関係は愛だ。貴方には分からない!と涼太に噛みつく知子は無神経でちょっと迷惑な人だよね…と思わずにはいられないw やっぱり1番可哀想なのは涼太。。
画像11 慎吾の妻からの手紙を見つけ、そのほっこりした内容に嫉妬し、涼太に愚痴るも夫婦なんだから当たり前だろうといなされる。妻と直接対決するために慎吾の鎌倉の自宅に押しかけた。表に知子の気配を感じた慎吾は慌てて玄関口まで出てくる。あいにく妻は東京へ赴いて留守中だった。奥さんと別れて!ではなく、別れることは出来ないんでしょう?という言葉。決着を付けてしまったら慎吾との関係が終わってしまうことを恐れる知子の弱さと、自分の立場をわきまえて慎吾に逃げ場をあえて作ってあげる優しさから来ていると思う。
画像12 愛しているのは慎吾。でも涼太との関係を断ち切れない弱い自分がどうにもできない…複雑な感情を慎吾に吐露し、涙を流す知子。涼太にも愛人という立場だから仕方ないだろうと正論を突きつけられたわけだが、慎吾から涼太に惚れてるのかと訊かれて「どうしたらいいか分からない。」それ言って泣くのは駄目よねー。知子に感情移入できない理由はこういう所かもしれない。
画像13 男のズルさを体現してる顔だなー笑。小林薫はこういう表情と、おじさまの色気を出すのが本当に上手い。満島ひかりの自分のものにできる可能性を捨てたくない、でもやっぱり無理かなと諦めたような何とも言えない顔も秀逸。それぞれの顔のアップを多用して、男女の妙を繊細に表現しているのもこの映画の最大の見どころ。
画像14 かつては「誰よりも才能があるんだから!」と慎吾を励ました知子に旅行に行こうと誘い、「何もかもが嫌になった。旅先で一緒に死んでくれないか」と言う慎吾。なぜ妻に頼まないのか訊ねる知子にこう答える。「あいつは一生懸命だから可哀想だ。」慎吾、ナメてんな(笑)妻には言えず、自分に頼ってくるのは女としては勝ったようで嬉しい。この満島ひかりの表情がとても美しい。
画像15 しかし、そんな自信も敵を目の前にすれば脆いものだ。慎吾の妻から入電。知子との関係をたとえ長年知っていても妻は余裕で、終始勝ち誇ったような口ぶりで構わず話し続ける。慎吾が入院した親戚にお見舞いの品を送るよう伝言してくれと言付けるシーンだが、知子は淡々と話すわりに意外に弱気で、妻の言葉通りにメモをして承っている。妻の揺るぎない自信に満ちた声を耳にすれば、さすがの知子も怯むし、それなりに辛いだろうね。
画像16 慎吾が家族を捨てられてないのは、長年の習慣のせいだ。たとえ愛があっても習慣に勝てない!と自分の状況を正当化することでプライドを守る知子。涼太に「慎吾と自分には確固とした愛がある、他人には分からないと言ったのに矛盾している」と痛い所を突かれ、逆ギレして涼太との関係に幕を引いた。染色に打ち込みつつも、慎吾との今後の関係を模索している知子。同性として気持ちは分かる。自分もしっかりしなくては!と足元を固める。この恋愛に未来がないなら、リセットしなきゃ。一旦ニュートラに戻って、自分の足で立たなきゃ。そんな気持ち。
画像17 新居で心機一転、1人でやり直す。気持ちに決着がついた清々しいシーン。慎吾と待ち合わせした小田原の駅には、シックな着物で凛とした佇まいの知子がいた。全ては女の心の中の問題で、答えはそこにある?結末ははっきり描かれていないその余韻が、夏の終りというタイトルにはピッタリだなと思う。虫の声や鐘の音、激しい雨音など、静かに流れていく物語に挿入された音の効果にも独特の空気感がある。知子の恋愛観には共感は出来なかったが、昭和の情景と人物・背景・小道具などの光と影のコントラストなど、こだわった映像美も楽しめる映画です。

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