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不妊疑惑と2番目の女

実母のガン闘病に付き合い、私はチャイルドマインダーという資格取得を目指して、ベビーシッターをしながら過ごしていた。
佳哉は、甲斐甲斐しく私のサポートをしてくれた。
イケちゃんは、2人目が生まれて忙しそうだった。

やはり私は妊娠することなく経過。
佳哉の親からは、まだ妊娠しないの?とプレッシャーをかけられる。
私は、母が元気なうちに孫を抱かせてあげたいと思うものの空回りしていた。

2001年12月、皇室に赤ちゃんが誕生したというニュースは産婦人科の待合室のテレビで知った。
その日の夜、佳哉に泣きながら話した。
「なんで私には赤ちゃんが来てくれないの?」
佳哉は、私の背中を擦りながら
「俺にも原因があるかもしれないから、
 調べに行った方がいいかな?」
疑問型で返事されてもね・・・
【そんなことを言うくらいなら、もっと前に検査に行けよ!】と思ったが、口にはしなかった。
「まだ籍も入れていないのに、佳哉の親から、
 子どもはまだか?って言われるのが、
 どれだけ辛いかわかってないでしょ?」
「もう、言わせないようにするからさ。
 それで大丈夫でしょ?」

佳哉は他人事のような話しぶり。
私は【これ以上は無理!もう限界!】だと思って、アパートを出た。
急いで愛車に乗り込み、逃げるように海へ向かって運転した。
佳哉は追いかけてくるでもなく、電話を鳴らしまくる。
頭にきて、私は携帯電話の電源を切った。
ウーファーを積んでた私の愛車、いつもより大音量で音楽をかけて走らせた。

海空先生との思い出の海浜公園の駐車場に到着し、携帯電話の電源を入れた。
夜も遅く、もうすぐ日付が変わるという時間なのに、イケちゃんに電話した。
イケちゃんは直ぐに出てくれた。
「どうした?
 こんな遅い時間に、何かあったか?」

私は堪えていた涙を我慢できず、泣きながら
「なんで私には赤ちゃんが来てくれないの?
 なんでアイツは他人事のように言うの?
 なんで私にアイツを紹介したの?」

イケちゃんは静かに聞いてくれる。
「センパイ、女心がわからないんだよなぁ。
 稀琳もツライよな。
 苦しいなら別れるのもアリだと思うよ。
 もしかして、いつもの海のとこにいるのか?」
「よくわかったね。
 アパートを飛び出して、波音を聞きにきてる。」
「稀琳って、あの海が好きだもんな・・・」
「私さ、やっぱりアイツと結婚しない方が良いような気がする」
「稀琳が笑顔で居られないなら、婚約破棄しちゃえよ!
 俺は稀琳を受け止められないけど、相手になることは出来るよ。
 それで稀琳が満足できるなら、センパイを捨てちゃえよ!」

泣きながら、イケちゃんの声を聞いているうちに、自分自身が少しずつ落ち着いていくのがわかった。
確かにイケちゃんには、奥さまと2人の子どもがいる。
私はイケちゃんの愛人であって、彼女でもなんでもない。
イケちゃんの2番目の女と言うわけでもない。
本当に、私を身体的・精神的・金銭的に支えてくれる人という感じ。
少し沈黙の後、イケちゃんの後ろで赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
「ゴメン、赤ちゃんが泣いてるね」
「大丈夫だよ。
 明日、稀琳は何か予定はあるのか?
 無いなら20時に●●駅に来れるか?」
「ベビーシッターの予定も入ってないから、
 明日は大丈夫だよ。
 ●●駅に20時に行くね。」
「じゃあ、明日ね。
 今日は実家に帰って、ゆっくり寝るんだよ。
 車ごと海に突っ込もうとするなよ!」

イケちゃんには、私の心の中が見えているようで不思議だった。
「ウン!
 電話、こんなに遅くにゴメンね。
 それとありがとう!
 今日はちゃんと家に帰って、明日会いに行くね」

電話を切ったあと、1時間ほど波音を聞いて、心を落ち着けてから自宅へ帰った。
佳哉からはその後、全く着信もなかったので私は別れる決意を固めていた。

これは2001年12月のエピソード。
佳哉とは本気で別れるつもりでいた。
佳哉自身も、翌日会社でイケちゃんから私を追いつめたことについて諭されたとのことだった。
翌日の夜、イケちゃんとデートして、ファミレスで夕飯を食べながらいっぱいお喋りして、なんだかんだでイケちゃんに丸め込まれた感じだった。
私があまりにもナーバスになっていたからか、キスしていっぱい抱き締めてくれた。
そして、センパイで本当に妊娠しないなら、俺が妊娠させてやる!って意気込んでたイケちゃん。
メッチャ懐かしい(笑)

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