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NMRパイプテクター批判ブログが停止された事案について

NMRパイプテクター販売業者が個人ブログを裁判で停止させたことがある。
裁判に訴えてまでブログを停止さようとした経緯をファクトチェックしていこう。

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個人ブログを削除させたとする販売業者サイトの記載

個人ブログが削除された経緯

個人ブログ作成の経緯
東京都府中市にある日鋼団地では2004年5月にNMRパイプテクターを導入した。
設置5年後の2009年12月に赤水が発生して保健所から「飲用不適」との指導を受けており、2015年には水漏れも発生したとのこと。
装置の導入時にマンションで建設委員を務めていた人物が2015年にブログを作成し、錆びた配管の内部写真を公開した。

業者からの訴訟の経緯
2019年2月に発売された雑誌「理科の探検」では、装置に効果がなかった事例としてこの個人ブログが取り上げられた
「理科の探検」発売から半年ほど経過した2019年8月に、日鋼団地の個人ブログからパイプテクターの記事だけが読めなくなった。これはブログ主が記事を削除したのではなく、ブログの運営会社が一部記事に非表示設定をしたことによる。
2019年8月末には販売業者が「仮処分で〜削除されました」とのコメントを出した。

ファクトチェック

チェック項目と判断結果は次の通り
1.府中日鋼団地はNMRパイプテクターを購入した[正確]
2.府中日鋼団地で赤水と漏水が起きた[
正確]
3.個人ブログが
誹謗中傷と認められ東京地方裁判所命令で削除された[ミスリード]
4.NMRパイプテクターの有効距離は150m[根拠不明]
5.府中日鋼団地への販売時に有効距離150mという説明を行っている[根拠不明]
6.府中日鋼団地の98%は未設置状態[
判定留保]

1.ファクトチェック(購入)

・検証項目「府中日鋼団地はNMRパイプテクターを購入した」
・ファクトチェック「正確」


販売業者の自社サイトは府中日鋼団地に販売したことを前提として記載されている。このマンションが正規ルートで購入した顧客であることは双方に異議がないため事実とみなす。なお、販売業者は「誹謗中傷を職業とする人物が複数の誹謗中傷を書き込んだ事例」として個人ブログを挙げている。文字通りに解釈するとブログ主が日鋼団地の住民でないかのようにも読めるが、業者サイトの他の記述と整合性がないため、事実関係の判断材料から外した。

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  販売業者サイトより引用(2020年4月9日付)。「誹謗中傷は〜1人の人物が〜書き込んでいます〜事例として」とあり、部外者がブログを作成したと認識しているようにも読める。

2.ファクトチェック(赤水と漏水)

検証項目「府中日鋼団地で赤水と漏水が起きた」
・ファクトチェック「正確」

販売業者の自社サイトでは「未設置の棟の配管内に赤錆が発生していた」とある。このマンションで赤錆が発生したことは双方に異議がないため事実とみなす。
2015年に発生した漏水についてはマンション側の主張しかないが、個人ブログ内容に整合性があることと、業者側が反論していないことから事実とみなす。

3.ファクトチェック(個人ブログ削除)

検証項目「個人ブログが誹謗中傷と認められ東京地方裁判所命令で削除された」
・ファクトチェック「ミスリード」

確認された事実関係は次の通り。
(1)2019年8月に府中日鋼団地ブログからNMRパイプテクターに関する記事だけ閲覧できなくなった
(2)2019年8月に販売業者は「ブログは誹謗中傷と認められ、東京地方裁判所命令で削除された」と自社サイトに記載した

上記(1)にアクセスするとブログの日時だけが表示され、タイトルと本文が「表示できません」となることから、当該ブログはデータベースから削除されておらずブログ運営会社によって非表示に設定されていることが読み取れる。したがって該当記事は「削除=記事の再公開を認めない」ではなく「閲覧制限=本訴の結果で制限解除の可能性」とする。

また「裁判所が誹謗中傷と認めた」については事実関係が確認できない。 そもそも仮処分申立とは迅速性が求められる案件において申立者の権利を保護するための暫定措置です。本件は仮処分申立のみであり、本訴は起こされていないため仮に争点が誹謗中傷の判断であったとしても「裁判所が誹謗中傷と認めた」とは決定されていない。
よって「迅速性のための暫定措置である仮の判決を、あたかも裁判所が個人ブログの誹謗中傷を認めたかのように主張している」ためミスリードとする。

4.ファクトチェック(有効距離150m)

検証項目「NMRパイプテクターの有効距離は150m」
・ファクトチェック「根拠不明」


販売業者は2005年7月に「有効距離150m」と技術発表しており、同じ内容が2005年10月の雑誌記事「防錆管理」に記載されている。
記事中の「3.2 有効距離による効果の違い」では設置場所からの距離に応じて「水中鉄イオン値」「配管内黒錆量」「配管内閉塞率」という3つのグラフが示されている。

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雑誌「防錆管理」2005-10よりグラフを抜粋

・配管径、配管材質、新築時からの経年、設置後の測定時期などが示されていないため、実験条件が揃っているとは言えない(問題の切り分けができていない)
・3つの異なる評価指標が表内で混在しており、データ作成手法の信頼性が低い
・測定手法・手順が一般的でないため配管状態を測定できているとは言えない
・距離と効果についてグラフから有意な相関が見られないため、距離に応じて効果が減ずるかどうか不確定(「150m以上では効果がない」とは言えない)

測定手法が一般的でないこと、測定条件が均一と言えないこと、境界値付近のサンプル数が少ないこと、境界値より遠方での測定がないこと、一般紙への投稿記事であり査読も受けていないことなどから、「150m以内なら効果がある」「150mを超えると効果が減ずる」のいずれも根拠不明とする。

5.ファクトチェック(有効距離の説明)

検証項目「府中日鋼団地への販売時に有効距離150mという説明を行っている」
・ファクトチェック「根拠不明」

業者資料に「日鋼団地に有効距離の説明を行なった」という直接的な表現は見られないが、150mを根拠に「赤水が出た棟は範囲外」と主張しているため、販売時にそのような説明を行ったという暗黙の前提があると解釈する。

確認された事実関係は次の通り
(1)販売業者の2000年の特許では「水が1m/secで流れていれば、20Km以上の長さにも効果を発揮する」と記載されている
(2)販売業者の自社サイトでは2002年時点で「どんなに長い配管でも〜還元反応を起こします」と記載されている
(3)販売業者は2004年5月に府中日鋼団地にNMRパイプテクターを販売した
(4)販売業者は2005年7月に業界団体の技術大会で有効距離150mと発表した

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時系列から分かる通り、府中日鋼団地に販売した時点では「有効距離150m」という発表は行われていない
2005年以前は有効範囲について「20Km以上」「どんなに長い配管でも」と記載していることから、日鋼団地への販売年時点で「150m」という説明を行なっていたかについては疑問が残る。
業者が「どんなに長い配管でも」という主張の変更時期を明確にしていないこと、府中日鋼団地への説明資料コピーを示していないことから、「有効距離150mという説明を行なった」は根拠不明とする

6.ファクトチェック(98%は未設置状態)

検証項目「府中日鋼団地の98%は未設置状態」
・ファクトチェック「判定留保」

業者の主張
業者サイトには次のように記載されている。32棟のうち1棟のさらに半分しか効果範囲でないという主張なので 未設置が98%(=31.5/32=0.984)という数値の辻褄は合っている。

(1)「団地のうち98%はNMRパイプテクターは未設置状態なのに、全ての棟に設置され、効果がないとの書き込みは誹謗中傷と認定され〜」
(2)「府中日鋼団地は32棟ある建物のうち、1台しかNMRパイプテクターが設置されておらず、その1台も1棟の内半分の戸数分しかNMRパイプテクターの効果範囲が及ばない状態でした」
(3)「あたかも全棟にNMRパイプテクターが設置されていることを前提に、NMRパイプテクターが未設置の棟の配管内に赤錆が発生していたにもかかわらず誹謗中傷のブログをネット上に掲載」

府中日鋼団地の状況
下図は朝日新聞「論座」(2019/10/5)に掲載された府中日鋼団地のパイプテクター設置状況である。
写真ではわかりにくいがパイプテクターは給水管が各棟へ分岐するより「上流側」に取り付けられている。つまり、装置を通過した水は複数の棟に供給されており「1棟だけが対象」という状態ではない。
日鋼団地で「設置棟/未設置棟」を明確に区分することは困難であり、給水経路長を計測して部屋ごとに「150m以内」かどうかを言えるだけであろう。

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府中日鋼団地の平面図
下図は府中日鋼団地の全体図である。パイプテクターは団地の中央にある集合給水施設に取り付けられている。
漏水が起きた17号棟を含む3棟が100m円内に収まっている。
最短距離から配管長は算出できないが「1棟だけが対象」という説明は地図を見ても疑問が残る。

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漏水の起きた棟
下図はパイプテクター設置箇所から漏水が起きた17号棟まで仮の給水経路を引いたものである。
団地内の道路に沿って配管を引くと、17号棟の中央部までの経路長が132mとなった。17号棟が未設置(全室が有効範囲150m圏外)という説明には疑問が残る。

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厳密な検証には団地内の配管図が必要となるため本項は「判定留保」とする。

(以上)