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横浜市水道局の「NMRパイプテクター効果確認できず」記載について

横浜市水道局はNMRパイプテクターの効果について次のようなコメントを公表している(横浜市「市民の声」2019年07月)。

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これに対し販売業社は「効果を発揮できない条件下で実験が行われた」とnoteで反論している。この業者発言をファクトチェックしていこう

横浜市水道局が「効果が確認できない」とした経緯

横浜市による検証の経緯は複雑だ。
横浜市水道局OBが起業した「(株)アクアエンジ」がパイプテクターの販売代理店となり、水道局と共同研究を行った。
この共同研究については2013年の水道研究会で「効果あり」と発表されている(第1期検証 #1)。
2016年に水道局ではコンサル会社を介さない独自検証に着手した(第2期検証 #2)。これについては「効果確認できず」との報告とともに、パイプテクターを用いた検証を終えると記載されている。
実験が2期に分かれ、第1期と第2期で逆の結果になったことに留意されたい。

大学教員による解説
大学教員が横浜市から第1期、第2期検証の文書を入手している。
第1期検証(#1, 民間企業との共同研究)
報告書(2013年)[効果あり]
第2期検証(#2, 水道局の独自検証)
報告書1(2017年)[効果確認できず(残留塩素濃度の改善)]
報告書2(2018年)[効果確認できず(赤錆の黒錆化)]

これをもとに「試験結果を読み解く」として、パイプテクターに効果が見られなかったという解説を掲載したところ、業者側がnoteで反論している状態である(自社サイトでの反論は見当たらない)。

ファクトチェック

業者の主張は業者noteの記事で確認した。
ファクトチェック項目と判断結果は次の通り。
1.「検証#1 上流と下流の残留塩素濃度の差分が小さくなった」[判定留保]
2.「検証#2 水の使用量が規定以下のため効果を発揮できなかった[誤り]
3.「検証#2 大学教員の分析はデータ数に不一致があり正確性を欠く」[不正確]
4.「検証#2 大学教員が分析に用いた指標が間違っている」[誤り]

1.ファクトチェック(#1残留塩素濃度の差分)

・検証項目「上流と下流の残留塩素濃度の差分が小さくなった」
・ファクトチェック「判定留保」

業者主張

NMRパイプテクター®設置箇所より上流側の残留塩素濃度と下流側の残留塩素濃度の差分をできる限り小さくすることにあります。
そして、本実証実験ではNMRパイプテクター®の設置によって、安定してその減少を抑える事が出来ました。

見解
第1期検証において水道局の作成したグラフは設置後の下流で残留塩素減少率は有意に下がっているが、この値から装置の効果を判断することは困難である。

主な疑問点は下記a〜dのとおり。詳細は「大学教員解説」「Togetter」「浦安市の疑似科学問題」等を参照されたい。
a.「時間と共に減少率が徐々に下がる」という前提が成り立っていない
b.測定値が不安定
c.水が滞留する測定場所③で効果が得られることは不自然
d.元データを作為的に抽出して報告用グラフを作成している

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浦安市の疑似科学問題」より引用。水が滞留する測定箇所③で高い改善率が見られることは不自然

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浦安市の疑似科学問題」より引用。水道局作成グラフ(実線)と全測定データ(緑色破線)。設置前のデータの平均値が下がるように間引かれている。

ここから分かるのは「サンプル採取に不備があり測定値が意味をなさない」「グラフ作成が作為的なためデータ解釈が意味をなさない」であろう。

省庁からの問い合わせ
第1期検証について厚生労働省外務省が横浜市水道局に情報提供を依頼している。厚生労働省は「論文で発表したことを積極的に商品の宣伝に使っているように見受けられます」と厳しい質問も出している。

結論
第1期検証はサンプル採取とデータ解釈に難点があり、この実験のみを基に議論することはできない。
このため本稿は「判定留保」とする。

2.ファクトチェック(#2水の使用量が規定以下)

・検証項目「検証#2 水の使用量が規定以下のため効果を発揮できなかった」
・ファクトチェック「誤り」

業者の主張

(1)水の使用量も規定の1/4以下の場所に装置が設置されたため、その結果はNMRパイプテクター®が効果を発揮するというよりは、発揮できない規定条件の確認となりました。
(2)日常的な水の使用量(約1蛇口あたり200L~300L/日)があれば、NMRパイプテクター®の赤錆防止・更生効果は40年以上持続されるものです。

規定値について
業者は200L/日で効果があると複数のサイトに記載している。また、静岡市の工事データベースの登録内容では適用条件が「流速0.1m/秒〜1.5m/秒」とある。ここではこの量を「規定値」とする。
横浜市の資料から設置箇所の流量を算出するとそれぞれ251424 L/日、108864 L/日となり規定値の200 L/日は十分に満たしている。(資料中の流量 174.6L/分、75.6L/分を1日あたりに換算した)
流速についてはそれぞれ0.37m/s、0.16m/sとあり規定値の流速0.1m/秒〜1.5m/秒に収まっている
装置の効果を発揮できる条件であったと言える。

なお、これは装置を設置した箇所の流量であり、さらに下流の分岐先において規定値を満たしていたかどうかは元データにも記載がない。
しかし、設置場所1、2では採水箇所の先にそれぞれ6戸、3戸との記載がある。一般家庭の平均的な水量は200L/人日であるため、採水経路が規定値以下となることは考えにくい。業者が「規定の1/4以下」という具体的な数字を出すのであればその根拠を示すべきだろう。

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横浜市報告書(2017年)より抜粋

装置の効果について
また、仮に「採水箇所の水量が1/4以下という資料」が出てきたとしても「装置の効果を発揮できない条件だった」という主張は成立しない

横浜市はパイプテクターの試験にあたり「配管内の赤錆が黒錆に変わり(赤錆の減少で)残留塩素の減少を防ぐ」と説明している。つまり装置の効果とは「赤錆の減少」であり「残留塩素の低減を防ぐ」は副作用に過ぎない。

横浜市の第2期調査ではこの「赤錆の黒錆化」を計測している。サンプル採取は装置の直上と直下であり、この経路の水量が規定値を十分に満たしていることは前記の通りである。
錆のサンプルをX線解析装置で定性分析したところ、2箇所とも「装置設置前後で錆の成分に違いは見られなかった」と報告されている
流量と流速の条件を十分に満たしながら赤錆の黒錆化が見られないことは、装置の効果がなったと言える。

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横浜市報告書(2018年)より抜粋

したがって本項では「業者主張は誤り」とみなす。

3.ファクトチェック(グラフの正確性)

・検証項目「検証#2 大学教員の分析はデータ数に不一致があり正確性を欠く」
・ファクトチェック「
不正確

業者の主張

天羽優子氏が記事中で提示している分析結果は、グラフ中のデータ数と、表中の例数がまったく一致しておらず、著しく正確性を欠いたものとなっております。

考察
指摘箇所を見ると、グラフ中の測定回数は33回なのに表中では25回となっており、回数が一致していないのは確かだ。(p19〜20)

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これは横浜市水道局が資料作成時に設置箇所1と設置箇所2のグラフを入れ間違えたことが原因である。大学教員の分析とは無関係な要素となる。
グラフの元データを確認したところ、入れ違っているのはグラフだけであり、表中の数値は正しかった。
なお、同資料のp33,p38でも同じグラフが用いられており、こちらは正しく挿入されている。
表の入れ間違いは好ましいものではないが正確性を著しく欠いたとまでは言えず、分析結果を変更する必要はない。

したがって本項では「業者主張は不正確」とみなす。

4.ファクトチェック(評価指標)

・検証項目「検証#2 大学教員が分析に用いた指標が間違っている」
・ファクトチェック「誤り」

業者主張

(1)各測定時点における残留塩素濃度の「減少量」がどれほどであったかを算出し、評価するのが正しい方法です。
(2)単純に設置前後で群を分け、平均値を算出してもその性能を正しく評価することは出来ません。

評価指標
大学教員は「読み解く」において「塩素の減少がどの程度抑えられていくかを見なければならない」と記載しており、これは減少量を評価することと同値である。したがって、評価指標が間違っているとは言えない。

減少率
横浜市水道局の資料(xlsx)では「減少率」が算出されている。

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減少率(資料中のデータより作成)

この減少率は「値が0に近いと効果があるといえる指標」であり、量と比の違いはあるが業者が求めている指標である。
グラフでは装置を設置した2箇所とも減少率に有意な差は見られないため、「装置の効果が確認できない」という評価は適切だ。
また、業者は「設置から数ヶ月後の測定が重要」と記載しているが、測定期間の後半だけを抽出しても有意な差が見られないことに変わりはない。

したがって本項では「業者主張は誤り」とみなす。

(以上)