見出し画像

190611 はやぶさ2記者会見

6月11日、小惑星探査機「はやぶさ2」についての記者会見が、JAXA相模原キャンパスでおこなわれた。もともとは、御茶ノ水の事務所でおこなわれるといわれていたが、1週間前に受け取った案内では、相模原キャンパスでおこなわれることになっていた。しかも、今回は2部制で、いつもと同じような記者会見が実施された後に、はやぶさ2のプロジェクトメンバーがたくさん出席する懇談会があるという。何かはやぶさ2の運用に関する重大な発表があるのかなと、いぶかりながら会場へ向かった。

会見で発表された主な内容は、5月30日に実施された、はやぶさ2の低高度観測運用(PPTD-TM1A)の結果報告。Twitterでは、既にPPTD-TM1Aでターゲットマーカーの投下に成功し、運用も無事に終わったことがアナウンスされていた。

今回の記者会見では、PPTD-TM1Aではやぶさ2は高度約9mでターゲットマーカーを分離し、高度8mまで降下したことが発表された。さらに、ターゲットマーカーの投下目標は、C01エリアの中でも北側のC01-Cと呼ばれる領域で、目標点から3mの場所に投下されたこともわかった。

1回目のターゲットマーカーは、目標点から15.8m話された場所に落ちたので、それから比べても、かなり精度が高くなっていることがわかる。この結果だけでも、運用チームはかなりの制御技術を身につけたなと、驚くばかりだ。ターゲットマーカーはお手玉のようなボールなので、分離してしまえば、どこに落ちるか予測しにくい。

今回、投下の誤差が少なかったのは、はやぶさ2がちゃんと予定通りの軌道を通るように、誘導制御法を工夫したからだという。これは、言うのは簡単だが、実際にやるとなると難しい。予定された軌道を通り過ぎて、戻ったりしないようにスラスターの吹き方を調整したり、ホバリングして、リュウグウとの相対的な速度を少なくしてからターゲットマーカーを投下したりというように、様々な工夫が凝らされ、誤差3mという驚異的な結果となった。この航法制御は、もちろん、今後の運用にも活かされる。

PPTD-TM1Aで、ターゲットマーカーがC01-Cの中にしっかりと投下されたことで、2回目のタッチダウンの予定エリアはC01-Cに絞られた。6月13日にも低高度降下運用(PPTD-TM1B)が実施されたが、ここではターゲットマーカーを投下せずに、人工クレーターの詳しい観測がおこなわれた。

C01-Cは、人工クレーターの中心部から少し離れた場所で、どちらかというと、クレーターの縁の部分にあたる。この場所を人工クレーターの内側とするのか、外側とするのかは議論があって、まだ決着していないようだ。ただ、SCIによって掘り起こされたリュウグウの内部物質は、1cmくらい降り積もっていることは確かなようで、内部物質を確実に採取できる。しかも、大きな岩塊はあまりなく、1回目のタッチダウンよりも条件がよさそうだ。

6月11日の時点で、はやぶさ2の運用チームは、2回目のタッチダウンにチャレンジするかどうかまだ決めていない。科学的には意義があることだし、難易度も1回目よりは難しくなさそうだ。問題は、1回目のタッチダウンでたくさんの塵が付着したことで曇ってしまった光学系の評価がまだできていないということだ。これは、PPTD-TM1Aで得られたデータにより評価するという。

光学系が曇ってしまったことで、どんな問題が起きているかというと、まず、広角カメラ(ONC-W1)でターゲットマーカーをとらえる高度が低くなるかもしれない。それから、レーザーレンジファインダー(LRF)で計測できる高度も低くなるかもしれない。特に、ターゲットマーカーをとらえる高度が低くなると、とらえてからタッチダウンまでの時間が短くなるので、はやぶさ2の安全確保がしっかりできなくなるのではという心配が出てくる。

今、はやぶさ2の機体の中には、リュウグウのサンプルというとても貴重なものが入っている。もし、2回目のタッチダウンのときに、事故が起こってしまえば、そのサンプルが地球に戻らなくなってしまう。ただし、2回目のタッチダウンをおこなえば、小惑星内部のサンプルというものすごく貴重なサンプルも同時に手に入り、小惑星の起源についての研究が進む。

タッチダウンには、少なからずリスクはある。極論を言えば、これ以上、タッチダウンをしないことが一番安全な策だ。しかし、もっと貴重なサンプルが採れるかもしれないのに、このチャンスをみすみす逃していいのか。運用チームは、この選択を迫られている。

これまでのはやぶさ2の運用を見ている限りでは、成功する確率は高いと思う。でも、タッチダウンは一番リスクの高い運用であることは確かだ。世の中には100%安全なことはあり得ない。運用チームはそのリスクを下げようと、これまで努力をしてきたと思うし、実際、精密な制御を実現できている。私の個人的な意見だが、2回目のタッチダウンには、ぜひともチャレンジして欲しいと思う。がんばれ、はやぶさ2(と運用チームの皆さん)。



サポート頂いたお金は、取材経費(交通費、宿泊費、書籍代など)として使用します。経費が増えれば、独自の取材がしやすくなります。どうぞよろしくお願いいたします。