見出し画像

維持することの大切さ 3 番外編

地方での活動

20年前も、今もよく言われる事なのですが、自分の音楽活動に満足している人とそうでない人とでは全く意見の異なる事があります。それは「東京」の捉え方。音楽で生きていこうと考えた時「上京する」というのは、漫画家でも音楽家でも…、仕事でも、「優位に働く」と思っている方が多いですね。では、何故「優位に働く」のでしょう?

東京という場所は、人口密集度が半端ない場所です。人口が多いということは多様性に優れていて、さらに文化的な知識を得る事に適しています。美術展などにおいても人が集まりやすければ様々な企画をできるため、結果的にいろんなものもを見聞き出来る環境にあるといえるでしょう。私もTwitterでアーティストに対して「仙台にも来てくれよ」と言いますが、当然、仙台では数が少なくて儲けが出ません。2,000万人都市と100万人都市では比較にもなりません。なので、商売という点ではどうしても人口の多い場所に集中するのです。

そんな当たり前の事を書きたいわけではありません。もし、地方在住で十分に生活できる人が、地方に居たまま東京で商売をすればどうなるでしょうか。私はそれを実践しています。仙台は家賃が比較的安く、現在住んでいるマンションも3LDK。職場を一つ確保していますが、寝る部屋とは別です。一階で隣がエレベーターになっているため騒音問題はありません。最寄り駅まで徒歩で10分。仙台駅まで20分で行けるため、立地としてはそれほど苦労していません。そして驚く程安い。ダウンロード販売での売上だけで家賃が払えてしまいます。ダウンロード販売は諸経費が一切かからない錬金術ですので、消費感はありません。

即売会に頼らざるを得ない同人音楽家としては、頻繁に上京することになります。なので、交通費が嵩みます。しかしこの交通費も、年間での計算で行けば、東京で同敷地面積のマンションを確保する金額に比べれば安い。圧倒的に安い。音楽作りは環境がものを言います。狭い、高い、苦情が来る、などの問題を一気に解決する方法を取ったわけです。

昔ならいざしらず、現在は地方に居ても、東京で商売をする事は出来ます。制作環境は地方で、商売は東京で、この両立こそが、「コストをかけずに維持する」という真骨頂と言えます。

年間10回程東京を往復したとしても、22万円程度。家賃が2万円高ければ年間24万円の差が出るわけですから、イベントの度に通った方が良いと判断したわけです。家賃も交通費も同人活動をする上では大切な問題となりますので、長期活動を念頭に置いて、本当に必要なのは何かをしっかり考えるべきです。

誘惑率が低い

東京に住んだことがありますが、田舎育ちの私には、魅力的、というよりもむしろ、誘惑が多すぎて身を滅ぼす街だと思ったものです(高校時代)。地方での年に一度のお祭りレベルのイベントが毎週のように行われ、人が動きます。何かに追い立てられるように遊び歩きます。クリエイターとして、自分が作るものよりももっと魅力的なものが溢れていて、別に自分で作らなくてもいいか、と思ってしまいます。日々創作意欲が削られていき、時間に追われます。街を歩くと目に飛び込んでくる情報が多く、ライブ、イベントも全て「行ける距離」で行われている。行かなければ損した気分になり、行ったら行ったで消費し、行かなかったら行かなかったでストレスが溜まっていく。東京とはそういう街なのです。それが魅力でもありますが、田舎の私には適応力はほぼ無く疲れてしまいます。私が東京に行く時に常に利用するのは新橋周辺です。あそこはビジネスマンの街で、目立った誘惑は無いように思えたので選んでいます。

大きく稼がなくても食っていける、という選択肢

大きなコストを払い、大きな利益を生む、という生き方を選んだ場合、そこに仕事を選ぶという自由は減っていきます。私の場合、仕事を選べる立場でありたい。そう思っているので、大きなコストを払う事はできないし、大きな利益も期待できない。その代り、仕事に追われることも無いし、やりたいことがやりたいだけ出来る、という人生を選びました。

せっかく、音楽で食っていく、と決めたのだから、嫌な仕事は極力やらないで生きていきたいし、安定と引き換えに自由を選んだわけだから、徹底した自由にこだわろうと心に決めているわけです。そうすると、生み出される音楽は質の良いものが出来るようになり、結果人の心に残る音楽家になれる、と信じているのです。

長期投資家の発想

アーティストは、世に評価され、知名度が向上するのに時間を要しますし、この日本では、とある出来事で知名度が一気に向上すると、一気に過去の人になってしまう傾向が強くあります。生涯音楽で生きていく、と考えた場合、目先の事を考えてはいずれ潰れる。仕事を選び、自分が満足する仕事だけをして、良いものだけを排出していくという手法を取った場合、一番の問題は活動維持コストです。家賃と生活コストが安い場所に住む、という手法でなんとか維持しているのです。その日の稼ぎがあればそれでいいという投機的な考え方では長いスパンでの活動はできません。人生設計として、音楽家は「生き方そのもの」です。

人生の分岐となった「本」

いろいろ悩んでいた時「感動を作れますか?/久石嬢」を読みました。久石さんといえばご存知スタジオ・ジブリの音楽で有名ですが、彼の生き方、生活の仕方、哲学なども書かれていて、大変感銘を覚えました。目に映るものが多い場所では創作は難しい。作家さんも温泉街で書くとはよく言います。あれは、世間からの隔絶を目的としているわけです。目に映る誘惑を遮断し、なおかつ孤独を感じないメディア、として、私はTwitterは優秀だなぁと思っています。音楽家だって孤独は嫌いです。相談相手が欲しいときもあります。でも、都合の良い時に一人になれるという利点もあります。画面上で見ている誘惑と、現実に存在する誘惑は全く違いますので、邪魔にはなりません。

そういった意味で、隔絶された環境「田舎」は音楽家にとって適していると確信しているわけです。

私の尊敬するメロディーメーカー「姫神」も、同じ境地にいたと言います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?