母が詐欺に騙されかけた話

まず最初に、「騙されかけた」であって、被害を食い止めることができたことを書いておきます。
しかし話を聞いてみると、「なるほど、そうやって詐欺被害が生まれるのか」と感じるところがあり、これを読む方、或いはそのご家族が被害に遭うことの防止につながればと思い、まとめてみます。
尚、父は20年ほど前に癌で他界しており、母は現在独り暮らしです。視覚障害がある為、ケアサービスを受けながら暮らしていますが、持病もある為、たまに電話をして様子を聞いています。

第一声

掛け子1「やられたよ! やられちゃったよ!」
母「やられたって何が? どうしたの?」
掛け子1「いつも持って歩いてるものそっくりやられた(盗まれた)よ! 」

この掛け子1は僕を装って電話をしてきた訳ですけれども、この「第一声」が全ての鍵になると考えています。
つまり「パニックを起こして慌てた様子」から、声がうわずっていたり、話し方が多少違っていたりしても受け入れてしまうと同時に、電話を受けた当人も半分パニックを起こして平常心を失って正常な判断ができなくなってしまうのです。
同時に「やられたって何が?」という返事がまずかったともいえるでしょう。この返事は言ってみれば「掛け子側の問い掛けに対応する答え」であり、これにより掛け子側は「引っ掛かった!」と確信できてしまうのです。
正常な判断ができなくなっているのは、次の点からも分かります。
掛け子1「警察には連絡済みで、今探してもらってる。警察との連絡があり、捜査の妨げにもなるから自分の所には電話をしないでほしい」
これは普通に考えたらどう考えてもおかしい訳で、何故実家からの電話が捜査の妨げになるのか? を考えられなくなっており、素直に従ってしまいます。
母は90近く、年齢からくる耳の遠さなどはありますが、頭はしゃっきりしていて、未だに口は達者です。普段から特殊詐欺のニュースがあると「なんでそんな簡単に騙されちゃうかねぇ」という位に警戒はしているのですけれども、その様な母がこうも簡単に騙されるとは驚きでした。
そもそも僕は仕事柄「引きこもり」なので、「いつも持って歩くもの」なんてありません(笑) 後から落ち着いて話せば、母もこのことは分かっており、いかに判断力を失っていたかが分かります。

警察を装う者からの電話

先の電話から数時間後、警察を名乗る別な掛け子2から電話がありました。
掛け子2「横浜のごみ箱から財布が発見されました。書類(盗られた鞄に入っていることになっているらしい)はまだ見付かっていないので、犯人が持っていると思われます」

これもどう考えてもおかしいですね。何故盗難品が発見された連絡が母にあるのか? 展開そのものがおかしいです。
ただこれは「騙されていることに気付いているかどうかを確かめている」とも理解できます。気付いていたらこのやり取りをそのまま受け入れる訳がなく、逆に「はいはい」という返事は「騙せている」ことの裏付けになります。

金の無心

そこからしばらく置いて、掛け子1から再び電話がありました。
掛け子1「70万位どうにかならないか?」
これはつまり、盗まれた鞄に入っていたものの弁済の為、ということの様ですが、ここから先は生活状況が足枷となって詐欺犯の思う様に進みませんでした。
母の住まいはかなり不便な立地であり、かつ視覚障害がある為、一人で出掛けることはできません。
母「お金と言われても家にはないし、急ぎだったら近所の人にお願いして車で銀行に連れてってもらわないと…」
掛け子1「じゃあ頼んで!」
母「運転できるの○○さんの息子さんだけで、今いないからすぐには無理よ」

ここから、1時間おき位に「○○さんの息子さん帰ってきた?」という電話が5回位掛かってきたそうです。そしてその都度要求する金額が下がり、最終的には20万位になったそうです(笑) これはつまり「すぐに用意できる、家にある現金を巻き上げよう」と言うことなのでしょう。

ご近所さんの感じた違和感

件のご近所さんに「銀行に行きたい」ということを伝え、「お金を用意する必要があって、でも訳は言えない」という話に、このご近所さんは違和感を覚えました。
「何かが変だ」と言うことを、わざわざ母のケアマネージャーさんに連絡してくれました。これは本当に偶然なのですが、かつてこのご近所さんのお婆さんの担当をしていたケアマネさんと同じ人だったのです。
連絡を受けたケアマネさんは母に電話して「お金が必要ということですけれども、何に必要なのですか?」と聞いてみましたが、「訳は言えないし、僕の所にも連絡しないでほしい(最初の電話で「電話をするな」と言われたのを真に受けている)」と言われました。

ケアマネさんからの連絡

どう考えてもおかしい、誰かに騙されているとしか思えない、と感じたケアマネさんは、直ちに僕のところに電話をくれました。
当たり前ですが「お母さんが、お金が必要とのことで…」という話に、当たり前ですけど「何のことです?」としか返せません(笑)
話が全く噛み合わず、二人で「見事に詐欺に騙されてますね! すぐに当人と警察に連絡します!」と言ってから母に電話をしました。

未だに騙され続けている母

母に電話をして「何がどうなっているのか」を聞いてみると、「だって、電話するなって言われてるし…」と未だに騙されている様子です。
そこで、「僕は、朝『体調いかが?』と電話した後は掛けていないし、何も取られていないし、金も必要ではない! 詐欺だよ! 騙されているの!」とかなり強い口調で言いました。
「だって警察からも電話があって…」というので「その警察も犯人の仲間!」と言ったら、「えぇ、えぇ~」と絶句していました。
その後、一旦電話を切り、地元警察に連絡をして詳細を説明し、対策をお願いしたところ、その日の内に防犯対策装置を電話に取り付けてくれました。電話が繋がると「この電話は防犯の為録音をしています」と流れるものです。

撤退?

その後は詐欺電話は掛かってきていません。
防犯装置が取り付けられたことで「気付かれた」と分かったのでしょう。

後日談と分析

母を内科に連れて行く際に、その時の話をしました。
とにかく意気消沈していました。「自分は騙されない」と思っていたものがまんまと騙され、しかも実の息子の声を聞き間違えたということが、ダメージが大きかった様です。
ただ、正直言えば、実に上手いやり方だ、と感心せずにはいられません。
ポイントは

  1. パニックを装い、それにより相手もパニックに陥らせ、平常心を失わせる。正常な判断をできなくする。

  2. もっともそうな理由を付けて、当人(この場合は僕)に連絡を取らない様にさせる。

  3. 複数回の電話で「ばれていないこと」を確認する。

  4. 複数人で演じ分けて信頼させる。

ことかと思います。
特に1の「最初の一撃」が全ての鍵を握っているのではないかと感じました。

詐欺などと言う、みっともなく薄汚い犯罪がなくなり、悲しんだり苦しんだりする人が減ることを切に願っております。

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