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after COVID-19に向けて(2)MIT Technology Reviewから

4月22日のMIT Technology Reviewの記事に、Podcast: The long path to a post-pandemic realityというポッドキャストがあり、その内容が書き下ろされている。私達が再び外出するために、経済を回すために、我々はどうすればよいのか? 素晴らしく示唆に富む内容なので、すごく長いが、頑張って日本語化する(頭の3分半ほどは前置きなので省く)。聞き手はWade Roush(以下W)、話し手はGideon Lichfield(以下G)。Gideonはテックレビューのチーフエディター。

W: Gideon、昔の日常(old normal)に戻れない理由を説明して欲しい。

G: 今現在パンデミックが起きており、人口の一部に感染が拡がっている。人数はわからないが1%かもしれないし、10%かもしれない。既に感染した人の数など、不明な点はたくさんある。しかし、分かっていることは、まず、ワクチン開発には少なくとも12ヶ月から18ヶ月かかるということだ。効果のある薬の開発にはそれほどの時間はかからないかもしれない。既存の薬がCOVID19に有効であることを証明する可能性はある。しかし、現状ではそのような有効性を示す強力な証拠は多くはない。そのため、カーブはフラットに維持しなくてはならない。治療が出来たり、ワクチン接種が出来るようになるまでは、感染レベルを適度に低く保つ必要がある。 では、カーブを低く保つ、とはどういうことだろうか? それは私達が皆知っていることだ。社会的距離を保ち、人との接触を可能な限り少なくすることである。ただ、ここに課題がある。我々は12ヶ月から18ヶ月家に籠もっていられるだろうか?それはとても難しく、既に悪化しているように経済を破壊する。従って、我々が今考えなければならないのは、薬やワクチンが出来るまで、距離を取りながら徐々に外に出始め、ある程度社会的に接触し、ある程度職場には出る、ためにどのような対策をとるか、ということだ。

W: 多くのライターやコメンテーター、政策立案者が、いつ、どのようにこの時期が終わるのか、と質問しているのを良く目にする。

G: 問題はその時期を決められないことだ。中国では武漢でとても厳しい70日間のロックダウンが行われた。その意思決定は、まだ死者数が数百人だった頃だ。アメリカで実施されたシャットダウンのいずれよりも厳しく実施された。アメリカが70日以内に中国の感染者数のようになると考えるのは、明らかに現実的でない。6月の中旬、乃至は下旬までに人々が外に出られるほど”カーブが平坦になる”とは考えられない。

W: この1,2週間で、いくつかの専門家グループが、パンデミックの再燃リスクを最小限に抑えながら、経済を回復させる方法について、色々なシナリオを発表している。具体的な計画は異なるが、多くの共通点もある。そのなかで、あなたが最も必要であり、最も賢明で、最も家から出られる可能性が高い、と考える対策について、フォーカスして説明してほしい。

G: 薬やワクチンが無い限り、家から出られるようにするにはいくつかの鍵となる点がある。一つ目は、現在よりもはるかに多くの検査をする必要がある、ということだ。アメリカでは、私が最後に確認した時点で1日に約15万人が検査を受けていた。ハーバード大のエドモンド・J・サフラ倫理センターの試算によれば、毎日行わねばらならいテストは250万人から数千人になる。

G: そこには次のような考え方がある。誰かが感染し、それに気が付かない、症状がない、または症状が非常に軽い場合、他者に感染させる前に自分が感染していることを気がつけるように十分な頻度で検査できるようにしたい、ということだ。もし、全人口を対象にしたいのであれば、数日毎にすべての人を検査せねばならない。誰かが検査をして、陽性であることが分かった場合には、その人は数日前から接触の在った人全員に連絡し、「あなたは暴露した」ということが出来る。検査をし、自分を隔離せよ、と言える。

W: どのシナリオでも、必要とされるテストのレベルに近づけるには長い道のりがありそうだ。私達はまだそこに達していない。今の世界とその規模の検査を行う事ができる世界の間には、どのような道筋があるのだろうか?

G: 確かに道のりは長い。検査の能力を大幅にスケールアップする必要がある。できれば数分で結果がでるような、新しい検査方法を開発せねばならない。病院であろうが、ラボであろうが、職場でもそのような検査を実施できるようにキャパシティを大きくせねばならない。そして、結果を記録し、それが正しく記録されたことを確認し、保存するためのインフラも必要になる。現時点では、これらすべてをどのように具体化するのか、明らかではない。大規模な投資が必要で、民間であれ政府部門であれ、今はないテストインフラを作り上げねばならない。

W: Gideonのリストの2つ目は、コンタクト追跡である。これは伝染病管理や感染症の対策として標準的な方法だ。マニュアルのやり方では、もし誰かが陽性反応を示せば、その人にここ数日間どこにいて誰に会ったか、を思い出してもらう。そして、その人達全員に電話をかけて、同じことを行う。しかし、アメリカの多くの場所では、このやり方では手遅れだ。パンデミックは既に素早く拡がっている。だからこそ、多くの人々がモバイルデバイスを使ってこのプロセスを自動化することを考えている。Gideon, このスマホベースのコンタクト追跡システムの基本を説明してほしい。

G: 私達は大体ポケットに携帯を入れているので、誰に会ったかを追跡するのは携帯を利用するのが明白である。しかし、他の方法もある。そのうちのいくつかは、より「ビックブラザー」的な、他の方法よりも煩わしい監視だ。例えばイスラエルでは、国内の諜報機関が携帯基地局を利用して人の動きを追跡し、テロリストの追跡に使っている。コロナに感染した人の追跡のために、このデータを公衆衛生当局が利用するようになった。ピア・ツー・ピアトラッキングと呼ばれる別の方法もある。シンガポールではこの方法を採用している。あなたの携帯にこのアプリをインストールしてあれば、ブルートゥースを使い、あなたの近辺で同様にこのアプリをインストールしている携帯を識別する。ブルートゥースは互いに信号を探してトークンを交換するからだ。そして、後にあなたや他の誰かが陽性となり、その結果をアプリに入力すると、過去2週間程度に交換した他の電話のトークンすべてにそれを登録する。そして、トークンは保険省に、この人は陽性で過去2週間にこれらの人に会った、と通知をする。その結果、保健省は当該の人々に連絡をすることができる。

W: シリコンバレーではアップルとグーグルが、この種のアプリをOSがフックできるような開発が共同で進められている。このようなコラボは前代未聞だ。これは大きな前進だ。このコラボは全プロセスを加速し、こういうものが不可欠であるという感覚を与えてくれる。

G: 両者の動きは大変興味深い。なぜならアンドロイドフォンとアイフォンでデータを交換するためのフレームワークが出来るからだ。誰かがこの仕組を使ったアプリを開発せねばならない。しかし、これはそれを可能にするインフラとなるのだ。更に、両者は将来このコンタクトトレース機能をOSに組み込むつもりであると言っている。もしそうなれば、スマホを持っている人はこのアプリ・機能を持っていることになる。利用者は、これを利用するためのオプトインをする必要はあるが。自動的にオンになるのではないにせよ、多くの人が利用する可能性は高まる。そして多くの人が利用するようになれば、コロナウイルスに暴露した時に警告が表示されるようになる。これは封じ込めの助けになる。

W: このアプリをインストールしていなければ仕事に戻れない、というようなインセンティブがあれば、システムの採用率は上がりそうだ。

G: そのとおり。アプリをインストールしたり、テストを受けたりするように、人々にプレッシャーをかける色々な方法が想像できる。会社(雇用主)はこれを強制することができる。公共交通機関もこれを強制することができる。中国がやっているように、地下鉄に乗ったり、レストランに入る時にコードを見せなければならないかもしれない。この種の事実上の隔離を実現する方法はいくらでもある。しかし、もし、社会の中で自由に動き回るという利点を得たいのであれば、このようなやり方になる。

G: 本当に難しいのは、アメリカ社会の不公平感を増幅することなく、このようなシステムを導入することだろう。例えばマサチューセッツでは、人工呼吸器が不足したときに、誰にそれを与えるべきか、というガイドラインを採用している。そのガイドラインには多くのクライテリアがある、例えば、余命は何年くらいか? どれだけの持病を持っているか、によって、生存可能性は変わるだろうか?これらのクライテリアは自然と有色人種を差別している。なぜなら有色人種は持病や健康問題を持っている確率が高く、質の低い医療を受け、寿命が短くなるからだ。結果として、これらのクライテリアは盲目的で目的のようになり、生存の可能性の最も高い人が人工呼吸器を得る可能性が高くなる。この基準は結局有色人種の人々を制度的に差別することになる。既に免疫がある人や検査を受けた人だけが移動することが出来たり、仕事に戻れたり、特定の場所に行くことが許可されるようなシステムが有ったとしても、同じことが起こるだろう。なぜなら、ウイルスがより流行っているコミュニティではこれらの検査にパスすることは少ないだろうから。どう解決出来るのか、今のところアイデアがない状況だ。

W: 私達が外にでられるようになるための、Gideonの3つ目のポイントは抗体検査である

G: もし、コロナウイルスに感染していて抗体を持っている人を検査し、抗体を持っている=免疫を持っている人を見つけることができれば、その人達は感染のリスクも他者を感染させるリスクもないので、外出出来るようになる。抗体検査が広がれば、全国でどれくらいの人が感染し、それに気が付かなかったかということも明らかになるだろう。

W: 信頼性があり、スケーラブルである抗体検査のインフラの確立に、我々はどれくらい近づいているのだろうか?

G: 期待するほどには近づいていない。イギリスでは数百万の家庭用抗体検査キットを発注したが、十分な結果が得られないことが明らかになった。ここに抗体検査の問題がある。抗体検査には特異性のレベルというものがあり、抗体がコロナウイルスのもので、その他のものではない、と判断する正確性を表す。これらの検査の多くは95%の特異性レベルを持つ。つまり、100回のうち95回陽性であれば、コロナウイルス抗体であると判断されるが、残り5%は他のウイルスの抗体を拾ってそれをコロナウイルスの抗体であると誤認する。なぜこれが問題かというと、免疫があるかどうかを調べるために検査をしていて、人混みの中に行っても大丈夫であるかどうかを判断するときに、5%の人は「この人には免疫があるが、他のウイルスのものでコロナウイルスのものでない」という陽性結果を得ているとしたら、実際には免疫がないのにその人を外に出してしまうことになる。これは大きな問題だ。従来より正確な検査をして、その普及を図らねばならない。今の所そのような検査方法はない。

W: 1年半後、乃至は2年後を想定し、そのときにはワクチンがあり、パンデミックは収まっていると仮定してみてほしい。その時にパンデミックからの持続的変化は何だと考えるか?ニュー・ノーマルはどんなものになると考えるか?

G: もし、物事が上手く進めば、ニュー・ノーマルでは、人々が自由に動き回れるということは彼らが健康であることを示すことが出来るかどうか、に依存する、というアイデアに慣れることではないか。そして、公衆衛生のモニタリングがより受け入れられるようになるだろう。データが責任ある方法で収集され、責任ある方法で共有され、公衆衛生上の利益が明確であるならば、それは良いことかもしれない。アメリカにおけるシステム的な不公平が何らかの形で補償され、すべての人にとってより良いヘルスケアにつながるのであれば、それはポジティブな結果になる。それがポジティブなシナリオだ。ネガティブなシナリオは、COVID19を退治できたとしても、そこから何も学ばず、次のパンデミックが来た時に同じように脆弱になってしまうことだ。


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