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ボードゲーム「MOSAIC」の定石と理論


はじめに

荒川レーキといいます。先日あったモザイク陶王戦で相方とともに優勝しました。
このたびボードゲーム「MOSAIC」のさらなる発展と興隆を願って解説記事を書くことにしました。内容の正しさは保証できかねますが、よければ参考にしてください。

MOSAICって?

多治見市発の二人用アブストラクト・ボードゲーム。コマに地元のモザイクタイルを用いていることが特徴であり、美しい見た目をしている。
多治見市にて最強を決める名人戦と、チームで戦う陶王戦が年に一度ずつ開催されている。
ルール自体は40年以上前にイスラエルで誕生した「アッパーハンド」とほぼ同値となっている。

概論

定石を学ぶ前に、ゲームの特性について理解する必要がある。
はじめに、モザイクは先手がかなり有利なゲームだ。公式大会の決勝トーナメントでは、先後入れ替わりで二試合おこなうシステムが通例となっていることからも分かる。
したがってこのゲームには2つの戦略が存在するといえる。「先手番を安定した定石で辛勝し、後手番でも逆転勝ちを目指す方法」「先手番を攻撃的な定石で圧勝し、後手番は惜敗する方法」だ。
つまりMOSAICでは後手微不利の定石にも価値があることになる。

次に、鏡打ち(鏡指し)について。MOSAICでは意識的に立ち回らない限り、高頻度で対称的な局面が現れる。
くわしい説明は省略するが、後手番を持ったとき、三段目中央を取られたうえで相手に鏡打ちをされると、その時点でほぼ必敗となってしまう。
最強を目指すなら最善手だけでなく、局面を複雑化させる(相手を惑わす)手も指せるようにしておきたい。

3つ目、コンピュータによる解析について。実はこのゲーム、20年以上前からコンピュータプログラム(成長するAIの類とはまた違う)が開発されていて、実力はほぼ最強だ。こちらである。

厳密にはアッパーハンドのプログラムなので後手の石が69個、つまり引き分けがあり得るという若干の違いはあるが、指し手はMOSAICの答えそのもの。本記事もこれを参考にして書かれている。
私が独占していてもよくないのでこの機に公表しておこうと思う。強くなりたい方はぜひ活用してほしい。
 (開発者様には掲載許可を頂きました。ありがとうございます)

最後に座標について。定石を解説するにあたって座標がほしいため、チェスと同じ様式で簡易的に割り振ってみる。

一段目。中央の石はD4として数える
二段目

左下が(A1)、右上が(G7)。2段目以降も同じように捉え、(3段目B2)などと表記していく。
なお1.(D3, D5)と書いたとき、一手目に先手がD3マス、後手がD5マスに置いたことを意味する

本編:定石と理論

結論から言うと、以下のチャートになる。

意外なことに、二手目まではどんな手を指してもある程度成立するらしい。分岐と合流を加味し、破綻している手を除くと、およそ10種類くらいの定石が定まる。
名前がないと不便なこともあり、ここでは私が定石名を勝手に命名しながら順に解説する。


1. 十文字布局

由来はそのまま、見た目が十文字にみえるから。
不安定な形なので、特に中級者同士なら互角に近い戦いができそうだ。互いに(C5, C3, E5, E3)を避けながら打っていくことになる。

以後、一例として3.(B4, D6) 4.(D2, F4)

なお、お互い2回まで指した形を布局、3手目以降を指した形を定石と呼ぶことにする。


2. 風車定石

風車状の妙な定石。実戦ではあまり見かけない上、単純な点対称なので差がつきにくい。はっきり言って長所のない形である。
この形になる直前に後手から2段目に打つのもアリか。


3. 多治見定石

最も根源的な手順であるように見えるので、このゲームの発祥の地から名前をとらせてもらった。
根源的、と言っているようにさまざまな初手から合流できる均衡のとれた局面である。中央二段目と中周に着手するタイミングとバランスが重要となる。

以後、一例として5.(B4, F4) 6.(2段目D4, 2段目C3)


4. 双山定石 - クラシカルバリエーション

ふたつの山に見えることから名付けてみた。
よく見る定石。落ち着いた局面なので先手の利が大きく、後手は惜敗くらいに落ち着きやすい。
後手で勝ちを狙う場合は、双山定石自体を避けた方がいいように思う。2手目で多治見定石に合流するべきだ。

一例として4.(F5, B3) 5.(E6,C2)


5. 双山定石 - モダンバリエーション

クラシカルに比べると“伏兵”が一コマずつあり、不安定な形。
こちらの方が複雑な局面になりやすく、差がつきやすい。大会で勝つためのモダンな変化といえる。
問題は、こちらクラシカルかモダンかの選択権が先手にあるのだが、モダンに進むメリットがあまりないことである。研究しても無駄骨になりやすい。

一例として4.(2段目C4,2段目D3) 5.(F4, B4)


6. 土岐川布局 - 荒川変化

まず先手(C5,D3)後手(D5,E3)の形が川の流れのように見えるので、東濃地方をながれる川・土岐川にあやかって土岐川布局と呼ぶことにした。

そこから主に二通りの変化に分岐する。
こちらは先ごろの陶王戦で私が採用した変化。優勝したので生意気にも自分の名前をつけさせてもらう。3手目C3と指した時点で、先手は応手に関わらず主導権を握ることができる。


7. 土岐川布局 - 2021変化

モザイク名人戦2021の決勝で現れた局面。両者コンピュータプログラムを使用してないであろうにも関わらず、(最善と思われる)プログラムと同じ指し手が続いていた。そこに敬意を表し、こう呼ばせていただく。

バランス感覚が求められるので上級者向け。シャープな、きわどい戦いになる。

一例として4.(D6, D2) 5.(B4, F4)


8. オリベ定石

初心者が辿りがちな変化。先後どちらにとっても最適な手順ではないと思うが、せっかくなので名前をつけておくことにした。
落ち着いた局面なので先手の利が最大化されていて、後手は辛い。


9. カブト・クワガタ定石群


一つ出っぱった形がカブト、二つ出た形がクワガタ

画像から分かるようにカブトムシ型、クワガタムシ型の局面の数々。一見すると全部同じにみえるが、よく見るとまちがい探しレベルでの違いがある。
筆者の力量ではそれぞれに形成判断を下すことができなかったので、これは各自研究してほしい。
ある意味これらの地味なバリエーションこそがMOSAICの主幹なのかもしれないと思う。

 

まとめ

百年先に残すつもりで気合いを入れて書きました。多治見市民や、どこか遠い完全情報ゲームオタクの役に立てればと思っています。
もしこの記事を読んだ方が大会で私に挑んでくれたら、それ以上に嬉しいことはないです。
繰り返しになりますが、正確性を担保することはできないので大事な部分は各自検証してくださいね。
それではよきMOSAICライフを!

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