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リストラを躱して新しいステージに進む

昨年12月に前代未聞、異例の人事異動を拝命した。それからしばらくして古巣のチームは事業部門の解体に伴って消滅した。

古巣はアメリカ本社と戦略ファームのサポートを得て、鳴り物入りで誕生した。社内各部門のエースとトヨタ、パナソニック、レノボ、BCGなど錚々たる企業からの中途採用者の計10人ほどで結成されるやいなや、巨額の利益を叩き出した。

私も新チームに憧れて職務経歴書を毎月アップデートした。社内公募に備えて一年ほど待って、募集が出ると数分で応募して翌日には面談。その結果、見事に異動を勝ち取ったのだった。

あれから5年。画期的と言われたスキームがトレンドに合わなくなると、人はどんどん入れ替わり、チームは全社リストラのたびに縮小された。そして今回の消滅に伴って、大変お世話になった上司は人事部付、二次上司は退職となった。

リストラが憎い。
リストラが憎い。

リストラである。異動後の現上司も急遽、今週末で退職となった。それを聞かされたのが先週金曜日 のこと。

「突然ですが、来週で辞めますので(ニッコリ)」

ご本人が口にする理由を信じる以外にないし、どんな理由であれ、今週限りとなる。現上司は元上司とは全く異なるタイプだが、判断が早くて仕事はデキるし頭は良いし性格は温厚だし、欠点といえば優しすぎるくらいでとても良い人だった。報われてほしい。


ところで私が最初に勤めたブラック企業はたびたび不正が発生し、毎年2~3人が懲戒解雇となった。

「えっ!? あの人が? マジッスか?」

という感じで、真面目で温厚な人でも不正を働いて懲戒解雇となった。表面上の見かけや人柄は関係なかった。

あの会社で不正が起きた要因として、まず営業本部長による締め付けと追及があげられる。創業者の隠し子と噂されるチンピラで、異例の速さで出世した男だった。

毎朝、前日の日売結果が地区別にA4で印刷される。その余白いっぱいに太字のマジックで罵詈雑言を書き殴って全国の営業所にFAXする。毎日毎日、送る。

「こんな数字しか出せない第●営業部は会社に必要ない!!」

「反省するだけならサルでもできる、結果を出せ!!」

「数字からやる気を感じられない、全力でやっているとは思えないぞ!!」

予算未達の営業所長が数十人、月例会議という吊し上げのため全国から東京に呼び出される。全員の前で一人ずつ前月の結果を報告させられて叱責を受ける。

まず営業本部長がギャアギャア怒鳴る。

そして創業者の甥で社内No.2の常務がゆっくり怒鳴る陰湿な精神論で追い打ちをかける

「営業所長はねぇ、みぃんなに夢を見せなければならないんですよぉ! そんなんで見せられますかぁ?  ねぇっ? 分かりますかぁ?」

「PDCAを回すぅんですよぉ、PDCAをぉぅ、プラァンッ、ドゥウッ……………………ねぇっ?」

CがCheckなのかSeeなのか分からなくなってしまった様子の常務は社内で"不正のデパート"と言われていたが、狡い奴ほど捕まらないものである。

逆にズルさを持ち合わせていない真面目な人ほど不正の実行に慣れていないので、稚拙なやり方で簡単に監査に引っかかる。結局、小狡い奴だけが出世して異動した後にはぺんぺん草も生えないが、やはり子飼いの狡い奴が後釜として着任するので何の問題もない。

※なお、営業本部長は就任1年で営業部長らからクーデターを起こされて失脚した。同じタイミングにキャバクラ等での経費使い込みが明るみに出た(出された)ことをきっかけに会社を去った。この騒動について、創業者は「泣いて馬謖を斬る」と言った。

真面目な人とバカな奴はだめだ。この世界は目端が利く狡い奴、小賢しい奴がうまく渡っていくようにできている。そうだよ、夏目漱石の『ぼっちゃん」に出てくる赤シャツ、お前のことだ。

どこか不器用な坊ちゃん自身は赤シャツを成敗して、物語の最後で彼にしか得られない、彼だからこそ歩める人生があることが示唆されるのが読者にとって救いだったように思う。



そして私は先日、改めて異動の内示を受けた。リストラかと思いきや、ポジションがようやく決まった。根無し草は落ち着いた。たぶん。きっと。うん、落ち着いたはず。そして激務の日々が待っている。

前職を退職するとき、十数人の方から退職を惜しむメールをいただいた。丁寧に仕事をやってきた姿勢が認められたように思えて、とても嬉しかった。

そして今回も異動先の方々から個別に何本も歓迎のメールやチャットが飛んできて、たとえ異動先の上司の方がそのように指示したとしてもやはり嬉しい。

そう、新しい上司の方からもこの5年間すごくかわいがってもらっていたので、今回の異動は嬉しい。

私はつくづく運と人に恵まれていると感じる。たくさんの人が気にかけてくれる。声をかけてくれる。必要としてくれる。ありがたい限りだ。

「こんなに嬉しいことはない」とは、こんな気持ちの時に口に出るのかもしれない。

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