炎の男の実録檄白手記!~俺の備忘録~Vol.1

ゆえあって、プーケットに移住した。
 何故、プーケットに決めたのか?それは、治安がいいからだったのかも知れない。或いは、世界のセレブが住んでいるからというミーハーな感覚だったのかも知れない。しかし、そんなことはどうでもいいんだ。俺からしたら、このプーケットでカロンヒルの風に吹かれている、それだけで充分なんだ。正直、それだけで最高の気分なんだからさ。涼しく俺の頬を撫でる澄んだ空気……その中に微かに漂う海の匂い。それが好きなんだよな、単純に。プーケットの高級マンションには、まさしく世界の金持ちが集まってくる。アジア随一と言ってもいいほどに、マジでいろんな国のセレブが集まってくる。いやいや、俺もその中の1人なんだけれどもと、自己満足してるわけではない。だから、そんなことはどうでもいいって言ってんだろ。こうしてワイングラス片手にカロンヒルの風に吹かれている……それが快感なんだよ。手と足を思いっきり伸ばして、美味しい空気を胸いっぱい吸い込んで、何も考えずにのんびりしていると、あの日本での喧騒が嘘みたいに思えてくるんだよな。

 もちろん仕事があるから、月のうち半分は日本に戻っている。その時には、否が応でも喧騒に触れることになる。地上波のテレビとか新聞とかで世間の動きを確認することになる。それにしても、最近のメディアはおかしくないかい?ニュースの優先順位が違うと言うか……。朝から晩まで、どこぞのアイドルプロダクションの会長が亡くなっただの、事務所から離れたタレントが民放のテレビ局からずっと干され続けてるだの、そんなんばっかり。社会や政治より、芸能が大事だと言わんばかりだもんね。もちろん、芸能ニュースから学ぶものはあるよ。例えば、この前の某お笑いプロダクションの社長の会見。あれ、反面教師としてはかなりの価値がある見世物だったんじゃないかな。おそらく、みんなも見たかと思うんだけど。世間の評価は最低だったよね。確かに、所属のお笑いタレントの不祥事を解決するためのパフォーマンスとしては最低だったように思う。もともとは、闇営業に手を染めたタレントが写真週刊誌にすっぱぬかれたことが端緒だった。内々に契約解除や謹慎を告げられたそのタレントたち。彼らが会社に反旗を突き付けた。記者会見して「真実」を話したいと会社に直訴したんだ。その直訴を受けた社長が、会見などもっての他と高圧的に彼らの言葉を封じ込めようとした。それは会社を守るためだったのだろうし、たかが芸人風情がエラソーにという感情もあったんだと思う。で、こんなことを彼らに言ったんだ。
曰く、
「お前ら、テープ回してないやろな!」
「会見したら、お前ら全員解雇やぞ!」
と。
タレントからしたら、この社長は、自分たちを守ってくれるどころか、パワハラで口封じを図ろうとしただけだったわけだ。
会社に不信感を抱いたタレントは、自主的に会見を開いて、社長からのパワハラを涙ながらに語った。その結果、会社は窮地に追い込まれた。それを受けての社長の記者会見だったわけですが、それがなってなかった。タレントに対するパワハラ発言を記者から突っ込まれた社長は、
 「あれは、冗談だった」
 と釈明した。
 これ、まずいでしょ。
「え?冗談だったの?」
 ってなるよね。
おそらく、社長からすれば会社を守るための苦肉の言いぐさだったのだろうけど、それってまったく会社を守っていないよね。いや、俺も経営者の一人としてあの社長の発言はわからなくもない。必死で会社を守ろうとした気持ちは痛いほどわかるんだよ。でも、少なくともあの記者会見というオフィシャルな場面で言う言葉ではなかったな。本来なら、法務室とかと想定問答をしてから用意周到に臨むべき会見だった。もちろん、そんな時間もなくぶっつけでの会見だったんでしょう。
だとしたら、もっと本音で語った方がよかったんじゃないかな。正直にって言うかね。
絶対にそれの方が、人の心に届いたと思う。
「会社を守ろうとして、ついキツい言葉を彼らに発してしまいました。ごめんなさい!」
こう言って頭を下げた方が、世間も「なるほどね」と思ってくれたはず。
 これ、俺の信条だけどさ、結局、正直にいくしかないのよ。誤魔化さないといけない時、なんとしても会社を守らないといけない時……。
 そんな場面でこそ人は「正直」になるべきなんだ。危機管理の基本、追い詰められた場面では、「正直」に言う、「素直」になる、「本音」をぶつける……それが、俺流の世渡り術なのかもと、今回の社長会見の反面教師ぶりを見て思ったんだ。

 新宿でスカウトマンになってから10数年。今は新宿で「輝き」というデリヘルを経営している。お陰様で若きデリヘル王とか呼ばれて、それなりにハナを高くしたりしている。
 だけど……。
 ちょっと待てよ、と。
 いやいや、そうじゃないだろうと思う自分がいる。それでいいのか?心の中の自分が俺に語りかけてくるんだ。そんな半端な満足が欲しくってここまで来たわけじゃないだろうってね。
 そう、考えてもみなよ。
 日本と言うちっぽけな島国で生まれた俺が、故郷の北海道を飛び出して世界一人口が密集した首都東京にやって来た。そして、居場所を眠らない街「新宿」に決めた。騒音や人いきれのノイズにまみれた喧騒の中で生きてきた。人間の恨みやつらみが蔓延し、排気ガスの異臭が立ち込め、とどまることのない車両の群れと人混みのど真ん中で生きてきたんだ。でも、嫌いじゃなかったな。新宿の空気は、俺に合ってた。あえて、飛び込んだ街だった。昼夜の区別なく絶えず不協和音が鳴っているあの空気が好きで、坩堝のごとき雑多な人種が好きで、萎えてしまうほどの猥雑な雰囲気が好きだった。そんな世界で「夢」を叶えようと、足掻き、もがき、喘いでいた俺がいた。夢の全てが叶ったわけではない。それなりの立場はこの手で掴んできたが、夢を叶えたなんて口が裂けても言えない。自負を承知で言えば、この新宿という名の泥濘に深い楔を打ち込んで、ちっぽけだけど揺るがない土地を造り上げた。その土地に「デリヘル」という屋敷を建てた。今はその屋敷の主人として偉そうな顔をしてる。それだけのことだ。

 さっきも言ったが、俺の夢は全て叶ったわけではない。デリヘル王とか呼ばれて天狗になってる暇なんてないんだ。新宿のビルの事務所で、僅かな自己満足と引き換えに、人と人との交通整理に追われてる場合じゃない。
 プーケットの風と夕焼けの朱色を全身で味わいながら、自らのこれまでを分析していこうと思う。それが、新たな夢への挑戦の第一歩になるに違いない。まずは、過去の自分を振り返り、今の自分を省みながら、未来の自分に思いを馳せる。そのためには、これまでの自分を言葉で綴っていこうと思う。
 これは、だから、俺の備忘録なんだ。

 果たしてこの備忘録は、どこから語っていくべきなのか?答えは明白だ。今の自分を形づくった、そう、俺の黎明期からだろう。俺の人生の黎明期。早稲田大学に入学した辺りから「俺の備忘録」は語り始めることにするよ。
 楽しみにな。

(構成:竹内義和)


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