見出し画像

光が描いた波模様(980文字)

妻を怒らせたので、お昼御飯を作ってもらえない。

「ママ、怖いでちゅねえ」

なんて、あひるのぬいぐるみに話しかけてから、よっこらしょと立ち上がり、自分でランチを作ることにした。

アルミホイルに並べた餃子の皮に、チーズと納豆とキムチをのせて、オーブントースターで5分チン。

できた。

即席ピザである。

窓際のコーヒーテーブルで、できたてのなんちゃってピザを食した。ふてくされている妻を背中で感じながら。

なかなかうまい。お腹も膨れる。

(チーズと塩昆布をのせてもおいしいですよ。簡単なので一度お試しあれ♪)

――さて、妻。

妻は、持病の食事制限で、納豆もキムチも食べられない。

では。

と思い、立ち上がり、キッチンに歩み、冷蔵庫からこしあんを取り出した。

あんこは制限されていない。妻の好物なので、1キロ単位で常備していたりする。

やはり、餃子の皮にのせる。

5、6枚をオーブントースターでチン。

いい匂い。

皿を手に、窓際のコーヒーテーブルに戻る。

後方の妻を意識しながら、でもさりげなく一つをぱりりとかじる。

「んー、うまいなあ。あんこもかなりいけるよなあ」

と、独り言のふりして妻に、背中で言う。

妻が、もさりと動いた気配。

「一緒に食べない?」

と訊いてみる。

「食べない」と不機嫌な声が返ってきた。「嫌いな人が作ったご飯は食べたくないっ!」

――キライナヒトガツクッタゴハンハタベタクナイ。

これをどう解したらよいのだろう?

甘え?

意地っ張り?

二つ目を、ぱりりとかじる。

「ちょっと作りすぎちゃったかなー」

と呟いてみる。

「にしても、うまいなー」

と付け足す。

妻がまた、後方で動く。

「一つ、食べてみなよ」

そう言ってから黙り、様子をうかがうこと約10秒。

餌に近づく動物みたいに、ずいぶんと用心深げに妻、やってきた。

僕の隣に座る。

見られていると食べづらいだろう。

そう思ってあらぬほうに目をやる。

直射日光が暑いから、と閉めていたカーテンに、どういう光の加減なのだろうか、波模様が、とても美しく描かれていて、きれいだなあ、と思いながらそれを眺める。

ぱりり。

餌のかじられた音が響いた。

「薄皮まんじゅうみたい」

と妻の声がした。

「おいしい?」

と、波模様に向かって尋ねた。

「おいしい、です」

と妻の声が、丁寧さを付け足すみたいにして応えた。

ではでは。

と思い、また立ち上がり、もう幾枚かのピザをこしらえるために僕は、冷蔵庫に向かった。


文庫本を買わせていただきます😀!