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いつか、一緒に。

今年の花火大会夏は圧巻だった。新調した撫子柄の浴衣を彼は大袈裟に褒めてくれた。もっと二人で余韻に浸ればよかった。


でも、この時期のわたしは大人げなく拗ねている。あれこれ理由をつけて、デートをそそくさと切り上げた。


浴衣を脱いで、ひとつにまとめた髪をほどく。窓から入ってくる風は、昼間の熱気を帯びたままだ。開けたばかりの缶ビールはたっぷりの汗をかいて、早くもぬるくなってしまっている。



来週のことを考えると憂鬱。



お盆やお正月、彼は生まれ故郷に帰省する。付き合って2年、一緒に帰ろうと言われたことはない。さりげなく旅行の候補に挙げても、「なにもないところだよ。」とかわされる。


シンジ、ポパイ、ゴン、そしてマリエ。彼の幼なじみ達。
わたしの知らない彼を知っている、4人。



彼と一緒に過ごす時間はこれから抜かすことはできるかもしれないけれど、子どもの頃の思い出に仲間入りすることはタイムマシンが発明されないかぎり、叶わない。


わたしに、幼なじみはいない。学生時代、仲間となにかに熱中したこともない。秘密基地とかここからみえる空が好きとかそういう類のもの、なんにもないんだ。


同じ町で生まれて、同じ景色をみて育ち、大人へと成長していく。そして、いつまで経っても青春時代に戻れる特別な魔法だってかけられる。そんな世界は「白線流し」か「砂時計」の中でしか知らないよ。


詳しく話さないけど、きっと彼はマリエという少女が好きだったのだろう。いや、彼だけじゃなく、シンジ、ポパイ、ゴンも…。そんなことを考えても仕方がないのに。


「行ってらしゃい。楽しんできて!」


別れ際の台詞を決めていたのに、のどにつかえて言えなかった。絞り出した「バイバイ」もきっとひしゃげた哀しい笑顔だったにちがいない。後悔してメソメソするなら、もうちょっとがんばればよかった。


大人にならなきゃ!

そう決意して、ぬるくなったビールをに飲み干した。


「いつか、いつか、一緒に行けるよね」

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アラキナツ

東京タワーのふもとで世のため人のためWebコンテンツ作成をしています。noteには40代女性の日々の暮らし、働き方や生き方を正直に綴っています。夫はアメリカに単身赴任中。阪神タイガースファン。お寿司が好きです。▶連絡はTwitterのDMへ @araki_natsu
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