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報告:note投稿小説紹介

【文字数:約五九〇〇 初稿:二〇一九/九/一〇】

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 ようやくnote用の自作小説が有料と無料ともに一通り出揃ったので、宣伝も兼ねて作品の内容を軽く解説しておこうと思う。特に有料記事は冒頭しか読めないので全容が分からず不便だろうし、仮に購入するにしても効率重視ならば商業小説を買った方が良い訳であるから、尚更、購入の前には深切に説明しておくべきだろう。有料作品の場合だと、十枚から二十枚程度の作品で百円を支払わせるのは高いと思われるかもしれないが、商業小説の低価格戦略は大企業の圧倒的物量があればこそ成立するものだろうし、そもそも、子供のお遣いですら報酬として百円の飲み物くらいは飲ませてもらえるだろうから、私の掌編小説も特注品のつもりで堂々と百円の値札を付けさせて頂く。なお、各作品の冒頭に付されている文字数表記は、末尾に付されている注や参考文献全ての文字を含んでいるので、本文は表記より少な目である事に注意されたし。

 では、まず、無料で公開している小説の解説を行う。これらは試供品のような作品群である。そのわりには量が多過ぎる気がするが、元々、無料で公開していたものがほとんどなので、今更、有料にするのは気が引ける。なので、個人的には大盤振る舞いのつもりで提供したものである。とは云え、分量としては合計しても短編一本分程度であるから試供品としては妥当だろう。

無料公開作品
〇掌編小説『何彼襛矣《なんぞかのしげれる》』竜飛、帰路に美玉を認め、紅玉、岳陽晩映を詠《うた》う
 これは恋愛物の作品に成るのだろうか。中国清の時代を舞台にしている。六年ほど前に清の時代を舞台にした長編小説を書いた事が有るので資料を増やさずとも書けたのは幸いだった。私の過去の作風からすると、この作品は舞台はともかく内容としてはかなり異端であるし、今の私の作風からしても異端である。つまり、これを書いていた時は相当疲れていたと云うか、もう戦う話はこりごりだ、みたいな気分と共に書かれた特異な作品である。他の無料作品と比べると作風が明るい。題名はややこしいが中身は軽やか、と云って良いのだろうか。主人公の竜飛と云う男が紅玉と云う女性を助けて良い感じに成ろうとするが、かえって彼女に上手い事動かされていく様が面白い、と云うべきなのだろうか。また、都合良く女の子に好かれて嬉しい系の作品として読む事も出来る、と云ってしまって良いのだろうか。
 このような事は作者が云う事では無い気がするが、私は異端なので別に云ってしまっても構わないだろう。もちろん、作品の読み方は読者に任されており、作品から何を読み取り、何を考えるかは自由である。それこそが読書の醍醐味《だいごみ》だろう。

〇掌編小説『信玄公の奇正論』
 短い。二四〇〇文字程度しか無い。これは四〇〇字詰め原稿用紙、つまり、昔の文豪みたいな人にくちゃくちゃに丸められて捨てられている感じの、あの原稿用紙だと六枚分でしかない。学校の読書感想文を最大二枚だと考えると、それとあまり変わらない。しかし、内容は濃縮されているはずなので、読み応えは有るはずだ。内容としても現在の私の作風そのままなので、とりあえず入門編として読むにはちょうど良いと思われる。作品の内容は題名そのままであり、武田家の者が織田信長の汚いやり口を非難しているのを、武田信玄公が人伝に聞き、それに反論する形で自己の信念を開帳すると云う話である。当然、合戦《かっせん》や決闘をする話では無い。
 ちなみに、今の私は戦う話をあまり書く気に成らない。むしろ、戦いに凝るよりも、登場人物が何を語り、何を成すかの方に興味が有る。極端な話、決闘のような戦いの描写は「なにがなにやらわからぬうちに…」と書くだけで済ませても悪くは無いと思う。格闘技や剣術そのものを主題としているので無ければ、決闘の場面を無理に凝らなくても構わないだろう。
 とは云え、合戦や戦争を書く場合にはあまりにも勉強不足だと全く現実感の無い話に成ってしまって失敗するかもしれない。例えば、現在、私の手元に集めてある資料は戦史つまり戦争の記録が多い。戦史ならいくらでも資料を基に小説が書けそうな勢いである。この事実には、もう事件を解決したくない名探偵みたいな風情が有る。つまり、もう戦争物はあまり書きたく無い気分なのに資料はがっちり武装されている訳だ。合戦や戦争について語るのであれば、せめてそれくらいの備えはしておきたい。

〇掌編小説『沈慶之《ちんけいし》の三国論破』
 長い。一万文字も有る。これのどこが掌編小説なのだろうか。掌編とはおおむね原稿用紙数枚分の作品ではないのか。なのに、この作品の場合だと一切改行しない場合でも二十五枚分に成る。とは云え、この分量では短編と云うには少し短い。個人的には短編を名乗るならせめて三十枚は欲しい。なので、この作品もぎりぎり掌編と呼ぶ事にしておく。
 作品の内容としては、読む前提として三国志の知識が必要になっているきらいがある。とは云え、三国志の知識が無くても話の筋は一応分かるように書いたつもりである。とは云え、やはり、三国志に興味が一欠けらも無いようだと、話の内容自体に興味が持てないかもしれないので、人を選ぶ作品ではあるだろう。そもそも、私の作品で人を選ばない物なんて無い気がする。また、この作品は話の構造も事実上二重に成っているので、良く云えば、相当、通好みの作品である。
 時代も中国南北朝の劉宋《りゅうそう》と云う、相当、特殊な位置であるし、主人公の沈慶之に至っては、中国南北朝の詳しい専門書に当たって初めて出てくるような渋い人選である。ついでに云うと、今回の主人公である沈慶之は比較的有名だろう梁の陳慶之とは別人である。日本語読みだと同音なのでまぎらわしいが、宋の沈慶之の方が前の時代の人だ。以上の話は一般人には一欠けらも興味を持ってもらえなさそうな題材である。だが、そこが良い。

〇掌編小説『仮面の意義』
 またしても中国南北朝の話である。中国南北朝は西欧で例えるならば古代ローマ帝国が滅亡した後の時代であるから暗黒である。なので、大体、惨《むご》い話になる。そして、救いが有る訳でも無く、ひたすら現実の惨さや理不尽さが続く。中国の歴史は生々しいので南北朝に限らず大体記述に容赦が無い。裏を返せば、とにかく現実的な知恵が詰まっているので通好みの味だと云えるだろう。
 さて、今回の主人公はあの方である。たぶん今ではだいぶ有名に成っただろう仮面の方である。おそらくもっと前面にあの方のお名前を出した方が作品を周知してもらいやすいとは思うのだが、先に正体を明かしてしまうよりも途中で主人公の正体に気付いてもらって嬉しい驚きを感じてもらいたい欲の方が強かった。とは云え、そもそも、わざわざ中国南北朝の小説を読むような兵《つわもの》であれば、仮面と聞いただけで正体は分かるだろうと気付いた。世知辛《せちがら》い。
 あと、この話は前振りの歴史解説が長い。作品の前半分が解説である。この時代は特に時代背景を知られていないだろうから仕方が無い面も有るのだが、そのせいで前振りで多く語られている侯景《こうけい》が主人公みたいな風情すら有る。侯景はやった事がもっと健やかであれば宇宙大将軍の肩書きと共に人気が出たかもしれないのに惜しい事だ。ともあれ、時代背景も込みで知ってもらいたい欲が有ったからこのような形式に成ったと思われる。
 ちなみに、私の読書的な嗜好《しこう》はだいたい中国の歴史によって決定されているようだ。中国の歴史書を読んでいると希釈《きしゃく》無しの現実を極めたような味わいに慣れてしまって、この分野からあまり外へ出られなくなる危険が有るかもしれない。日本の歴史は中国よりはあっさりしていて口当たりが良さそうな気がする。また、三国志の口当たりの良さは日本向きだから日本で流行り続けているように見えるのも頷《うなず》ける。ひきかえ、中国南北朝時代は内容がややこしい上に凄惨すぎるので、よほど歴史を改変して口当たりの良い物語にしないと中国の歴史沼に肩どころか頭の天辺《てっぺん》まで浸かってそうな患者もとい熟練者で無ければ付いて来られないかもしれない。とは云え、中国の歴史に一通り触れた後に顔を突っ込んでみると、まだこんなに興味深い話が残っていたのかと感じて得した気分に成れるかもしれない。
 

有料公開小説
〇掌編小説『僧形の陳慶之《そうぎょうのちんけいし》』
 陳慶之である。あの、七千の兵のみで中国南部から北へ向かって一気に攻め上がり、数万から数十万もの敵の大軍が波状的に襲ってくるのをことごとく粉砕して北の都洛陽を陥《お》としたと云われる稀代《きだい》[*1]の名将である。この北伐の部分を大いに膨らませて活劇にすれば少年漫画の連載物のように日本でも大いに人気が出そうである。だが、私の書いた今回の話の場合だと、私はもう戦争物は書きたく無いんだあ、な、気分だったためか、戦争の描写がほぼ存在しない。代わりに書いたのは、陳慶之が僧侶に化けて単独で南の都へ帰る途中で感慨にふけると云う、あまりにも静かな内容である。つまり、だいたい心理描写だけで話が終わる。とは云え、その分、陳慶之の思索を通じて、その事績と人となりを感じて頂けるのではなかろうかとは思う。小説を書いたり読んだりする事とは、それによって激しい刺激や英雄的な争いを求めるとか、劇的な感動や恋愛や芸術的な表現を求めるだけとは限らないはずだ。歴史を書くあるいは読む事で、時代や場所を超えて、知らない場所にて知らない思想や経験に触れる事が出来る。むしろ、それこそが歴史物の醍醐味ではないかと、最近では感じるようになっている。

〇掌編小説『阿梶局 対 徳川家康《おかじのつぼね たい とくがわいえやす》』温故知新の巻
 出た。とうとう阿梶局の登場である。それは誰だ、などと無粋な事を云う輩は知恵と勇気と愛によって成敗いたす。冒頭を読んだだけでは分からないだろうが、実はこの話は相当戯画的と云うか笑い話みたいな内容である。落ちも相当尖っていて演劇的である。とんでもない落ちだからと怒らないで欲しい。賢く勇ましき女傑である阿梶局のお裁きをとくとご覧あれ。
 あと、この話では徳川家康公の扱いが大河ドラマの『真田丸』並に大変な事に成っている気がするので畏《おそ》れ多いが、見方を変えれば、真田丸でやっているのだから私もやって良いだろうと云う感じで勇気をもらったとも云える。ありがとう。合掌。

〇掌編小説『不自由な織田信長』
 出た。とうとう織田信長の登場である。にも関わらず、こんな地味な話にしたのはどう云う訳だ。この話もだいたい信長公が森蘭丸を可愛がりながら胸の内を明かすだけの話である。織田信長と云う生き方は不自由なものであり、それ故に自由な相撲を愛する。齢《よわい》五十前、おそらく徳川家康公をもてなすために京へ上った辺りの話だろう。その際、信長公はもしかしたらこのような事を考えていたかもしれない。そのような事に思いを馳せる事が出来るのも歴史物の小説の美点ではないだろうか。

〇掌編小説『飛将軍李広の感嘆』
 以前から興味を持っており、今回、ようやく書いた飛将軍の話。話の出典は『史記列伝』であり、内容もおおむね出典そのままである。飛将軍は史実が劇的すぎるので、それをだいたいそのまま書くだけで小説に成る。李広の事を知らない方はこの話を読むだけでとりあえず李広の人生を理解した気に成れるかもしれない。とは云え、歴史上の李広の事を知りたいだけならばウィキペディアを読めば良いだけなのが痛いところ。あと、李広の事を詳しく知りたければ史記列伝を読むのが確実だろう。史記列伝は岩波文庫から出ているので入手も楽だろう。なお、李広は岩波の文庫本だと四巻に出てくる。ともあれ、今回の李広の話はほとんど歴史そのままとは云え、小説らしい味付けはしてあるので、ちょっとは情感を込めて読みたい方には悪く無い内容だと信じたい。ちなみに、話の内容自体は重い展開であるが痛快でもある。それもまた飛将軍の飛将軍たる所以《ゆえん》だろう。

〇掌編小説『毛利吉政最後之旅』
 毛利勝永の話である。だが、一級資料では毛利勝永は勝永と云う名前を用いていないと云う話を聞いたので、作中でも勝永と云う呼称は使わず、毛利吉政と云う本名で通している。また、現在使われている大阪の漢字は早くても江戸時代以降、正式には明治以降の表記らしいので、作中では当時の表記である大坂を用いている。『土佐遺跡志 - 国立国会図書館デジタルコレクション』を確認してみると、確かに勝永と云う名前は使われていないようであるし、大阪も大きな坂と書いて大坂である。
 さて、毛利勝永の話も李広同様かねてより書きたいと云う望み自体は持っていたのだが、以前、本屋にて見つけた毛利勝永の資料本の値段が高めだったので買うのを保留した結果として、資料が足りないまま月日が流れて書く機会を得られなかった。しかし、今回、ウィキを通じて国会図書館の資料に当たる事が出来たので書けるようになった。インターネットの情報すなわち信頼性が薄いと云う思い込みは良く無いようだ。
 話の内容は大坂の陣前夜であり、やはり、おおむね、勝永が供の者相手に自分の胸の内を滾々《こんこん》と語るだけの話である。とは云え、話し相手の性格や行動がかなり特徴的なので笑い話のような雰囲気も漂っている。とは云え、結局は大坂城へ向かう烈士毛利勝永の決意と胸の内を書いたものである。それを通じて戦う者の生と死について表現されている。
 ちなみに、お忍びで大坂へ入る話は真田幸村にも有るが、それは『名将言行録』に面白く書いてあるので、それをわざわざ小説にしてもだいたい出典そのままにしか書けない気がする。本当に有ったかどうかは分からないが生き生きした戦国武将の話を読みたければ名将言行録を買えば良いのではないか。出来れば私の小説も買って欲しいが、名将言行録の方が面白いと云われれば何も云い返せぬ。ならば、歴史こそ最強であると断云したくなる。我々歴史系の小説書きはその味付けをしたり新しい調理法を用いたりしてお客にお出しするだけである。そして、お出しする前に、作った料理を自分でつまみ食いする。それこそが創作者が頂く最初の報酬である。[了]

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注:
[*1]稀代。世にまれなこと。珍しいこと。(『広辞苑』)

写真:写真AC(灘 伏見提供)

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荒木免成

主に東洋の歴史や哲学を主題とした随筆や小説などを投稿する。

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