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ゾラ『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家 ゾラ傑作短篇集』

おはようございます。
毎日編み物をしながら暮らしたいアランアミです。

昨日の編み物🧶

写真は昨日のものではないけれど。
前見頃(右)が編み終わり、(左)を編み始めた。
(右)は後で編み直そう。テンションがちょっと緩い。


今日は久しぶりに読んだフランス文学から光文社古典新訳文庫からゾラの傑作短篇集を紹介します。


初めて読むゾラ

私は大学でフランス文化を専攻していたのですが、ゾラの作品は読んだことがありません。
画家のセザンヌの話題が出ると名前が上がる人(親友だったらしい)、『居酒屋』と『ナナ』を執筆した人、というくらいの認識でした。
Kindle Unlimitedで短篇集を発見したので読んでみることに。
タイトルだけ見ると怪奇小説なのかと思ったけれど、そうではなく人間の生々しさがコミカルに描かれていました。

収録されている作品は5つ。
ネタバレが嫌な方はお控え下さい。

『オリヴィエ・ベカイユの死』

表題の『オリヴィエ・ベカイユの死』はある日突然死んでしまったオリヴィエ・ベカイユが幽体離脱のような状態で自分の死後の様子を眺めている話。
死んだらどうなるんだろう、という疑問は万国共通なのかな。
そういえばこの作品内で宗教っぽさってない。19世紀後半のフランスではキリスト教の勢力は絶対王政のころと比べたら落ちてたんだったっけ。

自分は死んでいない、これは間違いだ!と足掻いていたオリヴィエ・ベカイユですが「死」を受け入れます。

さあ、僕は善良な正直者で、立派に死んだんじゃないか。生き返るなんて残酷で愚かなことをするのはやめよう。

ゾラ『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家 ゾラ傑作短篇集』光文社古典新訳文庫

最初の抵抗が嘘のように綺麗さっぱり無くなって、清々しく死んだことを受け入れています。

晴れ晴れとした死人となったオリヴィエ・ベカイユですが、最後の心の声はブラックユーモアで包まれています。

今の僕には、もう生きる理由がまったくないというのに、死神は、ひょっとして僕を忘れているんじゃないだろうか。

『ナンタス』

先の『オリヴィエ・ベカイユの死』が「死とはなにか」について言及しているとするなら、こちらの『ナンタス』は「幸せとは何か」について語られています。

野心を持ってマルセイユからパリへ出てきたナンタス。
「力こそ全て」と思っている彼はパリで一花さかせることもなく屋根裏部屋で落ちぶれていきます。
そんな彼に突飛な仕事が舞い込み、そのチャンスをものにして大成功を収めます。事業も上手くいき、地位や名声も得た彼ですが、それでも空虚な気持ちが膨れ上がるのは何故なのか。

そんなお話。

訳者解説によると、ナンタスが短期間で大成功を収められたのは第二帝政期の産業発展も大いに関係しているとのこと。
前時代では貧しい階級から出世するのに、聖職者を目指すしかなかったというのだから、この時代の社会構造が急速に大きく変化していた様子が感じられます。

『呪われた家 アンジェリーヌ』

誰も買わない呪われた家。
家に入ると「アンジェリーヌ!アンジェリーヌ!アンジェリーヌ!」という叫び声が聞こえるという。
それは40年前にその屋敷で死んだアンジェリーヌという少女を呼ぶ声なのか。
さまざまか噂が飛び交う中で、真相は。

「戻ってきているかって?ああ、友よ、誰だってこの世に戻ってくるとも。どうしてあの小さなかわいい女の子の魂が戻ってこないことがあるかね。あの子はまだあの場所に住んでいるのだ。自分が愛した、そして苦しんだあの場所にね。あの子を呼ぶ声が聞こえるのは、まだあの子のいのちが生まれ変わっていないからだ。また生まれ変わるさ、もちろん。あらゆるものが生まれ変わるのだから。失われるものなんて何一つないのだ。…(後略)」

短い話なのにぐっと引き込まれる力があって、最後は軽やかに去っていく。

生まれ変わりの死生観ってキリスト教的ではないけど、ゾラの宗教観ってどうだったんでしょうね。

『シャーブル氏の貝』

不妊に悩む45歳にして老人のような夫、シャーブル氏。
医者に勧められたのはとにかく貝類だけを食べること!
夫婦は海辺の町ピリアックにやってくるけれど、そこでシャーブル氏とは対照的な大柄でさわやかな青年エクトールに出会う…。
ちなみに若い妻のエステルは背も高く、美しく、溌剌としている。

なんとなく話の展開がわかるお話です。
段々とシャーブル氏が気の毒になってくる気もしますが、名家のご令嬢と穀物商として一財産築いた年配の男との間に愛があったかは定かではない。

舞台はブルターニュ地方のピリアックという町。
物語終盤で訪れるカステッリ岬の写真が載っているWebサイト(仏語)を見つけたので貼っておきます。


『スルディス夫人』

画家としては天才的な才能を持つが、人としてはロクデナシの夫フェルディナン。
天才的なセンスはないものの、絵の技術は確かで、献身的に夫を支える妻アデル。
才能とはなんなのか、幸せとは何かを考えさせられるし、歪なままがっちりはまってしまった夫婦関係はちょっとそっとじゃ外れない。
『シャーブル氏の貝』は読んでいて笑ってしまうコミカルさがあったけれど、こっちの話は静かな迫力があってある意味でホラーかもしれない。

輪郭のはっきりした作品

1冊読んでみて感じたのは、ゾラの作品は分かりやすくて面白い。
訳者解説でも書かれているけれど、ゾラの作品は構成がはっきりしているのが特徴のようです。
それはゾラが生活のために文筆業をしていたこととも関係するのかな。
大衆に向けて楽しんでもらうなら「分かりやすさ」はやっぱり必要なのか。
取り扱っているテーマも「死」「幸福」「結婚生活」といった普遍的なものだから100年以上経った令和の日本に住む私でも予備知識なしで楽しむことが出来る。

テーマは普遍的だけれど実際の物語の中は第二帝世紀の生活模様が描かれていて、当時のことをもっと知りたくなる。

あー、面白かった。


ではでは、良い1日を〜

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