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TOP interview vol.7

10年後の奥越を考える

人口減少や高齢化、空き家問題など、まちなかの景色はどんどんと老いていく。
不安に駆られて考えれば考えるほどブクブクと潜ってしまい、思考が停止しかける。
遠くない未来にやってくる地域の問題を業界トップの方々はどう見ているのか?
そんなお話をお聞きする企画です。

今回から大野市のお隣、勝山市まで「奥越」を1つのエリアと捉え取材していきます。
 
第7回は、繊維業のお話。
そして、自分達が暮らすまちの話。
 
今回取材させていただいたのは、縫製業の会社でありながら、会社の枠を一歩出て、まちでも活動している方。
なぜなのか?
 
会社はまちにあり、会社で働く人はまちで暮らす人。
まちを良くしていくことは、会社にも良い影響が生まれる。逆もそうだ。
まち、会社、産業は地続きで。
だからこそ、会社や産業としてまちにできることを取り組んでいる。
 
取材を通して、繊維業だけでなくあらゆる産業に関わる人とこの視点を共有したい。
これからの地域づくりに興味がある人みんなに読んでほしいです。
 
企画・編集:荒島旅舎 桑原圭  /  横町編集部 三浦紋人  /  地域おこし協力隊 山本響

Interview 7

株式会社ラコーム
代表取締役
織田研吾さん(45歳)
※2023年6月現在

文・図:山本響

>一着の服が私たちの手元に届くまで

そこまでには、無数の工程がある。
糸を作って生地を作る。
生地を裁断し加工する。
輸送して、店舗へ届く。
細かな工程ごとに分業が行われている。
 
株式会社ラコームは、生地から一着の服を形にするまでの工程を担う会社。社内ではさらに細かく分業が行われ、パターン、裁断、縫製、検査などの部署に分かれている。
 2017年、織田さんは2代目社長のお父さんから継業。先代は、お客様のニーズに応えるべく、効率よく生産できるシステムを整えた。
 しかし、ファッション業界に大きな変化が訪れる。

>「粘り」のある会社へ

「この15年間で、ファッションの流行り方がSNSと共にものすごい変わったんですよ。」
織田さんはそう話す。
 
以前は、例えば、スキニーが流行したらとにかく大量にスキニーを生産するというような、単品種・大ロットの生産。だからこそ先代の導入したシステムが活きた。
しかし、SNSによってインフルエンサーを中心に小さい流行がいくつも生まれるようになり、多品種・小ロットの生産が求められるようになった。
 
効率化だけではこの変化に対応できない。会社として「粘り」が必要になった。
 これまでの効率よく生産が行える縦のラインに加え、条件が変化してもカバーできる横のラインが大事に。
2つのラインで「粘り」を作っていく。

——横のラインって、具体的にはどんなことですか?

「裁断の部署が生地を縫っていたり、総務がボタンをつけていたり。
部署の作業をするだけでなく、他の部署にもサポートで入れるようにしたんです。」
 
もちろん、横のライン作りは最初から上手くはいかなかった。社員の方たちは、これまでのように同じ作業を素早くしていくことだけではなく、他の部署のことも覚えなくてはならない。
 織田さんは社員の方たちの声を聞きながら、オフピーク時に、サポートに入る部署の業務を覚えてもらう時間をつくるという仕組みを整えた。そうすることで、徐々に縦と横が交差する「粘り」のある体制になっていった。

会社の中を整えていく中で、織田さんは会社の外にも目を向け始める。


>会社の枠を一歩超える

2019年、“もっと好きなものを作ろう”と社員の方何人かと一緒に「The Each Base(イーチベース)」を始めた

また、勝山以外でも県外の専門学校での講演や学生インターンの受け入れなどを始めるようになった。初めてのことが多く、The Each Baseの活動やインターンの受け入れなどを模索しながら行っていた。
 

そんな中、知り合いからドイツのまちづくりに関する本を勧められた。

読む以前から、活動を通じて出会った方から「まちは自分達でつくっていける」という考え方を知り、まちづくりに興味を持っていた織田さん。
 なんと、本を読んだだけでなく、その著者に会いにドイツまで足を運んだそうだ。

訪れたのはエアランゲンというドイツの10万人規模の都市。
 
「一番印象に残っているのは、いい街にするためにはまちで人を育てる必要があるという概念でした。」

エアランゲンでは、
700以上のNPOが行政が行うようなサービスを担い、行政のお金は教育へまわす。
その結果まちでは良い人材が育つ。
良い人材を求めて会社がエアランゲンへ移転をしてくる。
会社は税金を納め、まちとしても豊かになる。
こんな循環が起きていたそうだ。
 
ドイツでは仕組みとして、良い人材を求めて会社が移転することができるが、
日本ではそれは難しい。会社が移動できないのであれば、会社が立地するまちを変えていかなければならない。

「勝山でも人を育てないと、と思いました。」

>まちで、会社で、人を育てる

とはいえ、「人を育てる」とは具体的にどんなことか?
 1つは、まちで育てる。もう1つは、会社で育てる。

「まちで育てる」その具体的な場所の1つとなっているのが、先ほど出てきたThe Each Baseだ。模索しながら始めたThe Each Baseは、ドイツの視察を経て「人を育てる」場へと方向性を定めた。
 現在は、シルクスクリーンを使ったものづくりの体験などを通して、ものをつくる楽しさを感じられる場となっている。
 
体験をしてもらうことで、
「苦手意識を持っていたけど、こんなに簡単にできるんだ!」
と、つくることへの意識が変わるそうだ。

そして、「まちで育てる」には、クリエイティブについてなどの知識や感度を上げていくことやみんなで学んだことを共有していくことも、大事だと織田さんは話す。

そうやってまちで人を育てていくことで、自然と面白い人がまちに集まり、会社の採用などにもつながる。会社に入らなくとも、まちで新しいことを始める仲間になっていけるのだそう。

——もう1つの「会社で育てる」についてはどうでしょうか?

安心して働ける環境をつくることで、社員の方から何かを始める動きを作っていくことが大事だと織田さんは話す。
 
加えて、
「仕事の楽しみ方として、覚えたものは形にしてみてということも伝えています。」
 
例えば、刺繍を覚えたら、ワッペンを作れるようになる。それを友達や子供たちにつくってあげる。そんな風にして仕事で覚えたことを形にし、まちでシェアしていく。自分の仕事が誰かに喜んでもらえることで、楽しく仕事をする人が増えそうだ。
 
会社で人を育てていくことは、自分から何かを動いていく人や
仕事で覚えたことを楽しみながらまちで活かしていける人が増えていくのだそう。

「まちで、会社で、人を育てる」 その先にあるものは何か。

>産業とまちの親和性を高める

「僕は、産業とまちの親和性を高めたいんです。」
 
例えば、The Each Baseは会社の枠を一歩超え、販売やワークショップなどを行なっている。会社としてできることをまちでもシェアしている。これは、繊維業の会社として、まちとの親和性を高める1つの方法だ。
 
そして、The Each Baseだけではない。
「例えば、勝山の代表的な観光地の恐竜博物館。お土産の仕入れの90%を市外から行っているのであれば、市内で完結するあり方を考える。更には、そのような課題を発掘し解決するための人材を育てる地域教育を考える。こんなことも必要です」
産業とまちの視点から見ることで、これからの可能性も沢山見えてくる。

これまでは、産業自体の細分化や個人個人のライフスタイルの変化によって、
 産業は産業。まちはまち。そんな風に分離が起きていたのかもしれない。

でも、会社はまちにある。そして、会社で働く人たちの多くは、勝山や大野、その地域で暮らす人たちだ。
 
まちで人を育てていくことで、面白い人がまちに集まり、その人たちが会社の仲間になっていける。
 
会社で人を育てていくことで、仕事で得たスキルを、楽しみながらまちで活かしていける。

まちと会社(産業)は地続きだ

産業とまちの親和性を高めることで可能性が生まれる。
 
「まちのためにっていう会社が増えたら、社員がまちのことを考えるようになるかもしれない。それが会社として評価されるようになったら、色んな会社が、まちの課題に会社としてできることをやっていくと思います。」
織田さんはそう話す。

織田さんは、まちで会社で、「まちと会社(産業) を地続きに見て行動していく人」を育てていると感じました。
 大野にも、勝山にも、地域社会や産業にはいくつもの課題があり、根が深いものが多い。例えば、地域の空き家だったり、産業の担い手の問題だったり。ついつい視野が狭まってしまうけど、違う業界の人と一緒に考えてみたりと視点を一段上げて、産業とまちを地続きで見ることでできることはまだまだあるんじゃないかと取材を通して感じました。

>編集部memo

・産業とまちの親和性を高める
・まちで、会社で、人を育てる

編集部が図解する!「織田さんの頭の中」

今回記事に載せきれなかった話も多く、図にしてみました!
 
お付き合いいただきありがとうございました。
ご意見・ご感想などありましたらコメント欄によろしくお願いします。
次回もお楽しみに!

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