山田和樹 マーラー・ツィクルス 第8回

6月4日(日) 15時開演 於Bunkamuraオーチャードホール

武満徹:星・島(スター・アイル)

マーラー:交響曲第八番 変ホ長調「千人の交響曲」


6月4日オーチャードホールにて行われたコンサートの感想です。

マーラーの第八番は、その場にいたことだけで、音楽が鳴り響いている時間を共有したことだけで価値があると思えるような演奏でした。終章近く、それまで宇宙の真理を隠していた神秘的なヴェールが開かれ、全く新しい音響が鳴り出す瞬間がありました。以前も同じように山田和樹さんがヴェールを開いてくれたことがありましたーー確かやはり同じマーラーのアダージェット、その時は薄い紗の夜の帳がゆっくりと開かれていったようだったのですがーー、今回聞こえたのは宇宙からの音楽でした。合唱のひそめた声は、第二部最初の男声合唱が回帰したようにも思えましたが、後者が森のざわめきや静けさを表しているようだったのに対し、ここでは空からの呼び声に聴こえました。その後の高らかなファンファーレと最後の和音。願わくはその余韻をもう少し聴いていたかったのですが、やや気の早い拍手にかき消されてしまって…。三人の女声のソロと合唱部分もとても美しかったです。20年後あるいは30年後、再演したとしたらどんな演奏になるのか、私は何を聴き取るのか、また聴いてみたいと思いました。

印象に残ったものは沢山ありますーーホルンの音色、ピッコロ、児童合唱の声、トロンボーンの割れた音、第一部でのモティーフの軽々とした演奏、第一ソプラノの糸が繋がっていくような音の伸び、第二ソプラノの澄みわたる高音。第一部冒頭から始まる合唱の声の波。こうやって書いていると書き切れません。「スター・アイル」でのオーボエのソロ、這うような振動で会場を揺らしたコントラバス。和音の、濁っているのに美しいという不思議さ。マーラーでのヴァイオリンソロ、そして絃楽器トップの四重奏。絃楽器の音色というのは、なぜこんな贅沢な気分をもたらすのだろうと思いました。

この本番に至るまでの練習、そして合わせ、公演に関わった各人の努力やこの作品に取り組んだ時間を考えたら膨大な数値がはじき出されることでしょう。そういった意味でも、このような公演は並大抵ではできることではないと思いました。合唱、ということを考えると不思議な気持ちになります。誰一人として同じ声の持ち主はいないのに、音程や声量、声質を揃え全員で一つの響きを作り出す。今回の公演でも、客席の遠くからでも一人一人が個性を持った、違う人格なんだということがよくわかり、本当に一人一人の声からこの響きが生み出されているんだということに感動を覚えました。揃えることに対する自由度は違いますが、様々な人が集まって演奏する中で皆が気持ちを一つに合わせ、一つの拍に集結したり、テンポや雰囲気の変化を楽しむ点はガムランにも通じるものがあると思いました。

聴かせてくださり、ありがとうございました。最後まで読んでくださった方も、ありがとうございました。

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gotoyuzu

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